お気に入りの若草色のシャープペンシル。ノック部分を数回押して、芯を出す。
出したは良いが、手はそこから動かない。その下には紙、正確に言うと、進路希望の調査票が横たわっていた。

「まだ書けないのか?」
「んー」

前の席の風丸が、椅子を少し傾けながら私を振り返る。

「風丸だって、書いてないじゃん」
「まぁ…そうだけど」

ため息混じりの風丸。サッカーの強いところに行くか、将来的に就職に有利なところに行くか─で、迷っているらしい。

私だって、行きたいところはあるにはある。
「今の成績では少し、なぁ」なんて、言ったら先生に半笑いされそうな、学校。
まだ一年あるんだから、それまで頑張れば希望がないわけではない。ないんだけど。

「…やっぱり、無理かな」
「何だ、行きたいとこあったのか?」

目敏く私の口が動いたのに気付いた風丸が視線を寄越す。
言え、と言わんばかりの顔をする彼に負けて、私がボソボソと続けると、風丸はハアともふうんとも付かないような返事を返した。

「じゃあ俺も、そこにしよう」
「…は?何でそうなるの」
「そこ、結構サッカー強いんだ」

自分の調査票に文字を書き入れながら、風丸は答える。強いんだ、あそこ。知らなかった。

「ほら、名字も書けよ」
「ん、私、は…。あ、ちょっと!」

むっと風丸は唇を尖らせ、さっと私の調査票を自分に向けると、カツカツと自分の欄に書いてあるものと同じのを書いてしまった。あーあー。

「まだ頑張れる期間はあるのに、諦めてどうするんだ」
「うう、だって…」

だっても何もない、と調査票を私の眼前に突き出す風丸。
前が紙で見えない状態に私がもだもだしている間に、風丸は続けた。

「行けるよ、名字なら。一緒に頑張ろう」

紙を捲って見えた風丸の顔は、ちょっと赤くて、だけどサッカーしてる時みたいにイキイキしていた。
しかし、これだけで何となくいけそうな気がしてくる私は、本当に単純である。

私が小さく頷くと、風丸は嬉しそうに笑った。


空だって飛べる
20110513