授業中は大体上の空。窓の外に気を取られては、先生に怒られることもしばしば。
こう述べたように、私は一介に真面目で勉強熱心な生徒とは全く程遠い人間なのだが、これでも本気を出す時は勿論ある。
一つは大好きな体育の授業。そしてもう一つは、
「(…あ、やべ)」
カチリ、と時計の針が進む。キーンコーンカーンコーン、と聞き慣れたチャイムが学校中に響き、先生が「今日の授業はここまで」と言い終わる前に─私は教室から飛び出した。
「ちょ、こら名字!!」
「スイマセン先生私にも事情があるんですー!!」
走り去りながらの私の弁解は果たして先生に届いたか否か。
前者か後者かも分からないままチラリと後ろを振り向き、思わず口元をひきつらせた。
「ま…った逃げやがったな名字ーーッ!!」
私の教室をのぞき込むようにしながら、肩に着く髪を振り乱し獲物を逃した山姥のごとく激高する彼。
隣のクラスの佐久間次郎。その小脇にはサッカーボールが抱えられている。
あれはどのくらい前のことだっただろうか。
多分一週間くらい前だと思うのだが、その日あった体育の授業が原因だ。
その日は外が雨に降られていた為、広い体育館をネットで仕切り男子はフットサル、女子はバドミントンをしていた。
そんな中、友達の試合の審判役をしていた私に降り注いだとある悲劇。
『あ、危ない避けろ!』
ギョッとしたような怒号と共に、何というか形容しがたい凄まじい威力を持ったボールが、ネットを突き破って私に突っ込んできたのだ。
そのままボールは私の後頭部にぶち当たり意識はブラックアウト、目を覚ますと病院にいて、頭部強打が原因で記憶喪失になってしまった……。
…というのは勿論冗談で。
テイク2。凄まじい威力で突っ込んできたボールを、私は反射的に蹴り返してしまったのである。
伊達に小さい頃から色んなスポーツに手は出していない。蹴り返されたボールは、(たまたま)出しっぱなしだったバスケットゴールに収まった。
一瞬の静寂、その後の歓声。
友達に心配されたり賞賛されたりわちゃわちゃとしている私に駆け寄ってきた、ボールを蹴った張本人は、まず始めに悪かったと謝罪した後─めちゃくちゃ輝いた目をしながらこんなことを言ったのだ。
「いい加減諦めて俺と勝負しろ名字ッッ!」
「うわあ!?」
やっべ回想に浸ってたら追いつかれてた。再び廊下を激走する私、それを追う佐久間。
そう。サッカー部エースの佐久間は、自分の蹴ったボールを蹴り返した私に、「勝負してくれ」と頼み込んだのである。
しかし私がそれを、「え、めんどい…」と思わず一蹴してしまったのが事の始まり。
どうやら地雷を踏んでしまったらしく。佐久間は次の日の休み時間から私に構うようになった、という次第である。
構うようにっていうか、一週間もこれを続けたせいかもう色々と切れちゃってるんだけど、佐久間。
そんなわけで私は今日も今日とて、走って走って佐久間から逃げ回る。
既に勝負が面倒だという気持ちは消えている。佐久間と鬼ごっこ紛いのことをするのが楽しみになった─という訳ではなく、追いかけてくる彼の様子がガチで恐怖だからである。
美人が怒ると大変なことになるって、本当だった。
そして走りつづける私は知らない。佐久間が途中で遭遇した部の友達と、毎回こんな会話を繰り広げていることを。
「佐久間、そろそろ諦めたらどうだ?」
「うるさい、口出しするなよ源田!俺はあいつに勝たなきゃ気が済まないんだ!」
「まぁ、それもそうだよなぁ…好きな子に負けっぱなしっていうのも、格好付かないしな」
「うわああああああ!でかい声で言うなバカ源田!!」
ランナーズハート
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