突然愛媛に飛んだと思ったら戻ってきて、今度は世界と来た。

「あんたって本当に根無し草よね…」
「るっせぇ」

溜息を吐きながらぼやくと、明王が私の肩に顔を埋めてもごもご言うのが聞こえた。

充電させろ、と。
─何の連絡もなく家にやってきた(と言うか窓から不法侵入してきた)彼に、為すがまま抱きすくめられて早10分。そろそろ体勢を崩したいのだが、明王の腕がそれをさせてくれない。
いつもとどこか違うその様子に理由を問えば、明日からサッカーの大会で海外に行くらしく。少なくとも、一ヶ月は戻ってこないとのこと。だからこうして、こっそり合宿所を抜け出してきたらしい。

「まぁ、あんたがフラフラしてんのは昔からだけど…。直接挨拶に来るなんて初めてじゃない?」

そう。明王は今まで何度も姿をくらますことがあったが、こうして事前に会いに来ることなんて今まで一度もなかった。
基本的に、いきなりメールで愛媛に行ってくるだの簡潔にそれだけ告げて、しばらくしたらお土産を携えてひょっこり帰ってくるのである(その時のお土産は蜜柑だった)。
尋ねると、明王はピクリと肩を揺らして、ようやく私の体を離す。
やっとまともに見ることの出来た明王の顔は、いつにもまして何やら真剣そのものだった。

「…充電っつったろ」
「とどのつまり少し寂しくなったと」

どうやら図星だったようで、ゴッと頭を小突かれた。コツンとどころじゃない。予想以上に痛い。
痛みに悶える私を、明王が「アホ面」と笑う。

「じゃあ、次のお土産は優勝旗ってとこ?」
「ま、旗は無理でも写メくらいは送ってやるよ」
「そう」

楽しみにしてるよ。微笑むと、おうと明王は私の頭をかき混ぜた。
開け放ったままだった窓の桟に足を掛ける彼を立ち上がって見送ろうとすると、ふいに顎が掬われる。
そのまま私の唇に軽く自分のそれを押し付けて、明王は珍しく照れたような色を混ぜながら、ニッと笑った。

「行ってくる」


ハニーディップの唇
110107