「頼んだぞ、日直組」
なぁんて。にこやかに職員室へ向かうあのタヌキ教師に黒板消しの一つでもぶん投げることが出来たならどれほどスッキリしたことだろうか。
ぺったんぺったん履き古したスリッパの音を響かせて去っていく先生の背中を見つめた私は、当番の片割れである半田と目を合わせて重苦しいため息を吐いた。
教室に戻ってすぐ目に付くのは、教卓の前の誰ぞの机に高く積まれた書類の山。その隣にはしっかりと2つのホッチキスが置いてある。
その片方と書類の束をひっつかみ、角の辺りを挟んでバチン!と留める。延々と、これの繰り返し。
「今日が雨じゃなかったらな…」
「ちょっと。私一人にやらせる気だったっての?」
ザンザカ雨の降る窓を見つめながら、またバチン!と書類を留める半田を睨みつけた。
雨が降り出したのは今日の午後からで、他クラスの円堂が至極残念そうな顔で「今日の部活は中止だ」と半田たちに伝えに来たのは昼休みのことである。
仕事は面倒臭い。雨は降っている。それでも今日が一概に厄日だと言えないのは、半田が隣にいるからだ。
ここにマックスがいなくて良かった。もしいたらからかわれてそのまま終わりだったはずだから。
でも、こうして大した会話もなく終わるくらいだったらあいつがいた方がまだマシだったのかも。
一人脳内で議論を繰り広げていると、半田がくしゃみをした。
「あー…寒い」
「雨、降ってるし。気温が下がったんでしょ」
淡々と、可愛げもなく返す私を気にするでもなく半田はただそうかと頷くだけだ。
「名字、カイロかなんか持ってないか?」
「……ほら」
ポイッとポケットに入れていたカイロを放ると、半田が少し慌てたようにそれをキャッチする。
「あったけー」
幸せそうな顔をしてカイロを握りしめる半田を横目で見ながら、私はまたバチン!とホッチキスを鳴らす。
ふとこちらに視線を寄越した半田が、少し眉根を寄せた。
「あ、ゴメン名字。カイロ取っちまって」
「別に。私は寒くないし、あげるよ。それ」
「いや、それは嘘だろ」
鼻、赤くなってる。言われて私は慌てて鼻を覆った。横では半田がカラカラと笑っている。
「だから無理すんなっつったろ。ほら」
「う、わ!?」
途端、ペタンとカイロを持った半田の手が、私の首筋にくっついた。急に触られたことと熱を持った半田の手を反射的に意識してしまって、私は声を上げる。
ガチャン、と手からホッチキスが滑り落ちた。
「な、にすんのこの中途半田!」
「いてっ何も叩くこと…あだ!」
腕を伸ばして半田の肩を思い切り叩くと、情けない悲鳴が漏れる。
悪かったってばと私の腕を掴んで殴られるのを阻止した半田は、眉尻を下げて苦笑した。
「まさかあんなびっくりするとは思わなくてさ」
「るっさい!」
ここで、あんたが触ったせいだだの、他の奴ならここまで反応しないだの、本音をちらつかせることが出来たらこいつはどんな反応を返すのだろうか。
しかし悲しいかな、そんな勇気は髪の毛一本程も持っていない私は俯いて、半田の足元に転がった仕事道具を憎らしげに見つめることしか出来ないのだ。
ホッチキス、とって
タイトル/DOGOD69
110105