「やっと退院したと思ったらまたとんぼ返りとか何なわけ?幸次郎はそんなに病院が好きなの?バカなの?死ぬの?」
「そういうわけじゃ、」
「あ?」
「すいませんでした」

林檎の皮を剥きながら早口でまくし立てるのは俺の幼なじみである。
言葉を続けるうちにも名前の手の中では、みるみる内に裸の林檎が量産されていく。

「大体さぁ夢を叶えるだか越えたいものがあるとか男のロマンってのはよく分かんないよ。せっかく良くなったんだからちったぁ大人しくしとこうとか思わないわけ?それで死んだりしたらどうすんのさ。そんな病院暮らしが気に入ったなら美人ナースときゃっきゃうふふしとけってのよ!!」
「…美人ナースよりも、お前のほうがいい」
「…」

ダゴン、と林檎にナイフを突き刺した名前の顔が、手元で刺殺体となっている果物と同じ色になった。
ここで一つ訂正。
彼女は俺の、幼なじみ兼、恋人である。

「…どうしてそういうことを真顔で言えるかな、幸次郎は!」
「そうか?これでも大分恥ずかしかったんだが」
「こっのポーカーフェイスやろう!」

ボカ、と俺の頭を殴って(地味に痛い)名前は右手で顔の半分を被うと、目を潤ませた。

「今度同じことしたら、幸次郎のこと嫌いになってやるんだから…」
「大丈夫だ、もうしない」

手を伸ばすと、ゆっくりと、俺の怪我に障らない程度に抱きついてくる名前。
そうだな、彼女に嫌われるくらいだったら、体を壊す方がましだ。
会う場所だって、病院なんかよりも、日の当たる彼女の部屋の方が心地良い。

微かに肩を振るわせて涙を零す名前の頭を撫でながら、思わず「お前ホントに可愛いな」と本音を漏らすと、また殴られた(凄く痛い)。




「…お前ら、痴話喧嘩ならよそでやれよ」

あ、佐久間が隣で寝てること忘れてた。


アンチ・エデン
タイトル/水葬