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最近、放課後の野球部の見学をせずに帰ってくることが多かった。というのも合宿中はなんだか見学しづらいと勝手に思って見学にはいかなかっただけだけど。合宿はついこの前終わったらしい。でも今日は野球部を見学しない理由をあげるとしたらただ眠かっただけだ。
昨夜、遅くまで起きて撮り溜めたプロ野球の試合を観ていた。次の日は非番ということもあって、途中から父親も一緒になって観ていた。あの選手は体幹を鍛えるべきだとか、あの選手はもう少し体の柔軟さをつけるべきだとか、あの選手は、あの選手は、とワンプレーごとにダメ出しをしていた。パッとすぐ流れていく映像でも一瞬で父親なりのアドバイスを出せるのがすごい。瞬時に判断できるのは、それ相応の経験と努力があったからだろう。とても尊敬すべき存在だ。そんな父親と熱中してテレビにかじりついていたため、案の定就寝時間は遅くなり、睡眠時間もまったく足りていない状況だ。
夕暮れ時の静かな住宅街を大きな欠伸をしながらだらだらと歩いていた。そういえば明日は土曜日だ。次の日が休みの日にテレビを観るべきだったのでは…というのに気づいたのはたった今。


「かよこ!」


そこの角を曲がれば家が見える。というときに大きな声で私の名前を呼ぶ人がいた。その人は私の家の前にいて、声だけで誰だかすぐにわかった。
小さい頃から一緒によく遊んでいた幼馴染み。よく自分が所属する少年野球チームだったりシニアの試合を観に来てくれとずっと誘っていた幼馴染み。まあ、結局一回も観に行かないで今になるけど。
というか。


「高校って寮じゃないの?」

「明日の朝にすぐ帰るよ!予選の組み合わせ決まったし、いい加減かよこに観に来てほしくてさ!」

「そんなの試合の日程見ればわかるよ」

「そうだけど!かよこは薄情だから俺がちゃんと言わないと来ないじゃんか!てか、ちゃんと言っても来ねえし!」


そうわんわん喚くのは幼馴染みの成宮鳴。
鳴はシニアのときに知り合った人たちと一緒に推薦で稲城実業高校の野球部に入った。投手としてのセンスは凄く、色々な高校からのスカウトがあったと訊いている。実際に鳴の試合は観に行ったことがなく、どれだけ凄いのかは実は知らない。私から見れば、ただの我が儘で自己中な小学生にしか見えないんだけども。
稲実から私たちの地元までは少し通学に時間がかかる。正直、青道までも遠いと思うことはあるけど。鳴はスカウトで稲実に入ったから高校は野球漬けの毎日になることが決まっていて、この通学時間が練習に差し支えるために寮に入った。会うのは中学校の卒業式以来だから丸々3ヶ月振りというかんじ。まったく変わってない様子で少し安心したけど。


「なんでかよこは昔から俺の試合観に来ないんだよ!俺はかよこの出てるテレビ観てたし雑誌も買ってたんだぞ」

「え、それ初耳」

「俺はかよこのこと観てるのに、かよこは俺のこと観てくれないとかずるい」

「鳴ちゃん、それ一方通行にも程があるよ」

「茶化すな!!」


まるで子どもだ。肩に掛けていたエナメルバッグをバンッと地面に叩きつけて怒る鳴。駄々っ子か。春休みから稲実野球部の練習に加わってちょっとは我が儘が直ったかと思えば…本当にまったく変わってない。さっきの少し安心するというのを撤回したい。こんなので変わらずいるとか心配だ。名門校の運動部って上下関係厳しそうなのに。干されてないのかな。


「鳴って夏大のベンチ入りメンバーなの?」

「当たり前だ!」

「うわ…素行で外されなくて良かったね…」

「さっきから失礼だぞ、かよこ!」


「褒めろ馬鹿!」と叫ぶ鳴。ご近所迷惑だよ…と思いながらも、たまたまそばを通りかかった買い物帰りのお向かいの山中さんが「あら、鳴ちゃんにかよこちゃん。全然変わらないわね」なんて笑いながら言われた。「おばちゃん!俺、絶対甲子園行くから応援してよな!」と手を振りながら鳴は言った。
いつもどっから湧いてくるのか不思議なくらい自信たっぷりで、少年野球もシニアも、試合があるごとに"俺、絶対負けないから見に来いよ!"と言いながら誘っていた。高校に入ってから更に強い人たちと接しているのだろうけど、いまもその自信はご健在なのか。


「ていうか、こっち戻ってすぐにかよこのおばちゃんに会って教えてもらったけど、青道入ったの訊いてない」

「言ったなかったっけ」

「訊いてない!卒業式のときに笑って誤魔化されたし!どうせ野球観るんだったら稲実でもいいじゃん!ほんっと青道ってなんか美味しいとこ持ってくよな!」

「どういうこと?」


ぷくっと頬を膨らませて私を睨みつける鳴。鳴は青道があんまり好きじゃないのだろうか。どういうことと訊いても、ふんっとそっぽを向くだけ。完全にヘソを曲げてしまったのか。
こういうところも昔からこうだ。同い年ながら鳴は弟っぽいというか。末っ子の男の子で上に姉が二人もいればこんな性格になるのかな。


「夏大は青道じゃなくて稲実応援しろよ!」

「えー1割くらいね」

「10割だ!絶対甲子園行っててっぺん取るからな!見てろよ!」


ニヤッと笑う鳴は本気だった。我が儘で自己中な小学生のくせして、こういうところだけかっこつける。


「かよこが稲実来て野球部入ってくれたら"甲子園連れてって、てっぺんの景色見せてやる"って漫画みたいな台詞言えたんだけどなー」


知らない間に気障な言葉まで覚えてしまったのか。
鳴自身もニシシと照れ臭そうに笑っているけど、言われたこっちのほうも十分恥ずかしい。小学生だとか弟みたいとか、数分前までは思っていたけど、ちゃんと年相応には成長しているのかな。よくわからないけど。


「まあ、学校は違うけど応援してるよ」

「しょうがないな。久しぶりに今日は俺様がかよこのマッサージの練習台になってやろう」

「え、やだ、疲れる」

「少しは俺のこと応援しろ!バカかよこ!」



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