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「鈴森、俺と付き合って」 よく勘違いをされるが実は初めてなのだ。告白というものは。 昼休みに同じクラスの田谷くんから、放課後を少し時間がほしいと言われた。「あーうん、いいよ」と、二つ返事で引き受けて今に至る。初めはこういう展開になると思っていなかった。だけど放課後になって、「人がいるところじゃあれだから」ということで、田谷くんの後ろを追い、校舎裏に着いたところでハッとした。これはまさか告白か、と。 「芸能人だからとかそういうのじゃなくて、鈴森と話して鈴森のこと好きになったんだ」 ちなみに田谷くんはバスケ部期待のルーキーだ。身長も高くて顔も整っている。ふと御幸のことが浮かんだ。御幸も身長高いし顔も悪くない。そして名門野球部で1年生にして正捕手だ。田谷くんとステータスが似ているなぁと思ったが決定的違いがある。それは友達がいるか否か。田谷くんは性格が良い故に交友関係も広い。クラスではいつも彼を中心に輪ができている気がする。それに比べて…。あえて言及はしないでおくべきかな。 「鈴森?」 「あ、ごめん、ぼーっとしてた」 御幸の残念さを思い浮かべていたら私の気はそっちに移っていたのか、田谷くんは私がぼんやりとしていることに気づいた。肩にぽんと手を置かれ、顔を覗き込まれた。相手は真剣に話しているのにぼんやりとしていた私に不満ひとつもない顔でにっこりと微笑まれた。 私も本題についてちゃんと考えよう。そもそもなんで田谷くんに告白されているのか。私の交友関係ランキングがAからEの5段階あるとして、倉持と御幸がAで、顔と名前はわかるけどあまり話さない人がEとしよう。そしたら田谷くんはDだ。たまに話す人。そんなかんじ。私にとって田谷くんはクラスの人気者で遠い存在。よく話す人ではない。 だから、 「ごめん、付き合えないです。田谷くんのこと好きとか嫌いとかないんだ」 「うん。だからこれから俺のこと考えて欲しいんだ」 どういうこと…だろう。私は断っているのに田谷くんは悲しい顔は一切しておらず、むしろ爽やかな笑みを浮かべている。断っているのにこれからの話をされて、この人に私の言葉は通じているのか疑問を感じさせられる。 「俺は鈴森のことが好きってことを鈴森は知ったうえでこれから仲良くしてほしいんだ」 つまり彼は"好きではなかったけど、好きと言われて好きになってしまった"という展開を期待している、ということなのだろうか。正直そんなことあり得るのかと思ってしまうけれど、案外ない話ではないようだ。実際、私の友達でそういう子が何人かいた。所詮、中学生や高校生のお付き合いなんてその時だけの薄い付き合いなんだと思うけど。付き合ってみたいから付き合うという人も少なくないだろう。いわゆる"カップル"という称号が欲しいのだろう。でも、私なら、薄い感情での付き合いをするくらいなら"カップル"という称号に魅力は感じない。 「私、そういう中途半端なことできない」 「俺はいつまでも待てる」 どうしよう。思っている展開と違う。私はさっきもはっきりと断った。なのに、なぜ、なんで。田谷くんってこんなに聞き分けの悪い人だったのか。私、ここまで粘られるほど田谷くんに好かれているのだろうか。どうしよう。 「でも本当に、ごめん田谷くん」 素直に頭を下げて謝った。付き合えないという意味と、いますぐに解放してほしいという意味を込めて。頭を下げているとき、ああ…明日から気まずいな、と思った。頭を下げている間、田谷くんは一言も喋らなかった。ゆっくりと頭を上げて田谷くんの表情を伺えば、ぽかんとした表情で私のことをぼんやりと見ていた。 もう行って大丈夫かな。そう思い「ごめんね」とまた謝り、そっぽを向いた。 「鈴森…!」 「わっ!」 そのまま逃げるように立ち去ってしまおうと思ったら、田谷くんに腕を掴まれ、逃げることができなくなってしまった。 本格的にどうしよう。精神的にも物理的にも逃げることができなくなった。彼を聞き分けさせるにはどうすればいいのかまったく思いつかない。かといってオッケーをしてこの場の収集を図ることなど論外だ。 「おい、鈴森困ってるだろ」 そう悩んでいるとき、エナメルバッグを肩に下げ、部活に行こうとしている倉持が目の前にいた。そういえば、ここは野球部のグラウンドへの近道だった。抜け道だから野球部の人もあまり使わないらしいけど、こういうときに限って知り合いは使ってしまうのだ。 しかもまだ関係がギクシャクしている倉持と会ってしまうとは。 倉持は私と田谷くんの様子を見て、すぐに状況を把握したのだろう。私と田谷くんの顔を何回か見たあと、大きな溜め息をついた。 「行くぞ鈴森」 「あ、えっと、田谷くんごめん」 「鈴森って本当に野球部のやつらに人気だね」 倉持に腕を引っ張られ、半ば強制的に田谷くんから引き離されたわけだけど、最後に田谷くんは困ったような笑顔で「叶わないな、倉持たちには」と小さな声で言った。独り言だったのかもしれない。でも私の耳にはしっかりと届いた。 確かに倉持たちには過保護にされているなぁと他人事のように思いながら。 |