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「ひっ」 蛇に睨まれた蛙。いままさにそんなかんじ。 なんでこんな状況かと言うと、私もわからない。田谷くんの告白から助け出してくれたのは倉持だった。助け出してくれた後、すぐに解放されるかと思いきやそんなことはなく。今度は倉持に捕まり、野球部のグラウンドのほうに連行されている。先ほどからずっと手首を掴まれ、引っ張られるように後ろをついて行っている。ちなみに倉持とはまだ気まずい状況のままだ。連れて来られたのは野球部のグラウンド付近の通り道。ここはあまり人がいない。でも遠くにグラウンドが見える。授業が終わると野球部の人たちは真っ先に部活に来るのか、すでに練習着姿の人がグラウンドにちらほらといる。 私はそんな人たちを余所見していたら倉持は急停止し、前を見ていなかった私は倉持の背中にタックルをかました。でも倉持は全くお構いなしと言った様子で、振り返り、私を睨みつけた。それも無言で。 「な、なんでしょうか…」 さすが元ヤン。睨みの効かせ方が違う。私はここで焼きを入れられてしまうのだろうか。倉持もすぐ練習に参加しなきゃいけないだろうから、そんなに長い時間睨まれることはないだろうけど…。しかし、「く、くら、もちくん?」と訊いても倉持の反応は一切ない。なにを考えて私のことを睨みつけているのだろうか。遠くから野球部の誰かの大きく張り上げた声が聞こえた。夏に向かって気合満点といったかんじの声だ。 「初戦」 「え?」 「観に来るよな」 「う、うん、日曜日だよね」 ようやく発した言葉は夏大の青道初戦のことだった。まだ学校が夏休みに入る前。勝ち進めば平日に試合が当たることになるけど、確認したところ幸いなことに初戦は日曜だった。暑い夏空の下は嫌だけど、応援には絶対に行きたい。目の前で青道野球部の野球を見てみたい。 「お前も野球部がスタンドで応援してる近くに来いよ」 「ええ、それはさすがに厚かましい気が…!」 にやっと笑う倉持だが、言っていることはなかなかに大胆なことだ。野球部がたくさんいるところに私がぽつんと入るなんて。きっと近くにはチアガールやブラスバンド部がいるような、バリバリ応援してるような環境だ。そこに部外者の私が入るのは難易度が高い。そもそも、野球部といえど知り合いは同じ学年の数人で10人もいないだろう。行ったところで私のことをフォローしてくれる知り合いを見つけられる自信はない。このままでは確実に浮いてしまうこと間違いなしだ。 「少しは"部活"っていう雰囲気味わってみろよ」 「へ?」 野球部の中に放り込まれるなんて、なんかの意地悪かと思ったけどそんなことは一切なかった。私ははっきりと"部活"という集団に属する自信がないと言ったことはない。でも倉持がそういう図らいをしようとしているということは、私の気持ちを薄々勘付いていたのだろう。 「俺、鈴森をマネージャーにするの諦めてねぇから。つーか、マネージャーやりたいオーラ出してんのにうじうじ悩んでんのが鬱陶しい」 「いてっ」 そう文句をたれる倉持にデコピンを喰らった。それはもうなかなかに痛いやつ。でもやっぱりバレていたんだ。声に出して言っていないのに気づかれてしまうとは、私の誤魔化しが下手だったのか、倉持の観察力がすごかったのか。きっとどっちもだと思うけど、気にかけてくれていたということが素直に嬉しい。 「まあ、御幸もお前が応援きてくれたら喜ぶからよ」 そう小さな声で言って倉持は何故か顔を逸らした。なんで急に話題に御幸が出てきたのかはわからないけど、きっと一人1年生レギュラーとして守備の要をする友だちを一緒に応援しようと言うことなのだろう。私が「頑張って応援しなきゃだね」と返事をすると、倉持の顔が少し歪んだ気がした。まだベンチ入りできなかった悔しさがあるの…かな。いや、こういうときは友達として励ましの言葉をかけるべきだろう。 「秋大はグラウンドにいる倉持も応援したいかな」 「は!?恥ずかしいこと普通に言ってんじゃねぇよ!」 「え」 私の励ましは逆に倉持を怒らせてしまう結果になってしまった。 |