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夏とは言え、20時も近くなると空は真っ暗だ。夏になると朝も昼も夜も虫の鳴き声が聞こえる。暑苦しさを感じさせる音ではあるけど、この音が聞こえると夏だなぁと私は思う。 結局夕食の時間を犠牲に、私を送ってくれることになった倉持。「夕食大丈夫なの?」と訊けば「コンビニでなにか買って帰るわ」と言っていた。申し訳ない気持ちになったけど、最近発売された親子丼が美味しかったからオススメだと言うことだけ伝えておいた。 「いやー、まさかお前が野球部に片足突っ込む日が来るとはなぁ」 「君たちの囲み作戦にまんまとはまったことになるかな」 冗談っぽくそう言ってみた。君たちのせいだと言わんばかりの発言に聞こえるだろう。 聞こえるかもしれないけど、内心ではすごく感謝をしている。きっと彼らが私の話題をしなければ高島先生にだって、先輩たちにだって知られることはなかっただろう。それに知ってくれたうえで興味を持ってもらえたことも有り難い話だ。どんな人間かもわからない私に期待をしてくれていた。 でもとにかく今日はそれに応えられるようなことをできて正直安心している。分析を頼まれたときだって、ある意味で試験のようにも感じた。どきどきのなかでやったけど、なんとか良しとしてくれる範囲で評価してもらえてよかった。 「素直になれって」 「ん?」 「そうやって誤魔化すんじゃねぇよ」 そう言って倉持は私の頭を軽くどついた。 冗談めいた発言でも倉持にはバレていたようだけど。そんなに私、顔にやけてるかな。嫌々なんかじゃなくて、素直に楽しかったのバレバレなのかな。 にやけ気味かもしれない頬っぺたを手の平を添えて下に伸ばしていれば、倉持は「こんなかんじの顔だったぜ」と言って容赦なしに私の頬っぺたを摘み、にやけ顔に仕立て上げた。そしていつもの変な笑い方で大爆笑された。 「そういえばこの前から気になってたんだけどよ」 「うん」 「稲実に野球やってる幼馴染みがいるんだろ。なんで稲実行かなかったんだ?」 開会式で鳴に会ったと御幸は言ってたけど、そのときに倉持も一緒にいたのかな。御幸は鳴との関係性を気にしていたけど、倉持は同じ高校を選ばなかったことが気になるのか。鳴の野球はすごいらしいけど、そんな鳴と一緒の高校を選ばなかった理由か…。 「鳴はうるさいからやだ」 「ヒャハ、なんだよそれ」 「同じ高校通ってたら絶対野球部入れられてたと思う」 鳴は中学時代、シニアで野球をやっていたから中学校の部活で野球はやらなかった。大人が執り仕切るシニアチームのマネージャーになれとはさすがに言って来なかったが、「かよこがマネージャーになれば最強のチームが完成する!」と言われた。そのとき私は冷静に「無理」と即答したら、鳴が文句をずっと言っていたのを覚えている。 そんな鳴のお守りが正直なところ面倒くさい。真面目に面倒と思っているわけじゃないけど。それにあのときの私は野球部に入るなんてあり得ないと思っているレベルだった。 「高校なんて遠くから野球観れればどこでもよかったんだけどね。しかも強豪校だったら観に来てる人も多いだろうし、こっそり見るには一番いいかなぁって」 野球をやっている人をこっそり見ていたかった。ただそれだけで、その輪には入るつもりはまったくなかった。だから鳴とは同じ高校に行きたくなかった。 青道に来たのは本当に偶然。野球強豪校がいくつかある中でなんで青道を選んだかと言われると特に理由はない。青道に進学するために頑張ってきた人には失礼な話だけど、受かった高校から適当に選んだだけ。 「あ、ねえ。倉持ってスカウトで青道来たんだよね?」 「まあ、県内の推薦ダメになって青道しか声掛からなかったからな」 「まさか問題起こしたとか」 「そのまさか」 「!」 倉持がスカウトで青道に来たのは聞いたことがあったけど、まさか問題起こして青道からしか声が掛からなかったのは初めて知った。本当にヤンキーだったのか… 「じゃあ元ヤンは青道しかなかったんだね」 「元ヤン言うな」 「私、青道選んでよかったなぁ」 「…鈴森ってたまに恥ずかしいことサラッと言うよな」 「そう?」 青道しかなかった倉持。青道以外もあった私。変な話、倉持は問題を起こさなければ青道に来なかっただろう。私も、野球に関わりたい気持ちを素直に出していたら青道に来なかった。今ごろ、稲実の制服を着ていたかもしれない。 まあ、結果として野球部に関わっているわけだけど。どこにでも良い人はたくさんいるだろうし、青道じゃなくてもこういう展開になったら馴染めていたかもしれないけど。でも偶然だとしても、関われたのが青道の野球部で良かった。 「今日思ったんだ。こっそり観てるだけじゃつまらないって」 「お前の場合、やれることあると観てるだけはまじでつまらねぇだろ」 遠回りだったかもしれない。もしかしたらずっと野球と関わりがなかったかもしれない。私が自分の気持ちに素直になれなくて、不安なことから逃げたくて、ずっと避けることしかしていなかった。でもそんな私を彼らは引っ張り出そうと懲りずに接してくれた。最後まで私が頑なだったり、途中で彼らが諦めたりしたらこんな展開にはならなかった。…まあ、私はずっと頑なだったけど。そんな殻を壊してくれた彼らには感謝しかない。 「ありがとね、巻き込んでくれて」 まだちゃんとした部員ではないけど。部員として認められるかわからないけど。でもこうして一瞬でも大切な時に関われて、力を必要としてくれて、それだけでも十分だ。 「恥ずかしい台詞言ってるのに自覚持てよ!!」 「はーい」 |