21 |
「じゃあ、夏休み中に怪我などしないように」 担任の先生が号令をかけて全員で挨拶をして1学期が終わった。明日から夏休みだと思うと朝の早起きがなくなるのは嬉しい。相変わらず夏休みの予定はないと言っても良いレベルだけど。今日は昼前に学校が終わったけれど、今日は野球部のお手伝いに呼ばれている。準々決勝に進出が決まった青道高校の対戦校が決まったからだ。 お昼ごはん適当にとってから寮にお邪魔しよう。そう思いながら帰ろうと鞄を手に取ったときだった。 「鈴森さん」 「高島先生」 うちのクラスのホームルームが終わるのを待っていたのか、終わってすぐに高島先生に声を掛けられた。教室に来るなんて、どうしたんだろう。あとで野球部のところに行くのに。あ、今日私行くの連絡いってなかったのかな。 「今日いまから時間ある?」 「あ、今日、準々決勝の対戦校の分析でお邪魔させていただきます」 「大丈夫、それはちゃんとクリスくんから聞いているわ」 高島先生は微笑み「またお願いするわね」と言った。でも、分析でお邪魔すること知っているんだったら、なんでわざわざ教室まで来たのか、さらに疑問は深まる。私が自然と不思議そうな顔をしていたのに気づいたのか、高島先生は「分析お願いする前にちょっと時間欲しくて」と言葉を付け足した。 「片岡監督が呼んでいるんだけど…」 「あっ、そういえばまだちゃんと挨拶したことなかったですね」 そうだった。私、まだ片岡先生…片岡監督にちゃんと挨拶してない。いつだか手伝いに寮へ訪れたとき、たまたますれ違うことがあって、一緒にいたクリス先輩が「この前お話しした、分析を手伝ってくれている1年の鈴森です」と、片岡監督に紹介してくれた。「鈴森です」と頭を下げれば、「分析も大切な役割だ。よろしく頼む」とだけ言われた。あまり口数の多い人ではなさそうな雰囲気はあるけど、その短い言葉でもそう言ってくれたのは嬉しかった。 でも、まだ片岡監督の雰囲気に慣れてないから少し緊張する…。 : : : 青心寮の2階。"スタッフルーム"とボードが立て掛けられている部屋の前。高島先生と和やかに雑談をしながら歩いてきたらあっという間だったけど、その部屋の前に立つと緊張感が蘇ってきた。 「失礼いたします」 「失礼します…」 高島先生が扉を3回ノックして開けると壁には表彰状、棚の上にはトロフィーなどが飾ってあった。やはりそういうものがたくさんあると名門校という貫禄がある。そして目の前にあるソファに片岡監督は座っていた。「急に呼び出して申し訳ない」と片岡監督は立ち上がり、私のほうまで歩いてきてくれた。 「部の者じゃないのに、あいつらが遅くまで残らせているようだな」 「いえ、好きで手伝っているので」 「でも遅くまで頑張ってくれてこちらは助かっている」 い、一瞬怒られるのかと思った…。部外のやつが遅くまで寮に居座って、しかもなんだかんだで部員の人たちと談話とかしちゃってるから邪魔とか…!そんなことを注意されると思ったけど怒られず済んで一安心だ。私、片岡監督に怒られたら怖くて泣いちゃいそう。 「鈴森の分析・解析力は今の部員には持っていないものばかりだ」 「ありがとうございます」 「コンディショニング能力もなかなかだと聞く」 そう言うと、片岡監督は片手に持っていたノートを私に見せた。それは私が分析の手伝いをしているときにまとめていた対戦校のデータ。監督の目を通らないことはないと思っていたけど、それを見てくれたうえで評価してくれたんだ。 「ぜひ、マネージャーとして正式に野球部の仲間にならないか」 「!」 片岡監督からの打診。驚きと嬉しさが同時にこみ上げてきた。いずれは自分から青道野球部の仲間に入れてくださいと頼みに行くつもりではあった。でもまさか向こうから迎え入れてくれようとするなんて。認めてもらえたということでいいんだよね。と、どきどきと高鳴る自分の心臓がうるさい。 でも、高まる自分の気持ちをぐっと殺した。 「とても嬉しいのですが、いまはお断りさせてください」 「鈴森さん…」 高島先生は心配した表情で私に声をかけた。きっと夏前にあったことを気にしていたんだろう。 「私、野球部の暑苦しさ、最初はあそこまで必死になれる自信ありませんでした。でもいまは、野球部の人たちと接して、試合観に行って、なにか力になりたい気持ちがすごく強いんです。でも、皆さんが全国制覇に向けて士気が高まっているところ、途中から入っても足並み揃ってないというか温度差が出来ちゃう気がして…。あっ、もちろんいまも全力で応援してます、とっても」 自分の想いがうまく伝えられたかはわからない。必死に思っていることをぽつぽつと話したからまとまりはなくて分かりにくいかもしれない。一気にたくさんのことを喋って、頭は少しパンク気味だけど、はあ…と溜め息をひとつついて自分自身を落ち着かせた。 「だから、新チームで始動するときに仲間に入れてください」 「……そうか、わかった」 真っ直ぐ片岡監督ことを見て、いまの私の気持ちを素直に伝えた。いまのこの状況だって、片足は突っ込んでいるわけだけど、両足をしっかりと入れるならばそういう節目のときがいい。リスタートするときに最初から一緒にいたい。最初から一緒に必死になりたい。 「あ、でも、皆さん甲子園行って全国制覇しちゃいますから私が正式に入部するのは先になりそうですね」 でもいまは、私が仲間になるのはすぐじゃないことを祈っている。 |