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「お疲れさまで…す?」

「やあ、かよこ」

「亮介先輩…に、他の方々まで」


片岡監督との話が終わったあと、そのまま青心寮の食堂まで来た。食堂の扉を開けばクリス先輩がいる…と思ったらクリス先輩以外に練習用のユニフォームを着た亮介先輩とほかの人までいた。真面目そうな人と、強面な人と、ちょっとふくよかな人。見たことある人たちではあるけど、ちゃんと話はしたことがない先輩たちだ。
でも、なんでここにいるんだろう。練習中じゃないのかな。


「こいつらが鈴森と話したいみたいでな」

「いま休憩中なんだ。今日かよこが来るって聞いたから遊びに来ちゃった」


ちょうど私が疑問に思っていたことにクリス先輩と亮介先輩が答えてくれて。きっと不思議そうにしていた表情からバレバレだったんだろう。
ちらりと名前を知らない先輩方を見ると視線がばっちり合ってしまい、びっくりしてしまった。


「えっと、はじめまして」

「結城哲也だ」

「この人のこと、哲って気軽に呼んじゃっていいよ」

「あ、はい」

「早速で申し訳ない、弟が君のファンでな。サインお願いできないか」

「え、あ、はい」

「おいコラ哲!いきなり図々しいことしてんじゃねぇよ!」


真面目そうな人、哲先輩はいきなり白球とサインペンを差し出した。プロ野球選手でもないのに白球にサインをするのはなんだか変なかんじもする。「弟さんのお名前は…」と聞くと「将棋の将に司るで、将司だ」と嬉しそうに答えた。弟さん想いのお兄さんなのかな。頼まれたままにサインをしようとしたら球体にサインするのは案外難しく、ちょっと不恰好なサインになってしまった。ごめん、将司くん。


「こっちの馬鹿そうなのが純ね」

「おい…!」

「で、こっちが増子」

「うが」


亮介先輩が中継役となって、先輩方の紹介をしてくれた。強面な人が純先輩で、ちょっとふくよかな人が増子先輩。仲良さそうでいいなぁ。やっぱり日々部活三昧だと一緒にいる時間も自然と長くなるから仲良くなるのかな。


「ちょっと気になってたんだけど、かよこはもう仕事をしないの?」

「弟もかよこが最近雑誌に出てないと嘆いていたな」

「あ?でもいつだかかよこ、CM出てたよな」

「うが、出てたな」


会って3分も経ってないのにいきなり名前を呼び捨てにされた。まあ、芸能人なんてよくフルネームで呼び捨てされたりするから構わないけど。この人たち、野球ばっかりでメディアとか気にする時間ないと勝手に思ってたけど、案外チェックしてるんだなぁ。
実際、最近は仕事全然していないけど。お誘いが来てもちょっと仕事を受ける余裕がないのだ。


「学生生活で忙しいというか…」

「ふーん。彼氏の一人や二人、できた?」

「いきなりブッ込んだこと訊きますね」


まさかこんなこと訊かれるとは。彼氏一人や二人って完全に二股だけど、その辺は突っ込まなくていいのかな。でも、付き合いたい人がいるとか、誰かと付き合うとか、いまは考えられない。告白とかも前に人生初の告白を経験したきりなにもない。


「そういえば御幸か倉持と仲良いみてぇだけど」

「え、あり得ないです」

「へえ…そうなんだ」


まさかここで御幸と倉持の名前が出てくるとは。純先輩も後輩の交友関係よく知ってるなぁ。あり得ないと答えた私を面白そうな表情で見てくる亮介先輩は不気味だけど、本当にあり得ない話だ。だってあいつらは野球に必死で、野球が恋人ってケロっとした表情で言ってしまいそうなほど野球にお熱だ。かと言って、私があいつらをそういった目で見たことはない。仲の良い野球好きの友だちだ。男女の友情は存在するんだ。
付き合うとか、あり得ない。あり得ない。


「私、誰ともそういう関係作る気ないです」

「そうだな。弟が言っていたぞ。鈴森かよこはみんなの鈴森かよこってな」

「哲の弟、どんだけかよこのファンなんだよ」


うんうんと頷く哲先輩に呆れる純先輩。なんだかやり取りが面白い。会話に釣られて私も少し笑ってしまった。


「かよこってもしかしてそういうの鈍い?」

「いや、そういうのは敏感なほうです」

「鈍いのかぁ」

「チッ、鈍いのかよ」

「ちゃんと話きいてくださいよ先輩」


"そういうの"って恋愛事って話だよね。気づかないとか普通にないと思う。普段一緒にいて接していたら違いに気づく。いままでも"ああ、この人、私に気がありそう"と思うようなことはあった。だって分かりやすいくらいよそよそしくなるんだもん。
それにしても、先輩たちは遠慮なしにいろいろ言ってくるなぁ。接しやすいといえば接しやすいんだけど。ずっと話していれそうなくらいだ。
あ、今日遊びに来たわけじゃないんだ。本業のことすっかり忘れてた。


「私、これからクリス先輩と分析やるんでさっさと練習戻ってください」

「なかなか先輩相手に厳しいこと言うじゃねぇか」

「んふふ、先輩様でも遠慮はしないとさっき決心しました」



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