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「稲実が負けた?」

「成宮の暴投が決勝点になったんだってよ」

「…そうなんですか」


甲子園3回戦。稲実の夏が終わったそうだ。
部活に慣れる。そんな自分に精一杯で甲子園の試合は家で録画しているものの、見ていない録画が溜まっている状態だった。試合結果は朝、家を出る前にニュースでチェックする。そのためタイムリーな情報はこうやって部活で誰が話して初めて知るというかんじだった。
今日だって。
午前中に干した洗濯物を陽が落ちようとしている夕方に取り込んでいると、ふらりとやってきた純先輩に教えてもらった。


「クソ…。俺ら負かして甲子園行ったんだからもっと活躍して帰って来いってんだ」

「あはは…」


面白くなさそうな表情をする純先輩に苦笑いを返してみたけど、自分たちに勝った相手なら勝ち続けてほしい気持ちはわかる。
ここ数年は甲子園から遠ざかっている青道高校。だけど毎年良いチームを作り上げて成績も惜しいというところまでいく。だから強豪校としての期待は途切れず、今年こそ甲子園行けるのではないかと言われていた。
そんなチームを破った稲実。勝ち進んでほしかった。でも今回の稲実の負けは呆気無い幕切れと言えば呆気無い。


「自分の暴投が決勝点か…」


あの鳴の性格上、どこか調子に乗ってた気の緩みの結果なんじゃないかと思う部分はあるけど果たしてどうなんだろうか。少なくとも勝ちにこだわっている人ではあるから、この負けは精神的に来ていなければいいけど…。


「そういや、かよこの幼馴染みらしいな」

「私のプライベート筒抜け…」


タオルをぎゅっと掴みぼーっとしていたせいか、純先輩はどこから仕入れたかわからない私と鳴の関係をずばりと言った。
まあ、情報の出どころはだいたい想像つくけど…。


「連絡とか頻繁に取ってるのか?」

「一方的に向こうが連絡してきますね」


「あいつ暇なのかよ」と呆れたように純先輩は言った。それは私も同感だ。きっと稲実の練習もハードで、時間外の自主トレをしている人も少なくないだろう。それなのに鳴は頻繁に連絡を寄越してくる。
まあ…鳴のことだから自分に自信ありすぎて自主トレとかする必要ないって思ってしてなさそうだけど。


「連絡と言えば、あの人、この前の試合前とか先発じゃないの電話で言っちゃってて…」

「ハァ?成宮馬鹿かよ」


純先輩は完全に呆れていた。
もしかしたらマウンド上の鳴しか知らない人たちにとっては鳴のこのような言動が意外なのかもしれない。確かにあの姿だけだと鳴の我が儘っぷりや子供っぽさは伝わらないかもしれない。
逆を言えば、そういう鳴しか知らなかった私はマウンド上の鳴が意外である。


「まあ…なんだァ…」

「?」

「別に敵と言えど知り合いのこと心配すんなって言う輩はいねぇからよ。自分から連絡取ってみんのもありなんじゃねーか」


気恥しそうに頬を掻きながら言う純先輩のことをぼんやり見ていると、その視線に気付いたのか、顔がほんのり赤い純先輩は「見てんじゃねぇよ!」と私が既に畳んでいたタオルを投げつけられた。
これは照れ隠しというやつだ。
まあ、でも、倉持にも言われたようなことを先輩にも言われてしまうとは。


「私、そんなに心配そうでした?」

「自覚なしかよ」


自覚がないわけではない。誤魔化すつもりでもない。でも分かりやすいのかな、私。
そんなことを思いながら部活が終わったら鳴に電話してみようと思った。きっと不機嫌の塊で電話に出てくれる気がしないけど。


「さすが少女漫画読まれてるだけありますね」

「なッ…!テメー、誰から訊いた!?」

「亮介先輩です」

「あのヤロー…!」



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