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お疲れ様でした、という声と同時に辺りはリラックスした様子で、先ほどまでのピリピリとした空気はなくなった。封印が解かれたかのように人々のざわめきが戻った。

久しぶりの撮影だった。もうこういうことはしないと思っていたのに。
高校受験の頃から芸能活動はお休みに入り、そのままフェードアウトしようと思っていた。両親は芸能活動を辞めようとすることは反対しなかった。てっきりここまで育て上げてくれたステージママである母親は猛反対をするのかと思いきや、好きなことをやらせてあげようと父親が母親を説得してくれていたみたいだ。という父親も父親で。自分のスポーツジムの手伝いや、野球のトレーナーとしての跡継ぎを担ってほしいという腹黒い一面があった。好きなことと言えばもちろん野球に関わることだが、ここまで支えてくれた母親の想いを無下にすることもできず。
結局こうしてテレビCMの撮影や雑誌の撮影くらいの単発の仕事は続けることにした。長い期間関わるドラマなどお芝居はもうすることはないだろう。それに対して寂しさはない。こうしてみると、この短い人生の殆どを埋める芸能界には案外思い入れがないのかもしれない。







「あ、かよこちゃん!CM見たよ!可愛かった!」

「わーありがとう」


5月に差し掛かる頃。入学式のときほどではないが、また私の周りが少し騒がしくなった気がする。朝、登校するなり色々な人に声をかけられた。それは数週間前に撮影したテレビCMが放送され始めたからだった。1年半振りくらいのメディアへの露出。マスコミも多少の騒ぎ立てはあったが、学校での騒がれ方もなかなかだ。


「なんか今日騒がしいな」

「相変わらずだな鈴森、ヒャハハ」

「おはよう」


朝練を終えた野球部の、御幸くんと倉持と、あと渡辺くん。ちなみに他のクラスの前園くんや川上くんたちとも何故か仲良くなりつつある。恐らく、倉持と御幸くんが私のことを野球部の面々に言いふらしているからだろう。この前は川上くんに「テーピング上手いって聞いて…」と、指のテーピングをした。そのときに川上くんから「倉持と御幸が鈴森さんのことマネージャーにしたがってるよ。気をつけてね」と笑いながら言っていた。こうやって野球部の人たちに囲われつつあるのは彼らの作戦なのだろうか。


「俺も見たぜCM」

「どーも」

「CM?」


倉持がにやにやとCMを見た報告をしてきた。適当に受け流そうとしたが、御幸くんは首を傾げ、なんのことだという表情をしていた。そんなに放映本数の多いCMではないから見てない人だってたくさんいるだろうし、まして練習三昧の野球部はテレビなんて見てる時間はあるのだろうか。


「あれ、御幸知らないの?」

「え?」

「化粧品のCMだよ。鈴森さんが出てる」

「…え?」


渡辺くんも見ていたのか。首を傾げて不思議そうにしている御幸くんに話しても御幸くんは理解していない様子。突然目を凝らし、私の顔をじっと見てきた御幸くんは「あ、ああ!そっか!」と突然納得し始めた。


「なんで鈴森さんが騒がれてたのかやっと理解した!テレビで見たことあったわ」

「おめぇ気づくの遅くね?」

「他人の空似かと思っててさー、はっはっは」

「顔も似てて同姓同名なら間違いねぇだろ」


のんきに笑う御幸くんに手厳しいツッコミをする倉持。芸能人の鈴森かよこを御幸くんは知らなかったのか。誰でも知っているような芸能人になったつもりはなかったから驚きはしないけど、知ってて気づかれないのはちょっと切ない。


「"御幸くんへ"ってハート付きでサイン書いてよ」

「全然構わないけど…」

「俺の知り合いが鈴森さんのファンなんだよねー。今度会ったら自慢してやろ」


にしし、と笑う御幸くんは何処と無く楽しそうだ。そんなに友人に自慢することが楽しみなのだろうか。



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