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「え、やだ、無理、却下」 「てめぇは血も涙もねぇのか!」 「痛い痛いギブ」 何故か私は本来曲がらない方向へ腕を曲げられている。その理由は倉持に技をかけられているため。本当に倉持は容赦がない。女である私に対して。 こんなことになったのも先日から続くマネージャー勧誘が要因となっていて。あまり頻度は少ないが、今日は野球部の練習を見に来ていたのだ。Aグラウンドと呼ばれるグラウンドでは一軍がノック練習をしていて、Bグラウンドと呼ばれるグラウンドでは内野の守備練習をしていた。それぞれのグラウンドの間で、Aグラウンドのほうを見ているタイミングだった。「あ、いた!鈴森!」と聞き覚えのある声が聞こえた。その声の持ち主は倉持で、振り向く前から誰だかわかった。さすが日頃喋りまくってるだけある。 「処置やってくれたっていいじゃねぇか!」 「それはマネージャーさんの仕事でしょ」 聞くところ、セカンドを守っていた木島くんという部員がファーストへの送球をする際に軸足の膝を痛めてしまったそうだ。たまたま監督などスタッフ陣はAグラウンドのほうにおり、Bグラウンドには二軍の選手と1年生マネージャー2人しかいないそうだ。いま、同じクラスの渡辺くんがAグラウンドにいる監督に部員の負傷を伝えに行っているそうで、マネージャーが慌ただしく応急処置をしようとしているとき、倉持の視界に私が入ったそうだ。 「こういう緊急事態はマネージャーだとか関係ねぇだろ」 「……手伝い程度なら…」 薄情だと思われてもいい。あんまり関わりたくなかったけど、しょうがない。 : : : 倉持に腕を引っ張られ、Bグラウンドに入ると、二軍の人たちの練習は止まっていて、小さな輪が出来ていた。その輪に駆け寄っている途中、救急箱を持ったマネージャーさん2人が私たちよりも先に輪の中に入っていった。続いて輪に加われば、木島くんと思われる人は座り込んで苦痛に顔を歪めていた。ショートヘアのマネージャーさんが袋に氷を詰め、患部へとあてていた。RICE処置をしようとしているのだろう。髪をふたつに結んでいるマネージャーさんは救急箱からテーピングを取り出し、そして膝の固定を行おうとしていた。 「もう少し冷やしたほうがいいですよ」 きっとテーピングの準備をする間だけ冷やそうとしていたのだろう。私が声をかけるとマネージャーさん、そして部員たちの視線が集中した。「鈴森かよこだ…」「え、まじ本物?」などと囁かれ、それが一人や二人の囁きではなかったのでまわりは一気にざわついた。 「10分くらい冷やしたほうがいいので、あっちのベンチで処置したほうがいいと思います。歩けますか?」 「い、一応」 「倉持、肩貸してあげて」 立ち上がった木島くんは捻挫をしていない左足でひょこひょこと歩こうとしていた。倉持が肩を貸し、近くにあるベンチまで運んでもらった。私の後ろにはマネージャーさんも一緒にいて、「あの、ありがとうございます…」と声をかけられた。 「圧迫はテーピングよりスポンジをあてて包帯で巻く方法が効率いいので、患部が冷えたら20分くらいしっかり圧迫してください。そのあとは血が溜まらないように足あげて安静にして、痛みが引いたらテーピングかサポーター着けてあげてください。それで病院に」 RICE処置の指示をするとマネージャーさんたちは「はい」と返事をした。「悪りぃな、鈴森」と倉持に言われ、私は無言で頷いた。 多分、圧迫とかテーピングも私がやったほうがいい気がする。まだぎこちない手付きのマネージャーさんたちはきっとこういうことに慣れていないのだろう。野球部のマネージャーとしてはとてもできる人だからそこ名門青道高校野球部のマネージャーを務めているのだと思う。だけど応急処置が手際よくできるかどうかはそれとは別の話だ。応急処置なんてやる機会がないに越したことはない。 木島くんが休んでいる隣のベンチに座って、患部が冷えるのを待とうかなと思ったとき、「木島くんは大丈夫!?」という女性の声が聞こえた。顔をそちらに向けると、英語科の高島先生がいた。あ、野球部の顧問だったんだ。 「あら、鈴森さん…?」 この場にいるはずのない私を見て、先生は首を傾げた。だけどすぐに状況を読み取ったのか、「助かったわ、ありがとう」と微笑みながら声をかけてくれた。 先生が来てくれたことだし、もう私はお役御免でいいのかな。 「じゃあ、私はこれで…」 「あ、待って鈴森さん。少し話したいことがあるの」 なにか、嫌な予感がした。 |