07 |
その日。何故か御幸くんからお昼ご飯を一緒に食べようと声をかけられた。購買で買ってきたパンを食べる御幸くんに、お母さんお手製のお弁当を食べる私。野球部の面々は野球部同士で昼ご飯をとる姿をよく見かける。今日はその輪に御幸くんは加わらず、私とお昼ご飯を食べている。なんだか変なかんじだ。御幸くんと一対一で、こう、じっくり話すことはなかったから。 とは言うものの。教室で男女二人が向かい合わせでお昼をとっているのもなんだか恥ずかしい。噂によると御幸くんは女子生徒からの人気は高いらしい。確かにルックスは良い。でもたまに野球部のみんなと話しているとき思うけど、もしかしたら性格がちょっとひん曲がっているかもしれない。なんというか、素直さ故の性格の悪さというか。まあ、そう思っているのは私だけかもしれないけど。その証拠に先ほどからちらちらと女の子からの視線が刺さるのは気にしないでおこう。 せっかくの機会だ。御幸くんといろんなことを話してみよう。 「御幸くんって一年生なのに一軍入りできててすごいね」 「まあ、控えだけどな。レギュラーになるには一個上にすげえ先輩いるから、その先輩超えなきゃいけねぇんだよな」 「ふーん、頑張らないといけないんだねぇ」 「…ぷっ」 「?」 突然、御幸くんが息を吹き出した。堪えるように肩を揺らし、くつくつと笑っているのはなんでだろう。私、もしかして変なこと言ったのかな。意味がわからず、「え、え、え?」と戸惑う私にも反応できないほど何かがツボに入ったように笑っている。 「いや、ごめんごめん。本当に鈴森さんって淡白だなぁって」 「倉持か」 「倉持だ」 普段から猫かぶりをしてるつもりもないから、淡白と言われても仕方がないような性格かもしれないけど。御幸くんは私の反応がツボに入ってしまったようだ。自分から訊いておきながら、あっさりとした返答で、御幸くんは本当に私が倉持の言っているような人なんだと確信したようだ。 反応は薄くても、決して興味がないわけではないと弁解したい。 「落ち着いてる性格だとは思ってたけど、倉持が鈴森さんのことボロクソに言うからさ」 「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってるのかな」 「あいつ馬鹿だから知らねぇだろ」 御幸くんと二人でにやにやと笑ってしまった。本人が居ないところで意地悪なことを言う。きっと倉持もそうしていたのだからおあいこだ。 「本当に倉持と仲良いよな」 「あー、そうかな」 "そうかな"なんて言ったけど、私視点で言わせてもらっていいなら、倉持とは仲が良いと思う。いつも全力で真っ直ぐで素直な性格はとても接しやすい。悪く言えば機嫌とかがわかりやすい単純な人ってかんじだけど。きっと彼と仲良くなったのも、話して2日目でテレビと人が違うなんてはっきり言ってきたからだと思う。 まあ、でも私が仲が良いと思っていても、果たして相手がどう思っているかは知らない。少なくとも所謂恋愛とやらに繋がるような関係ではないのはお互い確かなことだろう。もしあったなら倉持からのチョップやキックの攻撃は一切ないはずだ。好きな女の子に意地悪しちゃうというのが許されるのは小学生までだ。 「あの鈴森かよこと仲良くできるなんて羨ましいぜ」 「御幸くんってミーハー?」 「いや、全く」 「ですよね」 「俺も鈴森さんと仲良くできる?」 「そんなに私レベル高いかな」 「倉持から訊く限りじゃ低いかな」 なかなか酷いことをズバッと言う人だ。「えー酷い」と私が言っても「全然酷そうな感じしないんだけど」とケラケラ笑われてしまった。まあ、実際対して酷いと感じてはいないけど。 彼はこうやって人をいじるのが好きな人なんだろう。倉持のように遠慮なく本音をばんばん投下して生きてきたようにも思えるけど、倉持と違って果たしてそれが本心なのかちょっとわからないときがある。いつもおちゃらけて飄々としていて掴み所がない性格。だからこそ本心が見えない気がする。 「まあ、今日昼飯誘ったのもそういうわけなんだけどな」 「へー」 「せっかくだし人気者のかよこちゃんと仲良しアピールもしておきたいし」 ニシシと笑う御幸くんは教室を見渡した。気づくとちらちらとこちらを見ている人たちは増えていて。女の子から男の子まで。まさか注目の的になっているとは。御幸くんの人気はさすがというのはある。逆に私なんか最近はとても地味な生徒だ。もはや鈴森かよこは廃れている。とりあえず、同性同士の変な誤解やどろどろとした厄介事の種にならなければいいけど。 「性格悪いぞ、御幸」 「そりゃどーも」 くん付け撤廃の瞬間。 それは相手に恨みを持ったとき。 |