「灰崎先輩が僕を誠凛に誘ったのに、バスケ部に居ないって、あんまりじゃありませんか?」
「誘った覚えはないけど?」
名前は1年振りに見た後輩に、にべもない言葉を返す。
進学先の候補に入れろとは言ったが、来いとは言っていない。
そもそも、黒子を誘うなら弟の祥吾に声をかけるというのが本音である。
「背、あまり伸びてないわね。成長期はいつ来るのかしら」
「大きなお世話です」
「相変わらず厚みもなく、ひょろひょろしてるし…スリーは打てるようになった?」
「僕は今、嫌味を言われているんでしょうか」
「まさか。純然たる疑問を呈してるだけ。その様子じゃ、誠凛でも相変わらず名無しのポジションをやるつもりなのね」
「僕にはこれしかできませんし、誠凛には優秀なSGが居ます」
「そう。それは良かった」
「…先輩も相変わらず、虹村先輩以外には興味がないんですね」
「そんなことないわよ。祥吾のことは気にかけてるもの」
「あ"ッ!灰崎、お前残ってろってあれほど……うおおっ!黒子!?居たのか!?」
「居ました」
用があり、名前しか目に入っていなかった日向は黒子の姿に驚き、仰け反るといういつもの反応を見せた。
名前はその反応をまじまじと見つめた後、日向へ、バスケ部だったのかと問いかけた。
「そうだよ」
「そうなんだ」
「聞いたくせに興味なさげだな、オイ」
「灰崎先輩、日向先輩がうちの優秀なSGですよ」
「へぇ、日向がねぇ…」
「んだよ、つかお前ら知り合いなのか?」
「まったくもって赤の他人」
「中学の時から先輩後輩の仲です」
「何だって?」
言葉が被っていまいち聞き取れなかった日向に気を回し、繰り返したものの、またしても被って無駄に終わった。
そこで一気に面倒になった名前は、すっと片手を挙げて微笑んだ。
「私、帰るわね」
「待てやオイ」
「待ってください」
話は終わっていないと日向に進路を塞がれ、黒子には挙げた手を捕まれた。
踏み出していた足を揃え、仕方なく再度、向き合う。
日向はその態度に満足したようだが、黒子は下がったのをいいことに名前の手を握り込んだ。
建前を知らない中学時代の2年の付き合いは、その人の本質に近いところに触れていたと言ってもいい。
面倒くさがりな割に新しいもの好きで、飽きっぽいがやると決めればまめまめしい。
黒子の見てきた名前はそういう人物だった。
加えて、強くはないが、相手を怯ませ、戦慄かせるような1発の拳と蹴りを持っていることも、人を撒くのに長けていて、黒子の不得意な1対1でのミスディレクションもお手の物ということも、体感して知っていた。
物言いたげな名前と視線が合う。
離すつもりは毛頭無い。
そんな意思を読み取った名前は、黒子の好きにさせることにした。
「何なんだお前ら、仲良しか」
「別に普通」
「普通です」
「ああ、はいはい。普通ね」
今度は聞き取れたが、現状と合致しない返しに嫌気が差し、深く訊くのをやめた日向は自分の用件を話し出す。
何ということはない。
ただ、調べ学習のペアが変更になり、日向とやることになったというだけの話だった。
「矢芝、調子悪いの?」
「お前と居ると悪くなるんだと」
「何それ、傷つく」
「眩しくて直視できないだの、髪の隙間から覗いてしまう背徳感だの、マジで気持ち悪ぃこと言ってたぞ。お前もう髪切っちまえよ」
「日向先輩、女の人にそれはどうかと思います」
「あー…それもそうか。悪い」
「いいよ、別に。美容院に行こうと思ってたし。髪黒く染めて、コンロー?にしてくる」
「は?コンロ?」
「んー、コーンロ?えっと、こういう編み込みみたいな…レゲエ歌手の人とかがやってるやつにしてくる」
「誰もそこまで激しいイメチェン求めてねぇよ!」
「日向だってイメチェンしたじゃない」
「人の黒歴史を掘り返すなダアホッ!」
「何でその髪型なんですか?」
「だって祥吾がやったから…」
「え、灰崎くんが…?」
黒子は、脳内でビフォーアフターを思い浮かべ、あまりの衝撃に言葉を失った。
名前は名前で、弟のあんまりな高校デビュー姿を思い出して目を伏せる。
2人の間におりた沈黙を切り裂いたのは日向だった。
「いや、何でだよ。つか、誰だよショーゴ」
面識のない人間の当然の反応に、話題としては不適当と名前自ら流れを打ち切った。
二三やり取りし、日向と調べる内容と分担の話をさらりと纏め終えると、黒子に視線を移す。
黒子はどうにかこうにか受けた衝撃を胸の内に収めたらしい。
やや疲れたような様子で名前の手を軽く引いた。
「体育館に行きましょう」
「何故?」
「見てほしいからです」
「嫌よ」
「僕も嫌です。日向先輩、行きましょう」
「あ、こら!ちょっと!」
「おい、黒子。あんま強引な真似すんな」
「先輩もこれを聞いたら強引な真似したくなりますよ」
「何?」
「黒子ストップ、余計なこと言わない!」
「拒否します。──名前先輩は、帝光バスケ部のマネージャーでした」
「何!?」
目の色を変えた日向に腕を取られ、名前はこの先の展開を悟った。
視線をそらそうにも、反対側では黒子がじっと名前を見つめて手を離さない。
「体育館行くぞ!」
抵抗虚しく、拉致される運びと相成った。
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