透明な壁


透明な壁

あの後城内で見つけた甘寧を晩飯に誘った。昼は摂り終わっていたから。
いつどこそこに居るから城下に飲みに行こう、と言えばいつものように適当な返事が返って来た。甘寧の部下が言っていたことがちらと頭を過ったけど、本当に過っただけで右から左へすぽーんと抜けて消えた。
夕暮れ、いつも通り店に入り、二人で向かい合って座り、奴はすっぽん酒を頼んだ。

「全く良い年なのに、お前良い関係の男一人や二人いねえのかよ」

「いたら私は今頃ここになんかいないでしょうが。そっくりそのまま返すよその言葉」

「違えねえ」

前に同じような会話をした気がしたけど、それがいつのことなのかは思い出せなかった。それだけ無駄に長い付き合いがあるということだろうか。
いつものようにくだらない話を淡々としながら箸と杯は進んでいく。この前姫様が城を抜け出して水軍の訓練に現れた、という話が出たところでまたふと昼前の出来事を思い出した。

「なんだか最近さ…」

よく私達について色々言われるよね、と言おうとして、やめた。よくよく考えたら、このことを甘寧は知らないのだ。姫様に言われたことも、甘寧の手下たちに言われたことも。みんな私に言ってくる。
何だか意識しろと言われているみたいで、こんなことを甘寧に言ってしまうのも微妙な空気になりそうな気がした。

「…なんだよ」

「やっぱいいや」

「なんだよそれ」

酒をぐいと煽れば、向こうは軽く笑ってから肉にかじりついた。
こういう妙に男臭い関係が楽しいのだけど、周りはそんな関係をいつまでも見守っていてくれないらしい。

「甘寧ってずっと女いないでしょ」

「わりーかよ」

「やっぱもてない奴って雰囲気で分かるなって」

「お前ほどじゃねえよ」

「こう見えて三年前まではいましたー」

「三年もいねえのかよ」

うるさい口閉じろ、と言えば、傍に置いてあったどっちが注文したのか分からない包子を口に突っ込まれた。
ふが、と情けない声が思わず出る。それを見て甘寧は手を叩いて笑った。
眉間にわざとらしくしわを寄せて、包子を口から外す。

「あんた絶対私を女だと思ってないな」

「そんなもんだろ」

「酷いわあ」

ふざけて言った。そしてまた酒の入った杯を口元へ運ぶ。
自然と上がった視線の先に、さっきまで笑っていた甘寧の表情はなかった。
呆れたような、無表情に近いその顔に、思わず杯を下ろす。なに、と聞いた声が少し低くなった。

「お前だろ、こんな風にしたの」



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