朧な記憶


朧な記憶

あれは何歳の頃だったか。まだ益州の方にいた頃だ。甘寧とは家が近かった。
もう一人仲の良い女の子がいた。その子と違って私は男の子のように甘寧とあちこち探検してしまうから、彼女が置いてけぼりになることもしばしばだった。しまいにはあいつの腕に抱きついて離れなくなったっけ。

市で知り合った男の子と遊び始めた頃に甘寧と喧嘩したこともあったな。ちょっと離れたところにその男の子が住んでいたこともあって、私の世界が広がったように思えて、その子とばかり遊んでたからだ。
すねる甘寧を引っ張って行って、結局三人で日が暮れるまで遊んだ。

そのうち大きくなって甘寧が無頼の徒を引き連れるようになっても、関係はまるで変わらなかった。私は副頭領みたいな感じだった。今みたいに姐さん姐さん言われて。
両親にあんなのとつるむな、とさんざん言われていたけど、武装して戦いに出るようになって行く私を、結果黙って見守るだけになった。
黄祖、劉表と誰かの下を転々として来たけど、黙って益州に両親を置いて来てしまったことは、正直申し訳なく思う。
手紙は時々届くものの、筆不精な私は三回に一度程度にしか返信していない。

「…私、何かした、か…?」

昨日の晩に言われたことが気になって、今までの奴との思い出を掘り返していた。色々あったけど楽しかったな、と思い締めくくろうとした。待て待て、思い出に浸るつもりで記憶を漁ってたわけじゃない。


お前だろ、こんな風にしたの


私が何かしたのだろうか。思い当たる節は全くなかった。
甘寧といると暇しないから、奴がやること為すこと私は真似していた。それだけだった。
もしかしたら、私の記憶にないだけなのか。
あと少しで終わるはずの執務も「あと少し」のまま淡々と時間は過ぎて行った。

「おう、いるか」

「どした」

「城下にあの刀鍛冶来てるらしいぜ。行くか?」

「行く行く」

甘寧の誘いに乗った。目の前の書簡はほっぽり出して行く。



15

backnext
90+1


.