大人になりきれない
大人になりきれない
「まず一回目だな」
そう言って天井を見上げた。視線の先にはかつての奴と私の記憶が浮かんでいるのだろうか。
私には見えないから黙って目の前の料理をいただく。
「益州にいた頃、金華に俺を一人占めにされた時だな」
「あの子金華って名前だったっけ。ていうか、あれ私があの子のこと置いてけぼりにしたから怒って私を除け者にしたんじゃなかったんだっけ」
「都合が良いように記憶を書き替えてやがるなお前」
「違いますー」
「金華が俺に好きだって言ってついて回るんだよ。お前は“私は二人のことが好きなのに、金華と甘寧だけ一緒って嫌だ”って怒ったろ」
そうだっけ、と言えば都合の良い女だなと言われた。何だか反論する気にもなれなかった。
幼少の記憶なんて間違いも多々あるだろうに。
あの時怒っていたのは自分の方だったのか。
「二回目だな。俺と野郎どもの中に入って来た頃にもお前は切れた」
「記憶にないんですが」
「…本当に都合良く忘れやがって。
お前そこそこ可愛い顔してたからな、ちやほやして来た奴らに“うるせえしつけえ”とか怒鳴ってたろ」
「すごいな私」
「覚えてねえってことはお前の中じゃ大した出来事じゃなかったってことだな。そいつはすげえや」
突然「姐さん」と呼ばれ始めた気がしていたが、きっかけはそれだったのかもしれない。
あの頃は鍛え始めて間もない頃で、丸腰の男一人すら何とも出来なかったろうに。それで多勢の不良相手に怒鳴るんだから、「姐さん」と呼ばれるだけの無駄な度胸はあったようだ。
「三回目。野郎どもに“兄貴とはただの幼馴染なんですか”って聞かれた時だ。“そうだともそれがどうした"と言い放った」
「ああそれはうっすら覚えてるかも」
「そうかよ。ま、大体こんなもんか」
思えばあの頃は妙にとげとげしかったな。何でかは覚えていない。舐められたくなかったからだろうか。
三つ全て聞いたものの、それが何かしたのか全く察せられない。甘寧は話し終えたつもりでいるみたいだが、私は首をかしげた。
「それで?話が見えない」
言うと、ぎょっとしたような顔を見せ、またさっきの半ば呆れた表情に戻った。
がしがしと頭をかいた後、通りかかった店の者に酒を注文した。昼間から飲むのかと問えばお前のせいだと返された。理不尽だ。
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