誰よりも速く着火してみせます
「なあ、焼畑農法って知ってるか」
農場そばの飯店で昼食をとっていると、近くをうろついていた朱然殿に話しかけられた。その片手には肉まん。
「また火の話ですか…」
「なんだ、流星も知ってるのか。
あれ、一度挑戦してみたいんだよなぁ」
あのやり方なら農業も楽しいよな、とかなんとか。何故かいつも私に自身のご趣味について語ってくる。火狂いも大概にして欲しい。でもそこがちょっと可愛いと思ってるところがあるのは内緒。
年齢的には同期だが、朱然殿の方が立場が上。殿の学友だけあって頭も良いから目上の人として接しているけど、朱然殿の普段の話し方がこれだから無意識に敬語もぶっ飛びそうになる。
「畑を焼くにしても決まりがあるんですよ。ただ燃やせばいいって農法ではないんです」
「へえ、じゃあ火計と似てるんだな。っていうか、流星も結構詳しいのか」
「いや、小耳に挟んだ程度の知識しかありませんけど」
そうか、と言って前のめりになっていた体勢を元に戻す。人の趣味にあれこれ言う筋合いはないけど、ここまで火に対する執念を燃やされてはむしろ怖い。火に関する知識の多さは尊敬するけども。
「そうだ。陸遜には俺から言っておくからさ、今度火計部隊一緒にやらないか?」
「あなた一人でやってください」
あなたが火計大好きなのは十分分かってますから!
目上の人に対する断り方じゃない断り方でばっさりと言い切ってしまった。
「だってお前、この前飛び火で火傷したろ」
「え、ご存知だったんですか」
「あっ、…まあな」
先の戦、ほんの不注意で火計で燃える地点の近くに待機してしまったために、左手の甲に火傷をしてしまった。
でも左手丸々使えないということでは全くなくて、本当にちょっとだけ、という程度。軍医には一応正しい処方を聞きに行ったけど、本当にそのくらいの話だ。
「俺と一緒にいれば飛び火の心配もないだろ。だから、ほら、な!」
「うーん、都督殿が了承するなら私は構いませんけど…」
「よっしゃ!…じゃなくて、陸遜と俺の仲だからきっと大丈夫だ!」
私が所属移動したところで大騒ぎになるようなことでもないと思うから、多分本当に火計部隊になるかもしれない。そうでなくともあの朱然殿のことだし、皆を言いくるめてしまいそうだ。
「次の戦までに決まったら伝えに行くからな。そしたら着火方法とか色々考えよう、一緒に」
「はあ、」
満面の笑みで言われてしまっては、もうなすがまま。私は国の力になるんだったら、仕事の内容は特に問わない。これもきっと経験になるからいいや。
それじゃ、と小さくなった肉まんを口に放り込んで飯店から駆けて行ってしまった。満足げに。あの足で都督殿の元に向かうのだろうか。
それにしても小柄ですばしっこい人だ。
誰よりも早く
着火してみせます
「陸遜!今すぐ流星を俺の副将にしてくれ!」
「ど、どうしたのです突然…」
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