呑まれました
※ギャグのち唐突甘 無双7将星モード
ここまで人を助けて後悔したことがかつてにあっただろうか。後にも先にもない。絶対に。
戦場でちょっと手助けしただけで「恩義は返す」だのなんだのと言われ、断ったのにも関わらず付いて来られてしまった。ヤバそうな雰囲気ぷんぷんだったから、正直助けるか助けるまいかも悩んだくらいだ。やめとけばよかった。
「だーっ!いらないっつってんのにー!」
自室には鍵をかけられても、執務室の戸は鍵をかけられる仕様になっていない。今日も今日とて恐る恐る執務室に入ると、また野菜が箱に入って置いてあった。
彼が怖くて拠点の農園を担当させてそばに寄らないようにしたのにこのざまだ。毎朝執務室に入ればすでに置いてある。ちくしょう、いつ入ってるんだあの人。
というかあんだけ恐ろしい雰囲気撒き散らしてるくせに「恩返し」はこれか。可愛すぎるだろ。
「朝から叫んでどうしたんですか」
「うわーっ!」
この人です、これが明らかにヤバいと巷でも有名な法正殿です。法が正しいと書くのに法に則った正しい行動をしてません。
おかしい、なんで気が付かなかった。思わず飛び上がって戸を閉める。と思ったら閉まらない。指、指が、
「痛いじゃないですか」
「だったら手どけろ!」
戸を閉めさせてくれない。彼の手が戸の間に挟まっていた。
取手に思いっきり力を入れて押さえるも男の力に勝てるわけもなく、ちょっとずつ戸は開いてくる。正直半泣きだ。
「何なんですか毎日毎日!もう借りに値する恩の量がとっくに超えてるって!」
「恩返しの量は貴女が決めるものじゃない、俺が決めるものですよ」
「笑うな!意味あり気すぎて怖い!っていうか自分で決める恩義ってなんだそれ!」
「貴女には特別に倍返しさせて貰ってるんですよ」
いらない!何だ倍返しって!楽しそうに言ってるのがまたむかっ腹立つ。
いつの間にか手の平にはじっとりと汗がかいていた。筋肉もぷるぷるしてくる。もう駄目、開いちゃいそう。
「うぶっ」
「ああ、開きましたね」
「開きましたね、じゃないよ!誰のせいだよ!」
すぱーんと良い音を立てて戸が開き、私はお尻から床へすっ飛んだ。倍にして返した恩に追加でこれか。腰が痛い。
「ひどい!怖いって言ってんのに!無理やり入ってくる奴があるかー!」
「そのわりに逃げるという選択肢は無いんですね」
「もう諦めてんのよ!」
戸を閉められた。ゆっくり近づいて来るものだから、すっ飛んだ時のままの体勢でじりじりと後ろへ下がる。あ、今さりげなく戸につっかえ棒した。
「ちょっと、何その棒」
「ああ、これですか?昨晩この部屋に入れておきました」
「人の部屋で好き勝手…」
私はこの部屋で一体何をされるというんだ。危険が危ない。
そうこうしているうちに背中が壁にぶつかる。さっき尻もちついたせいで衝撃が腰に響いた。痛い。
「もうやだ近いよー怖いよー」
「嫌なら殴るくらいしたって良いんですよ」
目の前にしゃがんで来た。何だこの余裕な態度。
さっき俺と戸越しに力比べした怪力はどこに行ったんですかと宣う。うるさいバカヤロウ、事情が違うわ事情が。何ならご希望通り殴ってやろうか。
「うっ」
「本気じゃないですね」
無駄にはだけさせた胸元にいらついたからそこをめがけて拳を繰り出すも、あっさり片手で受け止められた。分かっていたかのように。
悔しいから精一杯腕に力を込める。が、やっぱり勝てずぐぐっと右手が上に持ってかれる。あれれ、何だかおかしいよこれ。
「特別に倍返しさせて貰った恩返しの件ですが」
耳の横で手が押さえつけられた。ますます近寄ってくる顔、無意識に息を潜める。彼のもう片方の手が壁に置かれた。逃げ道なし。
「なによ」
「過分を貴女から返して貰おうかと」
「私にどうしろと…」
「さっき手を挟んだ件も含めて」
それもかよ。結構細かいなこの人。
と余裕ぶれるのももうお終い。胸が早鐘を打っている。
もーやだ、何をされちゃうの私。
「抵抗して来ないということは、そういうことで良いんでしょう?」
「もう好きにすればいいじゃない」
「素直じゃないですね」
嘘でしょと言いたいこの状況、抵抗するだけ無駄じゃないか。負けたよ、法正殿には。
いよいよ焦点も合わないほど接近されて、唇が重なる。初めてするわりにはねっとり深い口付けだ。
もっとこう、最初ってちょっとくらい遠慮があるものじゃないのか。
そんな突っ込みも喉元で消え去ってしまう。
「打って変わって随分もの欲しそうな顔をしますね」
「してない」
唇が離れて行って一息つけば、そう言われた。そんな風に取られたのなら、もうそれでいいや。
でもやっぱり悔しいから今度は左手で鉄拳を繰り出す。案の定また捕まえられて、その手もねじ伏せられた。
お野菜ってそんなに高いんだなあ。って、そういうことじゃあないか。ひどい過分請求だ。
私、もう駄目かも。
呑まれました
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