花子









やっべえこーすけ!と清川くんは歯磨きをしたまま洗面所から顔を出した。そのまま清川くんの口から泡立った歯みがき粉がぽたりと垂れていく。そのまま清川くんは喋り出すものだから何を言ってるのか分かんないし汚ない!てかこーすけって誰?とりあえず清川くんを歯磨きに集中させた後に聞いた話はこうだった。
こーすけ、本名山田こうすけくん。隣に住む幼馴染み。毎日迎えに来てくれて、一緒に登校しているようだ。そして毎回、遅刻するからと途中で置いていってるらしい。ひどい話だ。

「それじゃあわたし山田くんと一緒に行く。清川くんはそろそろ出て」
「は!?おまえなんでそんな簡単に言ってんだよ!いろいろあるだろ!いろいろ!」
「なに今さら言ってるの清川くん、わたしたちもうこれからこの体で生きていくって昨日話したでしょ」
「〜〜っ!わかったよ!」

どこか納得していないムッスーとした清川くんは、朝御飯を急いで口に運ぶとわたしのスクールバックを手に取った。その姿はどこからどうみても、わたし。わたしなのに、わたしじゃない。わたしの手を引っ張って、ずっと外に出ないでいたい。そうしたら、少しは楽なんじゃかないかって、思ったりしてる。本当は、余裕ぶってるけど不安ばっかり。こわいよ。昨日の夜からずっと自分に言い聞かせてる。わたしはもう、清川くんなんだって。だってそうしないとすぐにぼろが出ちゃうだろうから。山田くんとだって話したことなんてないのに、今日からわたしと山田くんは幼馴染みの大親友。何も知らない、山田くんのこと。そもそもわたしは清川くんのことすら、何も知らない。

「清川くん、おにぎり。お昼に食べて。あと、教室に着いたら本読んで、そしたらヒラくんと少し喋ってくれたら後は平気だから」
「うん」
「わたし、特になにもないから」
「うん」
「ごめんね」
「俺も、特になにもねーから」

おにぎりありがとう、行ってきますと清川くんは家を出た。その背中を見送るわたしの複雑な心境。ああ、なんだか、どうしたらいいんだろう。はやくはやく清川くんにならなきゃって、焦ってる。なんだろう、見た目は清川くん、中身は#name2#、みたいな、夕方のアニメみたいなそんな。言うのは簡単だけど、理解するのとか、全然違うし。
病院に行ったら治るとか、時間があるとずっと考えてしまう。行ったら行ったで研究いっぱいされて、脳とか、いろいろ、でも治らなかったら?もう公言しちゃう?わたしは清川くんじゃないんだって、そうしたらわたしはわたしで生きていけるの?でも、もういいって決まったの。昨日全部話したの。泣いて帰った昨日、清川くんと。

垂れ流しになったテレビと、この部屋の無音の隙間に、インターフォンが静かに響いた。


20160227

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