花子









おはよう、そう言った声は震えていたと思う。これが、初めての、清川清志としての声だった。

山田くんと、何を話したのか正直全く覚えてない。頑張ろう頑張ろうって意気込んで、清川くんの家を出て、彼の顔を見た瞬間頭は真っ白になった。用意してきた挨拶とか、清川くんぽい喋り方とか。途中で耐えきれなくなって、清川くんに教えてもらっていた、山田くんを置いていく場所もまだまだなのに、先行くって走り出してしまった。ごめんね山田くん…明日から頑張るから今日はどうか許してほしい。
早い段階で山田くんを置いて走ってきたせいか、校門前には普通に登校する生徒がいて、予鈴がなったすぐのようだった。

「あれ?キヨ?」

一人で歩いているとさっきよりも全然冷静で、山田くんを置いてきたことが、今になって酷い罪悪感となって襲ってきた。ああ、どうしよう…。山田くんにも勿論だけど、清川くんの人としての信用を暴落させてしまったのではないだろうか…。

「キヨってば!!」
「きゃあ!」
「きゃあっておまえ女子かよ」

突然肩をぽん、と叩かれて、驚いて振り向けばそこには、藤くんがいた。えっ、えっ、なんで、なに、ちょっとまって。彼の登場にわたしの頭は完全にパニックだった。心臓がばくばくしている。ただでさえ山田くんを置いてきたという予定にない行動をしてきたのに、こんなのってある?わたしの中で山田くんを置いてきた行動が全て間違っていたのだと、すでに後悔の結論が生まれていた。とにかくどうしよう、山田くんの話は隅々まで聞いてきたけど、藤くんのことはなにも聞いてない。

「キヨ?」
「えっ、あっ、おはよう!フジ!」
「なにキヨ大丈夫?なんかおかしくない?熱?てかこーすけは?」
「えっ、こーすけ?!あっ、こーすけ、置いてきた、うん、置いてきた、そう置いてきた」
「はあ?!なにやってんの!?やべえべや!普通に!」

色々と全部、やばい。ほんとうに、どうしたらいいの。しかもこの時間に登校する生徒には清川くんの友達が多いらしく、下駄箱についてからは、あれ?キヨじゃん!?めずらしくね?!とか、こーすけどうしたんだよ!ってどついてきたり、終いには女子生徒からちょっと甘い感じで声をかけられるし、清川くんの交流関係が今だけ酷く憎い。わたしはひたすら清川くんの顔で笑ってその場をしのぎ続けている。けど、もう限界。

「ごめん」
「えっ、キヨ?!?」

かかとの履き潰された上履きで走るのが酷く辛くて、気持ちとは裏原に背丈の変わった体で走るのは酷く、軽かった。

20160503

- 9 -

*前次#


ページ: