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1組に佐武という名前の子がいたら会いに行き、隣町に照星という名前の喫茶店があれば足を運んだ。一生懸命、探した。インターネットで狙撃とか乗馬のキーワードを入れて検索をしたり、能を見に行ったりと、思い付く限り動いた。
結局、何の収穫もないまま私は高校3年生になってしまった。うら若き乙女のうちに照星さんに会いたいなぁ。おばあちゃんになってから出会っても悲しいよ。
学校が終わって、ヘッドホンをあてて音楽を聞きながら電車に乗る。もうすぐ、模試があるから帰ったら勉強しないとヤバいなぁ…。ふうと溜め息を吐くと背後がもぞもぞとした。気のせいだと思いたかったが、残念ながら気のせいではなかった。うわ、痴漢だよぉ。大声をあげる勇気はない。でも、触らせ続けるのも嫌だ。気持ち悪いから嫌だ。
どうしようどうしようと悩んでいると、低くて色っぽい声が聞こえた。私は期待をこめて振り向くと、懐かしい男性がいた。
「貴様、いい年をして恥ずかしくはないのか?」
「何だよ、俺は別に…」
「冤罪だでもと言うか?何なら、裁判所で戦うか?」
「あー?うっせぇな。兄ちゃんには関係ないだろ!」
「刑事告訴されたいのか」
「ちぃっ…」
呆然と二人のやり取りを眺めていたら、おじさんが、つまんない捨て台詞を言って電車から降りていった。
髪の綺麗な男の人はグレーのスーツを着ていて首には黒いマフラーを巻いてた。くるりと彼が私の方を向いた。顔を見た瞬間、泣きそうになる。照星さんだ…。
「大丈夫か?」
「は…」
「ああいう輩がいるから、そんな短いスカートを履くんじゃない。気を付けろ」
「あ、あう…」
「では、私はこれで」
照星さんに会えた喜びで、言葉を発することができずにいた私を置いて照星さんは電車から足早に降りていこうとした。
ここで逃がしたら、二度と会えないかもしれない!逃がして堪るかぁぁっ!
「待ってっ!」
「!?」
「照星さん!」
「な…」
私が照星さんのスーツを引っ張ったから電車から降りられずにドアが閉まった。後から怒られるかもしれないと思ったけど、やっと会えたんだから話がしたい。
「照星さん、照星さん」
「…似ている」
「へ?誰に?」
「弟」
「弟…がいるんですか?」
「あぁ。で、何の用だ?」
「照星さん。私のこと、覚えていますか?なまえです」
「どこかで会ったことがあるのか?すまん、忘れた」
「わお…」
酷いわ。私は何百年も昔からあなただけを愛し続けていたのに!なんて言ったら確実にひかれると分かっていたから、別に言わない。今も昔も照星さんはきっと冷製沈着、冗談とか言わない真面目で堅い人のはず。
「ね、照星さん。どう?」
「どう、とは?」
「今回は私のこと、好きになってくれる?」
「…君は私を犯罪者にでもするつもりなのか?」
「大丈夫だよ。もうすぐ高校を卒業する予定だから」
「いや、違う。そういう問題ではなくだな…」
じゃあ、どういう問題でしょう。あっ、もしかして彼女いるの?ねぇ、いるの?そう捲し立てると、照星さんは大きな溜め息を吐いて名刺を私に手渡してきた。
「…弁護士なんですか?」
「とりあえず、今日は時間がない。また今度ゆっくりと話を聞いてやるから」
「あっ。し、照星さん!」
止める間もなく照星さんは電車から降りていってしまった。相変わらずクール。
でも、照星さんにまた会えた。連絡先も手に入れた。また会ってくれるらしい。やっぱり、照星さんは何年経っても素敵だし優しい。どうしよう、本当に好き。
その日の夜は照星さんのことで頭がいっぱいで、勉強が一切手につかなかった。
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