14
にこにこと満面の笑みで合格通知を持つなまえは、それはそれは嬉しそうだった。第一志望校しか受けていないというのだから呆れる。本当に受かってよかった。
「わーい。ふふふ、これで私も華の女子大生だ」
「1molは何Lだ?」
「えっと…22.2L?」
「…よく受かったな」
「私的には終わりよければ全てよし、なんですぅ…」
「なまえは大学に入ってからも苦労しそうだな」
「むー…」
頬を膨らませて、むくれるなまえを連れて適当な店に入った。最近、なまえと毎日のように会っていた。受験結果が分かるまでは不安で一人でいたくないと言うからだったが、明日からは会わないのか?
「なまえ」
「はい」
「明日からは…」
「明日からは?」
「…いや、何でもない」
「え。言って下さいよ」
「だから、何でもない」
アホらしい。明日からは会わなくていいんだろう?なんてカマをかける必要などない。仕事が溜まっているではないか。
いつから私はこんなに女々しくなったのだろうか。なまえに会いたいと言われて安心しているなんて、どうかしている。
「ねぇ、照星さん」
「何でもないから、さっさと食え。料理が冷めるぞ」
「むぅ…教えて下さいよ」
「しつこい。何でもない」
「ちぇー」
むすっとしていたくせに、飯を口にした瞬間、ヘラリと笑うのだから、面白い。感情を逐一、ストーレトに表現ができるなまえが私は羨ましかった。しかし、この子にはこの子なりの悩みがあるだろう。全ての人間から好かれている者などいない。それを私は仕事柄よく知っていた。
「…まぁ、困ったことがあれば、私に言いなさい」
「え?」
「力にはなろう」
「えっ、えっ?」
「さて。そろそろ帰るぞ」
「早くないですか?」
「未成年は22時までには必ず家に帰れ。条例違反だ」
「そんな、真面目な…」
「弁護士だからな」
会計を済ませて店を出ると外はもう随分と冷えていた。空気がひどく冷たい。しかし、冷えるというのになまえは相変わらずコートもマフラーも身に付けていなかった。また、コートを忘れたのか。
「ふぁー。寒…」
「…その割に薄着だな」
「コート、忘れました」
「………」
「部屋は暖かかったので」
「アホか。真冬だそ?」
「ねー…」
はは、と困ったように笑うなまえの首にマフラーを巻いてやり、家までタクシーで送ることにした。風邪をひきかねん。
家が暖かいからコートを忘れた、なんて言い訳は初めて聞いた。何を考えているのだろうか。いや、こいつは何も考えていないのか…
「本当、昔から照星さんって女子に優しいですよね」
「手のかかる不肖の妹を持った気分だ」
「そこは彼女でいいじゃないですかぁ」
「法に触れるようなことを軽々しく言うな」
「私も、受かったからもうすぐ大学生だもーん」
「大学生であろうが、子供には違いないだろう」
「もう大人だもん!」
「大人だと言うのなら防寒着を忘れないようにしろ」
「む…」
言葉に詰まったなまえは急に大人しくなった。さすがに子供扱いをし過ぎたか。
大人、か。なまえには早く大人になってもらいたいような、そうでもないような。なまえはどんな大学生になるのだろう。私が学生だった頃と変わっているだろう。
運転手に自分の家を説明するなまえを見ていて、もう少しこうしていたいと思ってしまった私は毒されているのだろうか。
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