17
悲しい夢を見た。照星さんのことが好きで好きでたまりません!といつものように伝えると、冷静に嫌いだと言われた。
現実の照星さんは私の世話を最近、いろいろと焼いてくれるけど面倒だと思っているんだろうなぁ。嫌いではないと照星さんは言ってくれたけど、本当かなぁ。
「照星さん」
「何だ」
「好きです」
「…久しぶりに聞いたな」
「好きです。大好きです」
「分かった。分かったから、さっさと薬を飲め」
「はぁい」
薬を飲むと口に苦味が広がって思わず顔をしかめた。粉薬は未だに大嫌いだ。そういえば、子供の時はお母さんがあの手この手で薬を飲まそうと必死だった。懐かしくて、とても悲しい思い出、だ。
「なまえの両親は共働きか?何をしている」
「んーと、公務員さん?」
「そうか。では、18時には帰ってくるな」
「帰ってきませんよ?」
「残業か?」
「いいえ、両親はもういませんから」
「では…」
「交通事故で2年前に亡くなりました」
「…そうか」
そう、事故だった。家族3人で仲良くお出掛けをしていた私たちは玉突き事故に巻き込まれてしまった。もう懐かしい。その時、お父さんもお母さんも即死だったのに私だけが助かってしまった。胸に一生消えない傷を残して、生きている。本当は、死にたかった。誰もいない家で暮らすことは辛かったし、遺産相続で揉める親戚を見るのも堪えられなかった。
結局この家以外はみんな親戚が持っていってしまい、私は生命保険でどうにか生きている。それも、とられたけどね。
「人って、恐いですよね」
「…そうだな」
「照星さんは?実家暮らしなんですか?」
「いや、一人暮らしだ」
「やった!じゃあ、一緒に住みませんか?ね?」
「アホか」
「ちぇ…」
やっぱり、駄目か。独りでこの家にいることは、苦痛以外の何物でもなかった。嫌でも思い出す両親との思い出。忘れたくないけど、思い出すと少し辛くなる。
両親が入っていた生命保険で、お葬式をしてお墓を建てて。残りで位牌を買って毎日手を合わせる。そんな日常に私は疲れていた。誰かに助けて欲しかった。でも、同情なんかされたくなかった。だから誰にも言えなかった。友達もそうだけど照星さんにも知られたくなかった。明るく振る舞えばいい。そう自分に言い聞かせて生きてきた。それはこれからも変わらない。私は、独りぼっちなんだ。
「あは、暗い話になっちゃいましたね」
「………」
「照星さん、今日は本当にありがとうございました。私、すごく助かりました」
「なまえ…」
「うつる前に帰った方がいいですよね。照星さんが風邪をひいたら大変ですし」
「なまえ!」
泣きそうなのを必死に堪えながら私は、ペラペラと喋った。それを照星さんに大声を出されて制止されてしまうと、空気に堪えられなくなって泣いてしまった。
照星さんにだけは同情はされたくない。可哀想だなんて絶対に思われたくない。
「えへ…」
「笑うな」
「違うの、別に悲しくなんかないの…」
「………」
「だから、同情なんてしないで下さい」
対等でいて下さい。あなたは私と同じ、普通に生きているだけなんです。両親はいないけど、私は不幸じゃないんです。泣きながら言ったって、どれだけの説得力があるだろうか。分かっているんだ、泣き止まなきゃって。なのに止まらない。涙腺が遂に壊れちゃったかな。
「前に言っただろう」
「…え?」
「困ったことがあったら、言えと」
「あぁ…」
「だから、何かあれば連絡するしろ。話を聞くぐらいしかできないがな…」
「そんな、いいもん!同情なんて…っ」
「同情ではない。ただ単に、力になりたいだけだ」
「…ずびっ」
「だから、鼻はかめと言っただろう…」
シリアスな話中なのに、何て緊張感のない鼻なんだ。鼻水なんか枯れちゃえ。チーンと鼻をかんで照星さんを見ると、優しく笑ってくれた。頼りたくないけど頼りたい。私を独りにしないで欲しい。私の傍にいて欲しい。助けて、欲しい。
言えない。そんはこと絶対に言えない。
何も言えず、俯く私の頭を照星さんは抱えるように抱いてくれた。照星さんの心臓の音が近くに聞こえて少し安心する。何故、この人はこんなにも優しいのだろうか。何故、私なんかに構ってくれるのだろうか。あぁ、好きだ。彼が好きだ。
「照星さぁん…」
「何だ」
「もう少し泣いてもいいですか…?」
「あぁ。泣け」
「う、うわーん!あー!」
私は、両親が死んで、初めて声を出して泣いた。今だけ、今だけ助けて下さい。好きとか、計算とか、そういうのじゃなく、単純に照星さんの胸を借りて私はしばらく泣いた。照星さんは何も言わず、ただただ私の背中を撫でてくれていた。
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