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離婚調停、債務整理、遺産相続。これが私の一番多い仕事だった。特にここ最近は離婚調停が異様に多い。こう続くとさすがに嫌気がさす。溜め息を吐きながら携帯をチェックした。着信も新着メールなし。最近、またなまえから連絡がこない。なまえが連絡をよこさないと、不安になる。また一人で思い悩んでいるか、もしくは遊び歩いているか。いずれにしても私にとって頭の痛い問題に違いはなかった。


「はぁ…」

「照星くん、お疲れ?」

「あ、いや…」

「お疲れのところ悪いんだけど、これ頼めるかな?遺産整理関係の裁判」

「あぁ…」

「悪いね。あ、凄い内容だけど、クライアントに口出しはするなよ?いいね?」

「分かっています」


何を今更、と思いながら受け取ったファイルを開く。溜め息を吐きながら件の住所を調べてみると、自分の目を疑った。なまえの家だ。嫌な予感がした。最近、なまえから連絡がない理由がもしもこれだとしたなら…!
オフィスを出てなまえに電話をしたが、出なかった。急いでなまえの家に向かうと、そこは既に差し押さえられていた。鞄からファイルを出して、依頼人に連絡をする。見れば見るほどに酷い内容だ。


「はい」

「私、今回、遺産整理を担当させていただきます弁護士の佐武照星と申します」

「あぁ、どうも」

「今、件の不動産の前にいるのですが、差し押さえになっていますが一体…」

「あぁ。売却するので」

「…ここに住んでいた子は今、どこに?」

「さぁ?そんな子のことは知りませんねぇ…」


受話器からケタケタと笑う声が聞こえてきて、腹が立った。なまえは今、どこだ?
依頼主との電話を切り、なまえに電話を再びかけてみたが、電源が切られていた。視界が暗くなった。仕事中だ、事務所に戻らなくてはならない。だが、なまえを早く見つけなければ。嫌な胸騒ぎがする。こういう時、人間とはシンプルだと思い知らされた。私は仕事よりもなまえを迷わずに選んだ。最悪の場合、命に関わる。
必死に走った。行く宛などないだろう。誰かに頼ることを否むなまえが友人に頼るとは到底思えない。恐らく、一人でどこか街をフラフラと彷徨い歩いているのだろう。肺が痛くて、でも止まれなかった。早く探さなければという想いで必死だった。
大通りを走り、信号待ちをしている時にふと歩道橋を見上げた。珍しくコートを着ているなまえが、下を見下ろしていた。


「…っ、なまえ!」


当然、なまえには私の声は届かない。風がなまえの赤いマフラーを揺らしている。
もう、信号が変わるのなど待っていられなかった。車の合間をぬって、走った。


「なまえ!」

「…照星さん?」

「こ、こんな、所で…っな、にを、している…?」

「ちょ、大丈夫ですか!?」

「久しぶりに、走った、ので、な…」

「走った?急用ですか?」

「アホ…っ」


思わず抱き締めたなまえの身体は冷たかった。何時間、ここにいたのだろうか。春とはいえ、まだ肌寒い。ましてや、こんな田舎町。雪だってまだまだ降る。


「また風邪をひくぞ」

「あは、そうですね…っ」

「一体何があった?」

「照星さん…!」


張り詰めていたものが切れたようになまえは泣き出した。事務所からだろう、携帯が私のコートのポケットで鳴っていた。私はこの案件を受けられない。私がなまえを護らなくて誰が護るのだ。
なまえの手をひいて、ひとまず私の家へと連れて行くことにした。大丈夫、なまえは必ず私が護る。


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