01
おかしな話だ。いつも、あんなに煩いくらいに騒いでいたなまえが静かだなんて。相変わらず笑っているが、とても穏やかな顔だった。こんな顔は初めて見た。頬に触れると、いつもよりも体温が随分と低くて、でもまだ身体は温かかった。
どうして、こんなことになったのだろうか。私はまだお前に何も伝えていない。散々、私に付きまとっていたくせに、答えを聞く前にお前は逝ってしまうのか。
「照星、そこまでだ」
銃口を首に当てられたが、最早、どうでもよかった。
火縄銃の音が静かな森に煩いぐらいに鳴り響いた。
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2年前
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「虎若」
「えへへ。先輩」
「どうしたの?」
「これから忍術学園に照星さんが来るんです」
「照星さん?」
「僕の尊敬する人で、僕の火縄銃の師匠です」
「ふーん?」
照星さん、ねぇ。しかし、いつもは落ち着いている虎若がこんなにも浮かれるんだから、きっと凄い人なんだろうなぁ。
少し興味を持った私は、照星さんとやらを虎若と校門で一緒に待つことにした。虎若は浮かれすぎて、口からヨダレが出ている。え、照星さんて美味しいの?
虎若のヨダレを拭ってあげると、キィと門が開いた。入ってきたのは淡白な顔の男の人。淡白というか、能面みたいというか。
「照星さん!」
「若太夫」
「えっ!この人が照星さん!?え、マジで?」
「若太夫。この子は?」
「生物委員会委員長のなまえ先輩です」
「初めまして…」
「初めまして。いつも若太夫が世話になっている」
「は、はぁ…」
ぶっちゃけ、実際に世話をしているのは竹谷だけど。まぁ、いいや。竹谷だし。
というか、照星さん全然、思っていたのと違うんだけど。滅茶苦茶、不気味。色白で目鼻立ちがよくて、睫毛が長くて声が低くて色っぽくて。あれ?文字にしてみると案外かっこいい感じになった。
「照星さん、今日は?」
「学園長に用がある」
「そうですか。あの、僕も同席してもいいですか?」
「あぁ。戦の状況を知ることは、いいことだ」
「やったぁ!」
「…私もいいですか?」
「あぁ」
戦の状況に興味は微塵もないけど、就職に有利になることを聞けたらいいと思って同席させてもらった。あー、退屈だったぁ。
欠伸をして、三人で歩いていると、突然に虎若が火縄銃を見てほしいと言った。照星さんもいいよと言ったから何故か火縄銃の練習を見ることになってしまう。虎若がどんどん撃っていくのを真剣に見つめる照星さんを私はじっと見つめた。目が慣れてきたのか、不気味だとは思わなくなってきた。案外いけてる、かも。
「若太夫。腕を下げるな」
「うぅっ…」
「貸しなさい」
一瞬、時間が止まったかと思った。火縄銃を持った照星さんは凄く綺麗だった。呆然と見ている私に照星さんは笑いかけてくれた。あぁ、かっこいいじゃん。
夕方になるまで、照星さんは虎若と火縄銃の練習をしていた。時折、照星さんは火縄銃を構えたり撃ったりしていて、その度に胸がきゅーんと締め付けられる。
「では、若太夫」
「照星さん、また来て火縄銃の指導をして下さい」
「あぁ。またな」
「あのっ…」
「何だ?生物委員長殿」
「私、なまえといいます。覚えておいて下さいね」
「…?分かった」
夕日を背に、照星さんは帰っていった。
その日、私と虎若はずっと照星さんの素敵なところを延々と話し合い過ごした。もしかしたら、もしかしたら。私、照星さんのこと好きになっちゃったかも…。
早く照星さんに会いたいなぁ、と思いながら眠る夜はとても幸せなものだった。
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