雑渡さんと一緒! 112
なまえはもう成人している。つまり、堂々と酒を飲むことが出来るようになったということだ。そして、もうすぐ成人式がある。この中途半端な雪国の成人式は成人の日にあるというのだから、驚きだ。毎年豪雪だというというのに。
まぁ、何にしても成人式が近い。成人式の後は私がそうであったように同窓会がある。まぁ、私は成人式には怠くて行かなかったんだけど。何なら、同窓会も途中で抜けたけど。
「とにかく、今日は飲みなさい」
「わぁい。初めてのお酒だ」
「いい?ちゃんと飲みなさい」
「はーい」
居酒屋でなまえは甘そうな酒を頼んだ。見るからに甘そうで、そして飲みやすいのだろう。まるでジュースのように飲んでいた。それを見て、やっぱり連れてきてよかったと心から思った。一人で飲ませるには危な過ぎる。
本当は心配だから同窓会なんて行かせたくはないし、行かせるのなら一緒に着いて行きたい。だけど、流石に同窓会に私が着いて行くわけにも、ずっと見張っているわけにもいかないだろう。ただ、飲んだこともないなまえは飲み方を知らない。酔って倒れた挙句、男にホテルに連れ込まれでもしたら一大事だ。だから、今日はなまえの限界を身を持って知ってもらうために居酒屋に連れて来た。私自身も酒で失敗したことが何度かある。大体は隣に知らない女が寝ている、というオチではあったけど、そうなってもらっては困る。相手の男を社会的にではなく、本当に殺してしまいそうだから。
「お酒って美味しいんですね。次は何にしようかな」
「さぁ?私は甘い酒は飲めないから」
「ちょっと昆奈門さんのビールを飲ませて下さいよ」
「ん」
「わー…うぇ、苦…」
「はは。なまえにはまだ早いか」
露骨に嫌そうな顔をしたなまえが可笑しくて思わず笑ってしまう。私はビールか日本酒、ウイスキー、まぁたまにウイスキーとワインくらいしか飲まない。ほとんどビールだけど。そして、飲もうと思えばビールなら10杯程は平気で飲める。ただ、翌日のことを考えれば7-8杯程度がいいところだろう。もう自分の限界も、飲み方も知っている。
二杯目の酒もジュースのように飲むなまえを見て、これは近場のホテルを押さえておいた方がいいなと携帯を開く。
「ねぇ、そろそろアプリで連絡取りましょうよ?」
「やだ。使いこなせない」
「スタンプとか送れるんですよぉ?」
「…うん。そうなんだ」
「えへへ…楽しいんですよー」
「そう。それはそれは…」
顔を赤くして、とろんとした顔をして笑うなまえを見て、これは酒を飲ませない方がいいのではないかと思った。もう酔っている。いくら飲み方がよろしくなかったとはいえ、弱い、弱過ぎる。あと、可愛い。物凄く可愛い。
ホテルを押さえてから、三杯目を勧める。可哀想だけど、吐くまで飲ませるのがいいだろう。今、止めたところで酒の怖さは分からないだろうから。しかし、家で飲まなくてよかったと心から思った。家で飲んでいたら間違いなく襲っていた。そのくらい、今のなまえは可愛い。成人式のために伸ばした髪の間から覗く白い首筋が何ともそそる。あぁ、今すぐなまえを抱きたい。めちゃくちゃにしたい。あー…まずい。
「…今日は私も死ぬほど飲む」
「あれぇ、珍しいですね」
「勃たないくらい飲んでおかないと、まずい」
「ふぅん…?」
どうせ明日は休みだ。二人で二日酔いになればいいだろう。もう性欲よりも睡眠欲が勝るくらいまで飲まないとなまえを犯しそうだ。自分を止められる自信が微塵もない。
二人で馬鹿みたく飲んで、五杯目あたりでなまえの手の動きが止まった。そして、ぐらぐらと揺れ始めた。眠そうだ。
「なまえ、起きなさい」
「眠いですぅ…」
「いいから起きなさい。で、水を飲みなさい」
「もう飲めな…う、気持ち悪い…っ」
「よし。吐いて来なさい」
よたよたとトイレに向かって壁伝いに歩くなまえを見て、ホッとした。よかった、どうにか終わった。
ただ、私もかなり酔っている。間違いなく明日は二日酔いになる程飲んだ。どうして私は当日にも翌日にも吐けないのだろうか。吐ければ多分、少しは楽なんだろうけどなぁと思いながら会計を済ませて水を飲む。染み渡る、とはこういうことを指すのだろうと思うほどに水が美味しかった。
「あの、お客様…」
「ん…?」
「お連れ様がトイレで倒れておられまして…」
「え」
「タクシーを呼びましょうか?」
「あぁ…」
店員に案内された先でなまえがすやすやと寝ていた。安らかな顔をしているけど、これ、ちゃんと吐けたのだろうか。
「なまえ、起きなさい」
「んんー…」
「ほら、帰るよ」
「んー…」
なまえを抱えて店を出て、近くのホテルに連れ込む。ベッドに寝かせて、私も隣のベッドに横になった。眠いし怠い。あと、既に気持ち悪い。指折り何杯飲んだんだっけと数えてみたけど、もう思い出せもしないから、やめた。
そして翌日。案の定、二人で二日酔いになった。最悪の体調のままシャワーを浴びて、ぐったりとまた横になる。
「気持ち悪い、頭痛い…」
「ねぇ、分かった?なまえは酒を飲むにはまだ早い」
「…もう二度と飲みません」
「同窓会でも?」
「飲みませんって。うぅ、つらい…」
「そう。じゃあ、よかった」
つらいつらいと言うなまえとチェックアウトをしてから薬局で薬を買って帰宅する。家に帰るなり私はベッドに傾れ込んだけど、なまえは経口補水液を飲んでいた。こういうところは素晴らしいと思う。あんな不味い水なんて絶対に自ら飲みたくない。だけど、なまえはスッと差し出して来た。
二人で薬と一緒に流し込んで、ゴロゴロとベッドで過ごし、ようやく動けるようになった夕方に二人でラーメンを食べに出掛けた。胃の調子がまだよろしくない私と違ってなまえは美味しそうに食べていたから、これは若さなのだろう。
「お酒って怖いんですね…」
「分かってもらえたなら、よかったよ」
「あ、わざと飲ませましたね?」
「まぁね」
「酷い…ちゃんと飲み方を教えて下さいよ」
「それは、また今度」
ただし、次は家で。酒なんて飲まなくてもいいのなら、飲まない方が絶対にいい。それに、人前では飲ませたくもない。あんなに可愛い顔をしたなまえを人に晒すのかと思うと気が気ではない。絶対に襲われる。絶対に危ない。
まぁ、何にしても私の作戦が功を奏したようでよかった。ただ、この日を境になまえは私が酒を飲むと心配するようになったから、やり過ぎた感は否めない。それでも、とりあえずは心配ごとが一つ減って私は胸を撫で下ろすのだった。
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