雑渡さんと一緒! 115


「なまえ、おはよう」

「おはよう」

「昨日はありがとう。超イケメンを紹介してくれて」

「ね。佐茂さん、イケメンだよね」


昨日、四人でご飯を食べに行った。久し振りに会う佐茂さんはやっぱりかっこよかったし、とても優しかった。それに、きぃちゃんとも楽しそうに話をしていた。だから、私はうまくいくのではないかと思っていた。だけど、昆奈門さんは私の考えに否定的だった。あの二人は絶対にうまくいかない、と言っていた。その理由は何度聞いても教えてはもらえなかったから分からない。
二人で学食でお昼ご飯を食べながら、昨日別れた後のことを聞いてみる。あの後は佐茂さんと一緒にドライブをして、夜は夜景が見えるお洒落なレストランに連れて行ってもらったらしい。とてつもなく素敵なデートをしたんだね、と私が興奮気味に言うと、きぃちゃんは静かに首を横に振った。


「あの人、駄目ね」

「えっ、何で?」

「背伸びし過ぎているから」

「えぇ!?それ、背伸びなのかな?スマートな大人じゃん」

「なんか、作った感じが腹立たしい」

「…そうかなぁ」

「あれはモテるんだろうけど、遊んでもいるのよ。誰に対しても同じことをしているわ。私なんてその他大勢の一人よ」

「考え過ぎじゃない?」

「あの人、本気の恋愛なんてしたことなさそう」

「うーん…」

「私のこと、遊んで捨てる気なのよ、絶対」


そうかなぁ、私にはそんな風に見えなかったけどなぁ。どちらかといえば、きぃちゃんに遠慮しているような、一歩踏み出すことが怖いと思っているように見えた。まるで、付き合う前の昆奈門さんにそっくりだなぁと思ったくらいだ。受け入れて欲しいのに、受け入れて欲しくない的な。
きぃちゃんはサラダにドレッシングをかけずに食べ切っていた。そして、物足りなそうな顔をして溜め息を吐いた。


「ごちそうさま」

「えっ。きぃちゃん、もういいの?」

「うん。痩せようと思って」

「えー。太ってないじゃん」

「だって、可愛くなりたいじゃない?」

「きぃちゃんは可愛いよ」

「それは佐茂さんに思われないと意味がないでしょ」

「えっ。じゃあ、きぃちゃん…」

「あぁ、勘違いしないでよ?別に佐茂さんに可愛いと思われたいわけじゃないから。本当に他意はないからね、他意は」


きぃちゃんは顔を赤くしながらパタパタ顔を仰いでいた。これはいい感じなんじゃないのだろうか。きぃちゃんは今までずっと滅多に彼氏に会えなくて寂しいと言っていた。佐茂さんになら安心してきぃちゃんを任せられる。
私はうきうきと昆奈門さんにこの旨を報告した。だけど、やっぱり昆奈門さんは首を横に振って否定的なことを言った。


「北石がそうであっても、佐茂は違うから」

「もう…どうしてそう思うんです?」

「別に。何となくそう思うだけだよ」

「嘘。絶対に何か確信があるんでしょ?」

「…北石とは佐茂が前世で想い合っていた仲ではない」

「そうなんですか?」

「佐茂の亡くした女がそうらしい」

「へぇ」

「だから、北石では無理だ」


昆奈門さんは煙を吐いた。右手に持っている煙草から揺れる煙を見ながら、私は首を傾げた。だから、何だというのだろうか。別に前世は前世、今世は今世だと私は思う。確かに私は昆奈門さんと前世でも想い合っていたし、今世でもこうして一緒にいる。だけど、それはあくまでも私たちの話であって、佐茂さんがそうとは限らないのではないだろうか。それに、佐茂さんは前世で好きだった人と死別しているというのなら、やっぱり何の問題もないと私は思う。次に進んでもいいと思う。
昆奈門さんの肩にそっと寄り掛かる。前世とは、運命とは何なのだろう。それに従う必要なんてない。今を生きているのは、あくまでも私たちなのだから、前世なんて関係ない。


「…ねぇ、昆奈門さん。仮に昆奈門さんに前世の記憶がなかったとしても、私のことを好きになってくれていましたか?」

「なっただろうね」

「うーん…」

「だって、私は今のなまえが好きだから。だけど、記憶がなければこうしてなまえと付き合うことはなかったとは思う」

「えっ。どうしてですか?」

「私は女が嫌いだから。まず間違いなく、好きになる程の関わりを持とうとはしなかっただろうね。だから、私に前世の記憶があったことは幸運だった。こうして過ごすことが出来ず、虚無の日々を送っていたかと思うと怖くて堪らないよ」


昆奈門さんはそっと肩を抱いたくれた。そうか、確かに昆奈門さんはモテるくせに女性が嫌いだからなぁ。何か理由があるのだろうか。それとも生理的に受け付けないのだろうか。何にしても、昆奈門さんに前世の記憶があってよかった。
じゃあ、きぃちゃんと佐茂さんはどうなんだろうか。少なくとも、きぃちゃんは佐茂さんに惹かれている。そして、多分だけど佐茂さんもきぃちゃんに惹かれている。私の勝手な想像だけど、そんな気がする。それを前世の繋がりがないという一言で片付けてしまうのは、あまりにも残念だと思った。


「佐茂さんは多分、きぃちゃんのことを気になっています」

「絶対にないって」

「今日も会っているのに、ですか?」

「今日も…えっ、あの二人、今日も会っているの!?」

「はい。ご飯を食べに行っているはずです」

「嘘でしょ…」


北石なんかと…と昆奈門さんは驚いていたけど、昆奈門さんはきぃちゃんを何だと思っているのだろうか。きぃちゃんは確かに軽口を叩く。冷たいようなことを言うこともある。だけど、本当は優しくて、情に深く、そして、一途で、彼氏に尽くすタイプだ。それを人前には決して見せないけど、もう私は知っている。きぃちゃんは可愛い女の子だと。
うまくいっていればいいな、と思いながらチラッと時計を見た。今頃二人は何をしているのだろう。どんな話をしているのだろう。どんな顔をしているのだろう。二人が幸せになってくれたらいいな、と揺れる煙草の煙を見ながら思った。


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