雑渡さんと一緒! 154


昆にお小遣いは一万、と言うと禁煙よりはマシだと言った。そんなわけで、抜き取ったお金を貯金箱に入れる。
休日、スーツを買いにデパートに赴いた。デパートに行く前に量販店を覗いてみたけど、びっくりするくらい生地感や見た目が違っていた。スーツに詳しくない私でも安物だと分かったのだ、きっと社長さんは許さないだろう。「それなりの物」の範囲がどの価格帯を指すのかは定かではないけど。
今持っているジャケットと同じ色みのスラックスを購入して帰宅した。よかった、予想の半額以下の値段で買えた。それでも、決して安いとはいえない。貯金箱に入れたお金では足りなかったのだから。やれやれ、と帰ってから珈琲を淹れると、昆はテーブルを指先でトントンと叩いた。煙草が吸いたいのだろう。だけど、本数のことを考えると吸えないから我慢していることは明らかだった。見るからに苛々している。


「偉い、ちゃんと考えて吸っているんだね」

「…まぁ」

「これなら、禁煙も夢じゃないんじゃない?」

「無理」


昆は短く返事をしてから、煙草に手を伸ばした。煙を吐きながら指折り数え始めたかと思えば、絶望したように溜め息を吐くものだから、これは相当辛いんだろうな、と思う。
別に私だって、頑張って仕事をしている昆からお金を巻き上げるような真似はしたくない。ただ、反省して欲しかっただけだ。でないと、きっとまた同じことを繰り返すだろうから。少し痛い目を見てもらって反省してもらわないと困る。ただ、予想よりも随分と頑張っていて少し驚いた。あの値段を見ずに買い物をするでお馴染みの昆が、コンビニではなくスーパーで発泡酒を買ってきた時は驚いた。煙草の種類は変わっていないけど、本数も私が知る限り随分とセーブしている。まだたったの二日しか経っていないけど、十分反省してそう。ちょっと見ていて可哀想なくらいだ。


「お金、返そうか?」

「えっ!いいの!?」

「その代わり、何かを我慢してくれる?」

「何かってなに…?」

「んー…何を我慢してもらうかは、これから考えるね」

「…お手柔らかにお願いします」


ぎゅっと灰皿に煙草を押し付け、すっと二本目の煙草に流れるように手を伸ばした昆は私に頭を下げてきた。
別に何かをさせるつもりなんてない。もう十分反省していることは分かっているから。甘いかなぁ…でも、反省したのならいいか。私が怒ってからは、ちゃんと灰皿を手前に持ってきてから吸っているし、指で灰を弾かなくなったのだから。
とはいえ、お金については考えないといけないことがある。


「昆はさ、どうして私にお金を掛けるの?」

「好きだから?」

「やり過ぎだよ」

「いいじゃない。ケチるよりかは」

「私、別に昆がお金を持っているから好きなわけじゃない」

「知ってるよ」

「愛情表現のつもりなんだとしたら、あんまり嬉しくない。お金のことは、今後は二人でちゃんと決めてから使いたい」

「例えば?」

「ボーナスの使い方とか」


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