雑渡さんと一緒! 169


ハワイから京都に大移動し、死んだように一日寝て過ごしてしまったわけだが。これはこれで旅としてはいいのではないだろうか。予定を詰め込みすぎた感は否めないけど、なまえと関空近くのホテルでのんびりと過ごし、京都に移動してから古い街並みを歩きながら旅館を目指す。
ハワイも暑かったけど、京都もなかなかに暑い。それでも、道々口にしたアイス珈琲は美味しかったし、なまえに至ってはそんなに食べれるの?ってくらいアイスとシャーベットを口にしていた。そして何より昼に食べた懐石が美味しすぎて、やはり自分は日本食が好きなのだと改めて自覚する。ハワイはハワイで美味しかったけど、出汁の染みた豆腐を口にして日本人に生まれてこれてよかったと思うほどに。
そして、本日宿泊する旅館に着くなり夕食が運ばれてきた。


「わぁ、蟹だぁ…」

「蟹だねぇ」


目の前に積まれた蟹を見てなまえは感嘆の声をあげた。蟹なんて家で食べる機会がそうない。というか、ない。
水々しい蟹を堪能していると、なまえは殻から必死に取り出そうとほじくっていた。細かくなった身がボロボロと溢れ落ち、四苦八苦している。あまりに予想通り過ぎて笑えない。


「下手過ぎない?」

「昆が上手過ぎるんだよ」

「慣れてるからね」

「接待で?」

「そう。ほら、こうするんだよ」


ペキッと音を立てて殻を折り、ずるりと身を取り出す。わぁ…と感嘆の声をなまえはあげたけど、残念ながら上手く取り出すことは出来ていなかった。相変わらず不器用というか、要領が悪いというか。仕方なく、なまえの分も剥いてやる。これの何がそんなに難しいのか分からない。
豪勢な夕食を摂った後、大浴場に向かう。残念なことに混浴はなかった。まぁ、なまえの裸を見せるわけにはいかないから、あったとしても入らせはしなかっただろうけど。
せっかくの温泉なのだ。久々に堪能させて頂く。足を伸ばし、肩まで湯に浸かるとじわりと指先が痺れた。いつも冷えているからだろう、血行が良くなっているのが分かる。これから寒くなるにつれてキーボードを叩くことがつらくなるから、どうにか冷え性を改善出来ないだろうかと思い悩む。温泉の効能として冷え性にも効くらしいけど、そんなものは一時的なものだと知っているから期待などもうしていない。
大浴場から眺める日本庭園はそれはそれは見事なものだった。日本庭園で結婚式を挙げるのも悪くはないけど、なまえにはドレスを着て欲しいし、なまえの父親にはバージンロードを歩かせたいから式は教会になるんだろうな。で、お色直しは着物がいいな。式をあげるのは来年のことだけど、想像するだけで幸せな気持ちになる。
風呂からあがって浴衣と羽織りを身につける。喫煙所で一服してから部屋に戻ると、なまえはまだ戻ってはきていなかった。まぁ、女の長風呂は致し方がないだろう。髪の手入れも大変だろうし、そんなことで文句なんて言うつもりはない。
冷蔵庫を開けてビールを飲む。コンビニで買うより三倍も高いのだから、アコギな商売をしているものだと思う。それでも飲むし、別に支払うけどね。商売とはそういうものだ。
二本目に手を付けようか悩んでいると、なまえが戻ってきた。私と同じように浴衣を着ている。だけど間違っている。


「左右逆だよ、それ」

「えっ」

「それは死人にするやつだよ。縁起でもない」

「えぇ…こっちが前なの?」

「ほら、おいで」


帯を解いて、整えてやる。再び帯を締めようとしたけど、ふと思う。この後脱がせるんだから、着せる必要なんてないのではないか、と。


「どうしたの?」

「無意味だな」

「え?なに…きゃあっ!何するのよ!?」

「どうせ脱がせるんだから、着せる必要はないでしょ」


浴衣を前開き、下着を露わにする。あ、今日の下着可愛い。
ぐっと身体を密着させ、キスをすると何とも官能的な声が聞こえた。あぁ、まずいな。何か今日は燃えそう。
既に敷いてある布団に抱えていくと、なまえは悲鳴をあげた。私も思わず感嘆の声をあげてしまう。


「な、なんか…」

「いやらしい響きだね、これ」

「口にしないで!」

「いや、だって、ねぇ?」


灯りは薄暗くて、畳の上に布団が一枚。決して小さくはないけれど、まるで時代劇のような光景だった。これを見て他にどんな感想を抱けというのだ。
ちゅっとわざとらしく音を立ててキスをした後、首筋に食いつきながら下着を外す。可愛いんだけど、欲しいのは中身だから今は不要なもの。ポイっと投げ捨てて裸にすると、灯りに照らされたなまえは何とも美しかった。


「やばい。凄い興奮する」

「そ、そんなこと口にしないで…」

「え?なまえは興奮してくれないの?」

「そ、そそそそれは…」

「はは。本当に可愛いね」


そう、なまえと身体を重ねるようになって二年以上も経つ。あまりにもあっという間で、もうそんなになるのか、とも思うし、まだそれだけしか経っていないのか、とも思う。何にしても多少の事件はあったとはいえ、楽しくて幸せな二年だった。大袈裟でなく、生きていてよかったと心から思えるほどに充実した二年だった。
全身に唇を這わせ、指でしつこいくらいに鳴かせる。ちゃんと感じていて濡れていると教えるように指を舐めると、なまえは恥ずかしそうに唸った。こういう恥じらいって次第になくなるものなのかと思っていたけど、少なくともなまえは未だに顔を赤くして恥じらっていた。その姿が何とも愛らしくて、思わず身震いする。本当に末恐ろしい子だ。


「ねぇ、挿れてもいい?」

「そ、そんなこと…っ」

「え?欲しくないの?」

「う、うぅ…っ」

「たまには聞きたいなぁ、なまえの口から」

「昆が…ほ、欲しい…です。挿れて…っ下さい」

「はい、よくできました」

「やっ、あ、あぁっ」


なまえは身体が小さい。だからなのか、それとも単に身体の相性がいいからなのか。未だになまえの中はキツくて、挿れただけでイきそうになるほどの快感が襲う。急激に心拍数が上がる。めちゃくちゃにしてやりたくなる。
腰を振ると、それに合わせてなまえは悦んだ。何ともいやらしい顔をしている。脱ぐ手間さえ惜しくて着たままの浴衣を握り締めながら喘ぐ姿に胸が締め付けられた。どうしてこんなに可愛いと思ってしまうんだろう。息苦しいほど好きだ。


「…ねぇ。そろそろ私にすがってよ」

「な、なに…っ」

「こうして、ってこと」

「やだ、駄目。そんなことしたら…あっ」


背中に痛みが走る。感じてるって証を背中に残させる。私がなまえにキスマークを残すように、なまえは私に爪痕を残して。私がなまえのものだって証だから。こんなことを許すのは後にも先にもなまえだけだから。


「あ、んんっ…気持ちいい…っ」

「はぁ…っ、可愛いね、お前は」

「あ、昆…好きっ」

「ん…私は愛してる、よ」


ドロッとなまえの腹に出す。本当は中で出したいのに未だに許可が出ない。外出しは避妊ではないと言うくせに、外には出せと言うのだからなかなかに辛いことだ。
ぼんやりとしているなまえの額にキスをする。今日も可愛かったし、凄く気持ちよかったよ、と伝えるように。


「…あ」

「へ?」

「浴衣についちゃった」

「ど、どうするの!?」

「フロントに電話したら新しい物貰えるでしょ」

「何て言うのよ!?」

「そりゃあ、精液で汚しましたって」

「ば、馬鹿じゃないの!?」

「冗談だよ。というか、予備ぐらいあるでしょ」


クローゼットの棚を開けると案の定、予備の浴衣があった。サイズは分からないけど、多分私には小さい気がする。まぁ、寝るだけだからいいんだけど。
それより、となまえに笑いかけるとなまえは諦めたように頷いた。なまえを抱えて外に出て、内湯に入る。外気がほんのり冷えてて、気持ちがいい。背中の生傷にやや染みたけど、この痛みで情事を思い出せるのなら安い代償だ。


「明日は昼から入ろうね」

「ひ、昼から何をする気なの」

「単に風呂に入ろうって誘っているだけじゃない」

「それだけで済むの?」

「そりゃあ、なまえ次第でしょ」

「…私次第とは?」

「なまえをいやらしいと思ったら、そりゃあ抱くよ」

「わ、私はいやらしくなんてないです!」

「いや?それはどうかなぁ」

「意地悪!」

「はいはい。外で大声出さないの」


後ろから抱き締めて、ついでに胸を揉む。色気のある声を上げながら、とろんとした目で睨んでくるのだから、堪ったものではない。これで誘っている気がないというのだから、つくづく恐ろしい子だ。
これは二回戦目があるな。幸いにも二連泊できるから、夜更かししたって朝食を逃す程度のことだ。明日はゆっくりと寝て、日本庭園でも散歩しよう。じゃあそういうことで、と私は二回戦の始まりを告げるようになまえにキスをした。


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