雑渡さんと一緒! 202
「また、そんな子供じみたものを見て」
「いいところだから黙ってて」
「私には何が面白いんだか分からない」
「いいから黙ってて!」
「おぉ、怖…あ、そんなにハマってるんだ」
ハマってるかって?ハマってるよ。最近、話題のアニメは私だって初めはハマる気なんてなかった。話題だったから一話を見ただけ。なのに、こんなにも毎週見るほどにハマってしまった。何なら画集とか欲しい。設定集とか欲しい。来年公開予定の映画には五回は行きたいし、東京で開催されているコラボカフェには今すぐ行きたい。コースターのコンプリートをしたい。額に入れて飾りたい。
昆はアニメが放送されている30分間は退屈そうに新聞を読んだり、携帯を見たりして過ごしていた。一緒に見るという気持ちは更々ないようだ。こんなにも面白いのだからお勧めしたというのに、頑なに見ようとはしてくれなかった。
「あー、来週の展開が気になる…」
「子供だね、本当」
「はぁ!?見てもいないくせに」
「アニメというのはね、子供が見るものだよ」
「そういうのは見てから言って」
「嫌だよ。私はね、小学生でアニメは卒業した」
「あら、そう。じゃあ、一話を見せてあげるね」
「いいって。どうせ子供じみた内容なんでしょ」
「はい。見て」
「はぁ…仕方ない、一話だけだよ」
文句は見てから言って欲しい。見た上でくだらないと思うのなら、それはもう価値観の不一致ということだ。だけど、私は昆は間違いなくこのアニメにハマる自信があった。少年漫画かつアクション系で、たまに恋愛も挟みつつ進行するストーリーに引き込まれないほど昆は情緒のない人間ではない。
渋々見始めた昆は初めは「ふーん」とか「あー、こうくるわけね」とか言っていたけど、開始20分目には黙っていた。明らかにハラハラとしているし、ワクワクしている。
「えっ…えっ!?ここで終わり!?続きは!?」
「あるよ」
「あー、よかった。はい、次の話を再生して」
「アニメは子供が見るものだからね。もう見なくていいよ」
「えっ」
「さ。いまテレビなにやってるかな」
「…うん。うん……ねぇ!お願い!見せてよ!」
「あら、ハマっちゃったの?大人なのに?」
にっこりと私が笑うと、昆は意地悪だと言ったけど、予想通りしっかりとハマってくれたようで嬉しくなった。やや悔しそうな顔をしている昆に洗濯機から取り出した毛布を手渡す。どうしてドラム式の洗濯機で乾燥するとふわふわになるんだろう。私は大好き。だけど、きぃちゃんは手入れが面倒だから嫌いだと言う。正に価値観の違いだ。
昆に毛布でくるんでもらい、二人でアニメの続きを見る。二話、三話と続き、七話くらいで外が暗くなっていることに気付いた私は電気をつけたかったけど、ストーリーがいいところだったからか昆は私を離そうとはしなかった。周りが真っ暗になった頃に今日の放送回にようやく追いつき、テレビを消す。すると、昆は続きはまだかまだかと騒ぎ始めた。
「続きはまた来週」
「無理!待てないんだけど!」
「待つしか出来ないから」
「お金払ったら先に見せて貰えるとかないの?」
「ないよ。なに、その課金システムは」
「えー…すっごい気になるんだけど…」
「ね?ハマるでしょ?」
「ハマってないよ」
「ハマってるじゃん」
「ちょっと、気になり過ぎてソワソワしてるだけだよ」
「それをハマってるって言うんだよ」
しっかりと夢中になって貰えたようだ。このアニメの素晴らしさを誰かに伝えられてよかったよかった。
電気をつけて時計を見ると19時を過ぎていた。思わずヒヤッとする。夕飯の支度を何もしていない。見終わったら普通にお腹は空いた。だけど、今から支度を始めたら食べ始めるのは20時を間違いなく過ぎてしまう。どうしよう…と昆を見ると、携帯で考察サイトを見ていた。いや、ハマり過ぎでは。
「あー、成る程ね。あれはそういう意味かぁ」
「えっ、何、何」
「ほら、二話で出てきた宝石ってさぁ…」
「あ!待って。その話始めたら長くなるから後にして!」
「何で。いいじゃない」
「駄目だよ!夕飯どうするか考えないと」
「あー。いま何時?」
「19時…」
「19時!?」
嘘だ、とカーテンを開けて外を眺めた昆は初めて自分がアニメの世界に入り込んでいたことに気付いたようだ。夢中で見ていると時間が経つのはあっという間だ。
夕飯はどうしようかと私が聞くと、急に現実に戻ったらしい昆はお腹を鳴らした。ひもじそうな顔をして見つめられる。
「…寒いから外には出たくない」
「じゃあ、今から作る?」
「んー…あ、そういえばさ、いまコラボやってるよ」
「カフェでしょ?」
「なにそれ。そんなのもあるの?」
「東京でね」
「いつまで?」
「年末」
「あぁ、じゃあ年末は東京だな」
「駄目だよ、そんな無駄遣い」
「無駄じゃない。推しは推さないと」
「あ。推しが出来たんだ」
「それはそうとして、今ね、出前サービスとコラボしてた」
「えっ。何それ」
「ほら、これ」
「えー。欲しい」
「よし。夜は出前にしようか」
二人で携帯を眺めながら夕飯を決める。中華もいいし、パスタもいいし、とんかつも捨てがたい。昆は唐揚げ一択のようだから、とんかつ屋さんで出前を取ることにした。
携帯で配達員が今どこにいるのかを知れて、二人であの角を曲がった、とか、迂回した、とか話しながら待つ。そして、届いたご飯をテーブルに並べてから二人で手を合わせ、アニメの話をしながら年末の予定と映画にも行きたいという話、誰を推しているか、今後どうなると思うか…本当にたくさんアニメの話をした。こんなにも好きな物の話を昆とすることが楽しいなんて思ってもみなかった。無理矢理にでも見せてよかったなぁと思っていると、勧めてくれてありがとう、と昆は唐揚げを一つ分けてくれた。私がサクサクのとんかつを昆の口に入れると、美味しかったのか、明日は家で串揚げがしたいと提案してきた。よろしい、そっちがその気なら本気を出してトマトとかチーズも揚げてしまおう。それで、どれが美味しかったか二人でたくさん話すんだ。
私と昆のごくありふれた、だけど、とても幸せな休日。
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