雑渡さんと一緒! 204


「ミルク、ラテ、クリーム」

「は?」

「モカ、ベリー、チョコ」

「なに。お腹空いてるの?」

「違うよ。この子の名前」

「ほぉ…」

「あ、センスないって言いたいんだね?」

「いや、だって黒猫なのにミルクって」

「チョコ!あんこ!くろまめ!」

「分かった。食べ物から一度離れようか」

「どんぐり!」

「投げやりになるな」


退院した猫に目薬をさしながら昆は溜め息を吐いた。血液検査の結果、よく野良猫にあるといわれている怖い病気を持ってはいなかったけど、風邪はひいているらしい。そして、その風邪の説明を獣医さんがしてくれたけど、難しくてよく分からなかった。ただ、昆が隣で「怖…」と呟いたから、多分怖いんだろう。早く治してあげないと。
生後二ヶ月位と思われる子猫を飼うにあたって必要な物を揃えて、昆と二人で昨日の夜に穴が開くほど本を眺めた。そして、ついさっき二人で迎えにいき、晴れて今日から子猫はうちの子となった。後はこの子の名前を決めるだけである。


「どんな名前がいいんだろう…」

「普通でいいんだよ、普通で」

「普通ってなに?クロとか?」

「あー、そうそう。そういうの。呼びやすい方がいいよ」

「クロかぁ…クロなら、ヨルの方がいいなぁ」

「あいつのこと思い出すから嫌だ」

「あ、ヨルにクロ(仮)を飼うことになったって言ったら見に来たいって言ってたから、来週うちに呼ぶからね?」

「は?絶対に駄目」

「どうして。仲のいい同期なんでしょ?」

「同期は同期だから。それ以上でもそれ以下でもない」

「よく分かんないけど、ヨルは私の友達なの」

「友達は選ぶべきだ」

にゃー

「選んだ結果、ヨルは友達なの」

にゃー

「ヨルといい北石といい、どんな選び方をしてるの?」

にゃー

「私が誰と友達でもいいじゃない!」

にゃー
にゃー
にゃー
にゃー
にゃー

「………」

「………」

「…まぁ、なまえが一人の時は家に入れないように」

「…はぁい」


子はかすがいと言うけど、猫もかすがいなのかもしれない。危うく昆と喧嘩になるところだった。咳払いをしてから再度クロ(仮)の名前について話し合う。シンプルかぁ…


「タマ、ミケ、キャンディ」

「うん?」

「オリーブ、たまご、チーズ」

「あぁ、やっぱりお腹空いてるんだね?」

「違うよ!クロ(仮)の名前」

「どうしても食べ物に寄るね」

「だって、身近なもので…あっ、アイス?アイス!」

「わかった。食べたいんだね」

「うん…じゃなくて!クロ(仮)の…」

にゃー

「食べ物の名前はあんまりなぁ…」

「何で。身近じゃん」

「いやぁ、私はあんまり…」

「だって、いつまでもクロ(仮)は可哀想じゃん」

にゃー

「もういいじゃない。クロで」

にゃー

「だってクロなんて、シンプル過ぎるというか…」

にゃー

「ん?」

「え?」

「いや、さっきからクロ(仮)が鳴いて…」

にゃー

「…クロ?」

にゃー

「あぁ…決まったね、名前」

「えっ、嘘。クロなの!?」

にゃー

「ほら。本人はクロだと思ってるよ、もう」


クロと言う度ににゃーと鳴く子猫を抱き上げて笑う昆はしてやったりといった顔をした。酷い、私はもっとレモンとかイチゴみたいに可愛い名前をつけたかったのに。
不満そうな顔をすると、昆は私の頭をよしよしと撫でた。


「なまえの名付けセンスは分かった」

「いいもん。子供が生まれたら可愛い名前をつけるから」

「これは喧嘩になるだろうね、間違いなく」

「可愛い名前をもう考えておくんだから」

「へぇ?それは嬉しいことを言ってくれる」

「え?」

「ようやく産んでくれる気になったんだ、私の子を」


怪しげな笑みを携えた昆はクロの頭を撫でてからゆっくりと近付いてきた。まずい、と思った時には既に遅く、昆がぎゅうっと抱き付いてきた。そして、行為の前にするような唇を啄むようなキスをしてきた。
待って欲しい。まだ家にクロを連れて帰って来たばかりだ。保険とか、しつけとか話したいことがまだたくさんある。


「違うから!まだ駄目!」

「いいじゃない、もう作ろうよ」

「そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

「クロのことで決めることがまだあるでしょ」

「なに」

「ほら、しつけとか」

「なるようになるんじゃないの?」

「教えないと無理だよ!」

「というよりさ、」

「なに?」

「子供を作ること自体は否定しないんだ?」

「…っ、だ、だけど私は卒業はするからね!?」


もう学生のうちに妊娠してもいいのかなって昆と離れて思った。既にちゃんと結婚しているし。昆は多分、家族に対して強い憧れを持っている。何となくそうなのかなぁとは思っていたけど、私が考えていたよりもずっと強い憧れを持っている。そんか気がした。それでも、例え子供が出来たって私はちゃんと卒業はしたい。子供が保育園に行くようになったらまた学校に通って、最後まで栄養のことを学びたい。我が儘かもしれないけど、それだけは通させて欲しい。
クロを抱っこしようと手を伸ばすと、昆がその手を握ってきた。そして、とても嬉しそうに笑いながら擦り寄って来た。


「もういい?中に全部出しても」

「い…いけど、でも、まだ今日は決めることが…」

「そんなの、明日でいいんだよ」

「クロのことが先だよ」

「いいや、もうなまえの番だ」

「あっ…待って!ま…っ」

「…ちゃんと、大切にするからね」


それは私のことなのか、クロのことなのか、それともまだいない子供のことなのか。きっと、全員のことを指してはいるのだろう。昆は嬉しそうに笑っていた。
だけど、クロのことが…とクロを見ると、ベッドで丸まって寝ていた。疲れてしまったのだろうか。それとも子猫だからだろうか。それとも、まさかとは思うけど空気を読んで寝たなんて…いや、まさか。何にしても、クロはまだ子猫でしつけを一切していないのに本当にお利口な子だった。いや、明日は分からないけど。起きたら家が荒れている可能性もある。
昆と二人でお風呂に入って、あがってもクロは同じ体制で寝ていた。思わず生きているのだろうかと確認すると、可愛い顔をして寝ている。すやすやと寝ている顔が可愛くて思わず抱き締めたくなっていると、寝室から昆に早くと呼ばれた。
クロの方が余程いい子じゃない、と私が呆れたように昆に言うと「男はいつの世も猫ではなくて狼な生き物だ」と覆い被さってきた。狼かどうかはともかく、この日を境に私と昆は「愛情を確認し合う」ためだけではなく「子供を作る」ために身体を重なるようになった。いつか過去に産むことが出来なかった子供に会うことが出来る日が来るのだろうか。それを確認する術はないけど、昆との子供を授かることが出来たなら、過去に産んであげられなかった子供の分まで合わせて思いっきり可愛がってあげようと、そう思った。


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