雑渡さんと一緒! 206


大掃除の季節である。掃除が嫌いな昆にとってはうんざりする季節でもあるだろう。去年はハウスクリーニングを入れてくれたから楽させてもらったけど、今年はちゃんと自分でやりたい。何だかんだ私は掃除が好きなのだ。
だから、というわけではないけど今年は私一人でやるつもりだった。高い所も別に椅子の上に乗れば全然平気だし、一人で出来ないこともないだろう。そのはずだった。なのに、気が付いたら昆が私の頬を叩いていた。それも青い顔をして。いつの間に帰ってきたのだろうか。まだ昼間だったはずなのに…と外を見ると真っ暗だった。何が起きたか分からない。


「えっ、平気!?まさか頭打ったの?」

「分かんない。何だっけ…」

「き、救急車!」

「大丈夫だよ。もう起きたから」

「駄目だよ!椅子から落ちて気を失ったんでしょ!?」

「そうだったかな。どうだっけ…」

「駄目、動かないで!救急車呼ぶから!」


何が起きてこうなったのかよく分からなかった。だけど、多分椅子から落ちて気絶したんだと思う。言われてみたら頭が痛いような気がしなくもない。
大騒ぎした昆が呼んだ救急車で無理矢理病院に連れて行かれて、頭のCTを撮って何ともないことが証明された。たんこぶは出来ていたけど。昆は帰りのタクシーでも何かあったらどうしようどうしようと言っていたけど、お医者さんが大丈夫だと言うのなら大丈夫なんだと思うんだけどなぁ。ただのたんこぶなわけだし。これが頭の中に窪んだら血腫の可能性があるから危なかったようだ。だから、セーフだと思う。
そして、帰ってから昆による嫌味を含めた尋問が始まる。


「ねぇ。何で危ないことしたの?」

「ただの大掃除だよ」

「私が帰るのを待てないの?」

「だって、昆は掃除嫌いじゃん」

「なまえが怪我するくらいなら喜んでやるよ」

「怪我の功名だね」

「何が怪我の巧名だ!」


怒鳴る昆をまぁまぁと宥める。わざと落ちたわけではないんだから、そんなに怒らないで欲しい。
で。休日に昆に高い所の掃除を頼む。カーテンを外してもらったり、シーリングライトの掃除をしてもらったり。この家には背の低い私では届かない所が何気にたくさんある。キッチンの棚の上段なんて私では絶対に届かない。何なら見えない。だから上段には普段は必要のない備蓄品を置いていた。


「改装しよう。この家はなまえには住み辛い」

「いいよ、お金かかるし」

「金と健康、どっちが大切なの!?」

「ケースバイケースだよ」

「なまえ!」

「いや、本当に。大袈裟だよ、お金が勿体無いし」

「なに。本気で怒られないと分からないの?」

「あらやだ、怖い」

「喧嘩売ってるのなら買うけど!?」

「売ってない、売ってない」


改装工事はいずれ必要だとは私も感じている。この家は子供を育てるには少し狭い。昆はワンフロア全て改装して使いやすいようにしたいようだけど、正直ワンフロアも使うのは勿体無いと思う。いくら昆が稼いでいようとも私たちには贅沢な気がした。子沢山な家庭ならまだしも。
私がそう言うと、昆はスエットを脱ぎ始めた。何となく嫌な予感がして私が逃げると、後ろからがっちりと捕えられる。


「何人作ればなまえは納得するの?」

「い、嫌だよ!嫌っ!」

「何が嫌、だ!いい加減にしろ!」

「ねぇ、しつこい!」

「はぁ!?」

「もう高い所は昆に任せるって言ってるでしょ?」

「よく言う。どうせ一人でまたやるくせに」

「や…らないよ」

「下手な嘘をつくんじゃない」


胸を弄られて、思わず昆を突き飛ばそうとしたけど、昆はびくともしなかった。それどころか、ふふんと鼻で笑われてしまい、私たちはどんどん険悪な雰囲気になってくる。
何よ、この前200万使ったくせに!100万使ったくせに!おまけに車だって買ったくせに!無駄遣いは駄目だ。ちゃんと計画的に貯金して、その余った分を使うという現実的な生き方をしたい。昆の言いなりになっていたら、我が家はいずれ破綻してしまう。改装のタイミングは少なくとも今ではない。


「ほら、来なさい。可愛がってあげるから」

「やだ!離して!」

「誰が離すものか。いいと言うまで私は折れない」

「私だって折れないから!」

「それは面白い。根比べといこうか」

「やめて!やめ…ひぃっ!?」

「えっ、なに…あ、クロ!こら!」


換気のために開けていた網戸を突き破ってクロはベランダへと出て行ってしまった。そのまま手すりに飛び乗り、隣へ行こうとしている。駄目だ、この高さから落ちたら死んでしまう。慌ててクロに近寄ると、シャーと威嚇されてしまった。まるで何かに怒っているよう。
昆と二人でジリジリと腕を伸ばしてクロを呼ぶ。もし落ちてしまったらどうしよう。私が戸を開けていたからだ。


「ねぇ、クロ。お願い、戻ってきて」

「クロ。おいで、クロ」

「ど、どうしよう、昆…」

「どうしようって…」

「クロー。もう喧嘩してないよ、怖かったよね」

「そう。もう仲直りしたよ。おいで」


私と昆が必死にクロに呼び掛けると、クロはゆっくりと戻ってきた。ぴょん、と私の腕に飛び乗ってきたから、ぎゅうっと抱き締める。ゴロゴロと喉を鳴らすクロを見て、安心して涙が出てきた。よかった、落ちなくて。
ごめんね、とクロを昆と二人で抱き締める。よく、子はかすがいと言うけど、猫もかすがいなのかもしれない。
その日の夜、ベッドで昆と二人でじっくりと話し合う。今後この家をどうしていくのか、予算はどのくらいなのか。もし改築するのならタイミングはどうしていくのか。何となくプランが決まり、次に家族計画について話し合う。子供は何人欲しいのか、どんな風に子育てしたいのか。もちろん、話し合った通りになるとは思っていない。だけど、私たちの未来は二人で作っていくものだ。少なくとも、感情的になって決めるようなことではない。
正直なことを言ってしまえば、お金なんてなくたって構わないし、子供だっていなくても構わない。二人で過ごすことが出来れば幸せなのだから。それでも、もっと幸せになるために二人で決めていきたい。私たちはもう家族なのだから。


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