雑渡さんと一緒! 207
年の瀬、どこにも行かずに家でゆっくりと過ごした。コラボカフェには行きたかったのだが、まだクロは子猫だから誰かに預けて遠出をする気にはなれなかったからだ。
年越しそばの出汁は去年よりも比べものにならないくらい美味しくなっていた。もう、絶対に店を出せるレベルだ。
で。まぁ、ただのんびりと過ごすだけで終わらせるというのも特別感がないわけで。人生初の試みをすることにした。いや、やること自体は結局のところいつもと変わらないわけだが。それでも、せっかく年末年始なわけだし、ちょっと頑張ってみたいところではある。私はそっちの分野に関してはあまり勉強熱心とは言えないだろうが、それでも知識と興味がないわけではないわけで。何事も経験してみるべきだろう。
「ね?」
「いやいやいや…おかしいよ」
「正月といえば、じゃない?」
「違うよ?」
「いや、初姫は正月の醍醐味だよ」
「…いつもしてるじゃん」
「そう、それ。新しい体位を試すというのもいいと思う」
「そういうのは結構です」
「いやー。なまえは好きだよ、絶対」
「私を何だと思ってるの?」
「え?普通にいやらしい子」
「違うから!」
いや、なまえだって好きなくせに。性欲というのは人間の三大欲求の一つなわけで、別にいやらしいこと自体は何ら問題がないというか、普通なのではないだろうか。むしろ、実はセックスが好きではないとか言われたら私が困るし。
乾かし終わったなまえの髪を一房摘んで口元にやりながら笑い掛けると、なまえは目を逸らした。ふふふ、私が知らないとでも思っているのか。なまえはこういう何気ない動作が好きだということくらいもう分かっている。ダメ押しで耳元で愛を囁いてやると、案の定なまえは何も言わなくなった。それでも、いつものように恥ずかしそうに抱き付いてはきてくれなかったから疑問に思って顔を覗き込む。おや、真っ赤。
「い、痛いのは嫌…」
「うん?そんなことする気はないけど?」
「ほ、本当…?」
「えっ。私、いつもそんなに酷い抱き方してる?」
「そうじゃなくてヨルが…」
「…あいつが何て?」
「その、あんまり激しいと痛いよって…」
「ほーお?あいつ、男のくせに何を分かったようなことを」
というより、なまえとどんな話をしているんだ、あの馬鹿。だからヨルと仲良くなんてしないで欲しいんだ。私の可愛いなまえが穢される。ふざけるな。
しかし、激しくねぇ…あぁ、これはいいことを聞いたな。
「な、なに笑って…」
「いや、だって。私、激しく抱くとは一言も言ってないよ」
「え」
「新しい体位とは言ったけどねぇ」
「あ!あ、違う!待って、違う!」
「そう。激しく抱かれたいんだ?」
「違うって!違うの!」
「これは頑張り甲斐があるなぁ」
必死に否定しようとするなまえを抱えて寝室に入る。いや、本当にいいことを聞いた。素直に言えばいいのに。
なまえをベッドに寝かせて寝室のエアコンをつけてから、クロ用のヒーターをつけていないことに気付いて戻る。猫というのは天真爛漫であると思っていたが、クロは非常に空気の読める子だった。なまえを抱いている時には邪魔をすることなく、ちゃんとリビングで寝ているのだから。お利口にしているんだよ、と私が声を掛けるとクロはヒーターの前で大人しく丸まったのだから、前世は人間だったのかもしれないなとさえ思うくらいだ。初売りでおやつと玩具をいっぱい買って、正月はたくさん甘やかしてやろう。
さて、もう一人の子猫は大人しくしているだろうかと寝室に戻ると、布団の中で丸まっていた。クロと全く同じ行動をとっていて可愛らしくなり、思わずクスクスと笑ってしまう。
布団に潜り込み、抱き締めるとなまえは身体を震わせた。
「大丈夫。激しいけど、優しく抱いてあげる」
「ま、まだ22時過ぎだよ…?」
「ヤりながら新年を迎えるなんて最高じゃない」
「まだ22時過ぎだよ!?」
「ね。たくさん可愛がってあげるからね」
「ん…っ」
軽くキスしてから服を脱がせる。ふわふわのパジャマは手触りがいいから好きだけど、なまえの肌の方がもっと手触りがいいから好き。女の子というのは身体がふわふわで、本当に抱き心地がいい。興奮以前に凄く落ち着く。そんなことなまえ以外の女に思ったことはないけど。
部屋が温まるまでたくさんキスをしながら優しく身体に触れる。まだ愛撫らしい愛撫もしていないというのに、なまえの息遣いがいやらしいものへと変わってきた。熱の篭った眼差しが何とも色っぽいし、何とも愛らしい。狂おしいほど。
「好きだよ、なまえ」
「ん…っ」
「可愛い。大好き」
好きとか愛してるとか、そんな陳腐な言葉でしか表現出来ないことがもどかしい。なまえにちゃんと伝わっているだろうか、私がどれほどなまえに溺れているか。愛しくて、未だに胸が詰まるほど夢中であるかを分かっているのだろうか。
時折、痕を残しながら身体中に唇を這わせる。爪先に唇をやると、ふと小さな爪に塗られたマニキュアが目に留まった。先日、ヨルが塗ったものだと聞き、非常に腹が立った。何が腹立たしいかって、なまえに似合った色であったことだ。なまえを魅せる術なんて私だけが知っていればいい。先に自分が似合うものを選んでやれなかったことが悔しかった。
「ね、ねぇ…」
「ん」
「何でそんなに殺気立ってるの!?」
「いや、不快だなぁと思って」
「何が?」
「んー…いや、なまえは知らなくてもいいことだよ」
「えっ、なに…」
いいよ、知らなくて。くだらない嫉妬なだけなのだから。
好きな子のことはやっぱり私は真っ先に知りたいし、誰よりも知っていたい。その思考は変わらなかった。それが一般論だと考えているし、仮に一般論ではなかったのだとしても、この思考はきっともう、一生涯変わらないような気がする。
幾つか新しい体位を楽しみ、互いに絶頂が近くなっているのが分かる。心と身体が一つになっているのを確かに感じた。
「ねぇ、浮気しちゃ駄目だよ…?」
「…は?誰とするの」
「分かんないけど、会社の人とか?」
「するわけないでしょ」
「ヨルに百人斬りの異名を持っていると聞きましたけど?」
「あの野郎…っ、あのさ、そういう萎えること言わないでよ」
「あ…っ」
「なまえ以外の女とこんなセックスしたことないのにさぁ…」
「あ…っ!?や、やだ…っ」
「ヤってる最中に私を怒らせるとは度胸があるじゃないか」
折角、快感に浸っていたというのに、頭に血が昇るようなことを言われたから萎えてしまった。言っておくけど、私は萎えたくらいではやめないよ。また勃つまで攻めるだけだ。
百人を超える女と寝たことがあるのかと聞かれると、まぁ、正直百どころではないような気がする。すみませんね、遊び人で。だけど、こんなセックスはなまえとしかしたことがない。女を気持ち良くさせたいだとか、色んな体位で楽しみたいだとか、なるべく長く挿れていたいから射精したい気持ちを抑えてでもゆっくりとしたセックスを心掛けたりとか。もちろん、触れる時には優しくして、傷付けないようにしようだとか。そんなこと、なまえ以外の女に対して思ったことなど一度たりともない。好きな子とだから、なまえとだからセックスを楽しみたいと、互いに気持ち良くなりたいと、自分本位になり過ぎず、優しく抱こうと思うのに。なのに、そんな生意気なことを平然と言ってのけるとはね…それも行為の、互いの気持ちを確認し合っている最中だというのに。
なまえの被虐心と羞恥心を刺激するような言葉を耳元で並べながら攻め立て続けると、なまえはあっさりとイった。こんな風に犯されるように虐められてイってしまうとはねぇ…
「本当にいやらしい女になったものだ」
「だ、誰のせい…っ」
「さて、誰のお陰なのだろうね」
「や…っ」
「ほら。もっと気持ちよくしてあげる」
いやらしいなまえを見ていると、ちゃんとまた勃った。よかったよかった、これで勃たなかったらこの年で薬の世話になるところだった。なるべく60くらいまでは世話にならずにヤれればいいんだけど。
もう新しい体位とかどうでもよくなって、いつも通りなまえを抱き締めるように抱えながら正面から突く。何だかんだ正常位が一番好きかな。キスしながら出来るし、なまえが感じている顔を見られるから興奮するし。あぁ、可愛いなぁ。
「ねぇ、浮気しちゃ嫌だよ…?」
「それ、まだ言うの?」
「…だって、もう誰にも見せたくないもの」
「何を?」
「昆の…っか、感じている顔…」
「えっ。私、そんな顔してる?」
「ん…っ凄く色っぽいんだよ…?」
「見せないよ。なまえ以外となんてヤらないし」
「よかった…」
ふっと目を細めて笑う顔は熱に浮かされているというのにどこか幼さを感じた。何ていうか、狡い子だなぁ。犯すように抱くのが可哀想になってきてしまう。
色っぽいかどうかは知らないが、なまえ以外の女は見たことはないのではないだろうか。別に大して気持ち良くなかったし、大して興奮もしなかったのだから。まぁ、過ぎたことだし、自分では確認のしようもないから分からないのだけど。
「あ…っ、気持ちい…っ」
「ん。私もだよ…」
どうしたらなまえはずっと私だけの女でいてくれる?私がこんなにもなまえに焦がれ、満たされているはずなのにもどかしくなり、切なくて胸が痛むことをどうしたら伝えられる?なまえの過去も未来も全て私だけのものにしたい。ほんの少しでもよそ見なんてしないで欲しいんだ。ずっと私だけを見ていてよ。私が差し出せるものは全てなまえにあげるから。だから、遊びで抱いた女に嫉妬なんてしなくたっていいんだ。私の心を捉えて離さないのは、今も昔もなまえだけなんだから。比べものにもならない想いを抱いているのだと、そろそろ知ってよ。まだ分かってもらえないのかと思うと切なくて仕方ないんだから。30を過ぎた男がまるで恋煩いかのような気味の悪いことを考えているんだよ?もう私は随分と前からおかしくなるほど夢中になっている。お願いだから、なまえもおかしくなるほど私のことを好きになってよ。
「ふふ…」
「…ん?」
「その顔、大好き…」
「んん?」
「…もう私しか見ないでって、私のことしか考えないでって、そう思っちゃうくらい昆のことが好き。昆が全てが欲しくなって…ごめんなさ…っ、たまにね、好き過ぎてつらくなるの」
「…本当?」
「私、こんなんじゃなかったのに、どんどん欲張りになっているの…汚くてごめんなさい。お願い、嫌いにならないで…」
そう言ってなまえは泣きじゃくった。多分、漫画的表現をするのなら「キュンとした」というやつになった。胸が苦しくなって、息が出来ないくらい痛んだ。まるで心臓を握り潰されるかのような苦しさと共に言いようのない愛しさが込み上げてくる。熱かった身体が更に熱くなった。なまえは本当に狡い女だ。いとも簡単に私の心を縛ってくる。それも、本当に何の計算でもなく、素でやってのける。勘弁して欲しい。
何が汚いものか。お前は本当に醜く、汚い心を持った人間を知らないのだろうね。嫌いになる?嫌いになどなれるはずがない。こんなにも気が狂いそうなほど愛しているんだから。
なまえの細い指を握りながら、目に唇を寄せる。そのまま耳元を舐め、そっと愛を囁いてから再度腰を振った。互いに雨にでも降られたのかと思うほど汗ばんでいて、動く度に汗が滴る。繋がっているところからとめどなく溢れる愛液は挿れたことにより溢れ出て、なまえの脚を濡らしていた。多分、水音も相当響いているはずなのに、それが聞こえないくらい激しく腰を振り、部屋にはなまえの喘ぎ声と二人の荒い呼吸音、それと、身体がぶつかる音だけが響いていた。綺麗に整えられていたはずのシーツは濡れているし、今もなまえの痙攣した爪先によって乱されている。いつもの見慣れた寝室はとても官能的な空間となっていた。
中に挿れたまま出せるって、こんなにも気持ちがいいものなのかと驚かされる。痙攣している膣が私を受け入れるように締め付け続け、一瞬ではあるが意識が飛びそうになった。
息を整える時間さえ惜しくて、繋がったままなまえにキスをする。そこで違和感を覚えた。反応がない。脱力しているとか、そういうのではなく、本当に何の反応もない。息こそしてはいるが、ついさっきまであんなにも身体を反らせながら感じていた子と同じだとは思えないくらい静かだった。これはまさか…と恐る恐るなまえを見ると、やはり意識が飛んでいた。どうしようかと頬を軽く叩いたが、起きそうもない。
なまえがセックスで失神するのは実はこれで二度目だ。理由はもう忘れたけど、結婚する前になまえと大喧嘩して、仲直りした日にヤり過ぎて飛んでしまった。翌日にそれはそれは怒られたことが最早、懐かしく感じる。いや、懐かしいとか今はどうでもいい。問題なのは怒られることよりも、その後しばらくなまえがセックスを頑なに拒んだことだ。これは大問題だ。明日から新年が始まるというのに、幸先が悪い。
そういえば何時なのだろうかと時計を見ると、既に3時近かった。年、明けてたわ。いや、別にそれ自体はどうでもいいんだけど、どうしよう。怒る…よなぁ…うわー、どうしよう。
「…まぁ、いいか」
何か、凄く幸せなセックスが出来たし。とりあえず、今は心も身体も満たされているし。うん、今は考えないでおこう。
なまえを抱き締めて寝ようと思っていると、寝室のドアがカリカリと音を立てていた。開けるとクロが入ってきて、必死にベッドに乗ろうとしている。行為に夢中で聞こえなかったけど、さっきから開けて欲しいと言っていたのだろうか。
クロを抱き上げると、なまえの枕の横で丸まった。そして、本当に何気ない顔をして眠るものだから可愛らしくて思わず笑ってしまう。そっと指先でクロを撫でてからなまえを抱き締め、眠ることにした。さっきまで官能的な空間だった寝室は今は落ち着きを取り戻し、静かで落ち着く空間となっていた。幸せだなぁ、と心から思う。なまえがいなければ、例え好きでも猫を飼おうなんて発想には到底至らなかったことだろう。猫を飼ってみなければ、猫も家族の一員だなんて思考には辿り着けなかったことだろう。こうしてなまえは私にいつも多くのことを教えてくれる。多くのものを私に与えてくれる。なまえに出会えてよかった。愛せてよかった。愛されて本当によかった。身に余る幸せを噛み締め、私もゆっくりと眠りの世界へと落ちていった。今年も来年も再来年も、ずっとずっと一緒に過ごせますようにと願いながら。
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