雑渡さんと一緒! 209


初詣、である。そう、去年あまりにも忌まわしい日々を送ることとなったのは絶対におみくじで「大凶」を引いたからだ。去年は本当に酷かった。離婚の危機に二度も面するとはあの時は思いもしなかった。
この神社には神がいる。絶対にいる。もう、信じる。だからお願いします、今年はいい年を過ごさせて下さい、と祈る気持ちで紙を一枚手に取った。怖い…怖いけど、見ないと。


「あ。中吉だ」

「それ、いいの?」

「まぁ、そこそこ」

「そう…」

「昆は?」

「……うん、もう少し待って」

「えっ。何でそんなに緊張しているの?」

「だって、去年あまりにも酷かったから!」


おみくじなんて、ただのくじだ。何分の一の確率で「大凶」が入っているのか知らないが、こんな紙切れ一枚で人の人生を左右するはずがないだろうと去年は思っていた。それがいざ蓋を開けてみれば、本当に「大凶」な一年だった。頭を殴られて記憶障害となり、なまえに離婚を迫るわ、過去のトラウマを思い出してなまえに辛く当たり、家から追い出すわ。いや、悪いのは全て私だ。私が悪いとはいえ、あまりにも酷い一年だった。厄払いをした方がいいのではないかと考えたくらいに悲惨な一年だった。これでなまえと本当に離婚していたら、最悪後悔のあまり死んでいたかもしれない。
ドキドキとしながらくじを開けると、「大」の文字が見えてしまった。あぁ、もう駄目だ。もう今年も駄目なんだ…


「わぁ、よかったね」

「…え?」

「大吉だよ、大吉」

「えっ、本当?本当に!?」


慌てて手元のおみくじを見ると「大吉」と書かれていた。あまりにも嬉しくて、泣きそうになった。
私がおみくじの結果に翻弄されていると、なまえはくすくすと笑った。言いたいことは分かっている。神を信じていないと公言している私が、たった100円で出来る運試しにここまで一喜一憂していることが可笑しいのだろう。だが、一つ言わせてもらいたい。この神社には確実に神が宿っている。少なくとも、このおみくじの指南には従うべきだ。今年は去年と違って特別大きなイベントはない。結婚式となまえの卒業式は再来年だし、今のところ仕事も大きな取り引きの予定はない。つまり、現状維持だ。今年のおみくじは大吉なんだし、順風満帆だろう、と書かれていることを見て、愕然とした。


縁談:破れる恐れあり、落ち着け


「………」

「どうしたの?」

「もう駄目だ…」

「え?」

「どうしよう、今年こそなまえに捨てられる!」

「は?」

「終わりだ…もう終わりだ!」


私がおみくじを握り締めながら絶望に打ちひしがれていると、なまえは私の手からおみくじを持っていった。そして、いいことばかり書かれていて羨ましいと言って笑った。


「やっぱり大吉っていいことしか書いてないんだね」

「どこが!」

「何が気に入らないの?」

「縁談!破れるって、破れるって…」

「もう結婚してるのに?」

「もう結婚していたら、これ関係ないの?破れるって離婚のことじゃないの?ねぇ、これ大丈夫なやつなの?ねぇ!」

「さぁ?」

「さぁ!?」

「そんなに心配なら結べば?」

「そうする!あ、お守りを買う!そうだ、お守りを買えば…」


私が必死になっていると、なまえはやっぱりくすくすと笑った。何が可笑しいというのだ。なまえと離れることとなる可能性があるのだと教えてもらえた以上、気を引き締めなければなるまい。出来ることなら何だってしておかないと。
出来る限り木の一番高い所に縛り、手を合わせて祈る。神様どうかお願いします。もう神がいないなんて罰当たりなことは考えないので、どうか許して下さい。私にご慈悲を…


「ふ…ふふふ…」

「だから、何が可笑しいの!?」

「いやいや。可愛いなぁって」

「はぁ!?」

「はいはい。寒いからお風呂に行こ?」


手を差し伸べてくれたなまえと二人でお守りを購入して、必要以上に念入りに参拝を済ませ、車を走らせて銭湯に向かった。去年…いや、もう一昨年か。何にせよ、前にも感じたことだが、年末年始に風呂を利用しようとする奴は少ないのかもしれない。やっぱり今年も空いていた。
風呂に入って身体をじんわりと温める。さっきシャワーを浴びたばかりなのに何で風呂?と思ったが、来てよかったと心から思う。昨日の夜、ちょっと頑張り過ぎた。流石に筋肉痛だ。いや、しかし、久々に燃えたなぁ、昨日は。でも今日はちょっと難しいかもしれない。三回目をやらなければなぁ…と思いながら腕を伸ばす。もう少し鍛えないと駄目かもなぁ。
風呂上がりに酒でも飲もうかと思ったけど、今年は我慢して家で飲むことにした。家でなまえと飲んで、ゆっくりと過ごすのも悪くはない。どうせ今日は寝過ぎたから寝れないし。
経済新聞があったから開いてみる。不景気だよなぁ、本当。どうにかならないものかと新聞をめくると、結婚式場の広告が目に入った。そろそろ結婚式のことを考え始めないといけない。教会と披露宴…あ、会社の面々ってどこからどこまで呼べばいいんだろう。社長と陣内と長烈は確定として…いや、陣左は呼ばないと拗ねるだろうな。いや、そうなってくると、もっと上の奴らも呼ぶべきだろう。流石に百人呼ぶわけにはいかないよなぁ…いや、でもなぁ…あ、頭痛くなってきた。もう、楽しいことを考えよう。なまえのドレス姿…あー、絶対に可愛いんだろうなぁ。他の男に見せたくないなぁ…そうだ、いっそのこと二人だけで先を挙げるというのはどうだろうか。そうだ、そうすれば…いや、それだと義父さんがなぁ…義父さんにバージンロードは歩かせてやりたい。私にもし娘がいたら絶対に歩きたいもの。子供かぁ…早く欲しいな。なまえによく似た女の子。絶対に可愛いことだろう。そうなると、お嫁には行かせたくない…あ、行かせたくないわ。ずっと一緒にいたい。許せないわ、他の男に可愛い我が娘をやるなんて。
仕事のことを考えていたはずが気が付けば結婚式の考えになり、そして、まだいない娘のことを考えていると隣から話し掛けられた。ハッとして隣を見ると、なまえが笑っている。


「なに百面相しているの?」

「いや、なんか先のことを考えてた…」

「先のこと?」

「ほら、結婚式とかさぁ…」

「あー。そろそろ決めないとかなぁ?」

「今年は忙しくなるだろうね」


決めないといけないことがたくさんある。それこそ、クロの飼育環境についても大きくなるにつれて考えないといけないだろう。キャットタワーだって設置しないといけないし、部屋をそろそろ改築して広げないといけないかもしれない。
コンビニに寄ってから帰宅し、なまえと結婚式について話すはずが、気が付けばやっぱり子供の話になり、気が付けばベッドで過ごすことになった。出来ないだろうと思っていたけど、まぁ、いざその時になれば案外出来るもので、ちゃんと最後までなまえを抱くことが出来た。そして、前みたく拒まれなくてホッとした。少し嫌そうではあったけど。
事後、ベッドで今年はどんな年にしたいか話していると、少しずつ眠くなってきた。明日こそはちゃんと起こして欲しいとなまえに言うと、なまえは微笑んでくれた。それを見て安心した私はなまえをいつものように抱き締め、いつものように愛を囁いてから眠った。
大丈夫、きっと今年はいい年になる。一応「大吉」だったわけだし、お守りも買った。それに、きっと今年はなまえとより心の通った関係性を築くことが出来る。そんな気がした。


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