雑渡さんと一緒! 216
昆の膝の上に頭を乗せると、昆は優しく頭を撫でてくれた。そして、私の上にクロが乗った。可愛いから写真を撮りたくて携帯に手を伸ばそうとしたけど、届かない。ふるふると震えていると、昆が察して写真を撮ってくれた。
うちに来た時はあんなにも小さかったのに、今ではこんなにも大きくなって…と感慨深くなってしまう。もっと大きくおなり…と思うけど、実際のところどこまで大きくなるのかは想像がつかない。クロは雑種だから、未知数なことが多い。分かっているのはオスだということくらい。あと、少し犬っぽいような気がする。撫でられることも、人と寝ることも大好きで、滅多に怒らないから。猫って気まぐれなんじゃなかったんだっけ?と昆に聞いたら、クロは多分前世は人間だったねと怖いことを言った。そう言われてみると、どことなく人間っぽく見える。空気を読むことがとても上手いところとか。
「クロもさ、お嫁さんが欲しいかな?」
「いいけど、うちが猫屋敷になるよ」
「えっ。猫ってそんなに産んじゃうの!?」
「まぁ、繁殖能力は人間を上回るからね」
「あぁー…ごめんね、クロは生涯独身かもしれない」
流石にそう何匹もは育てられない。クロのことは私と昆が責任を持って大切にしてあげるから許してね…と撫でると、クロはぴょんと飛び降りていってしまった。
クロが飛び降りたタイミングで膝枕を交代する。昆の場合は膝枕というか、私にべったりと抱き付いてくるというか。腰に手を回されてすりすりと顔を擦り付けられるから、どことなく猫っぽい。行動は猫でも性格は犬っぽいと思っているけど、多分言ったら怒るだろうから黙っておくことにした。
「結婚記念日はさ」
「うん」
「グアムに行かない?」
「えっ、日帰りで?」
「まさか。有給取って週末に2泊3日くらいで」
「お婆ちゃんに会いに行くってこと?」
「うん。どう?」
「私は嬉しいけど、お休みなんて取れるの?」
「気合い入れるよ」
「気合いで取るものなんだね…」
まぁ、気合いを入れて取れるものなら取って欲しいところではある。お婆ちゃんに会いたいというのもあるし、お婆ちゃんの旦那さんを昆に紹介したいというのもある。というか、通訳をして欲しい。お婆ちゃんの旦那さんは日本語が話せないから、あまり私は話をしたことがない。出来ればこれを機に仲良くなりたいところではある。
わくわくとお婆ちゃんにメールを送る。本当は電話しろと言われたけど、国際電話はやっぱり怖いからメールにすることにした。返事は思ったよりもすぐにきた。そのメールは相変わらず賑やかで、お婆ちゃんらしくてどこかホッとする。
「アキさん、何て?」
「はい、これ」
「んー?…おぉ、凄いね…」
絵文字がたくさんあしらわれたメールを見せると昆は引いたような顔をした。まるでひと昔前のギャルが使っていたかのような絵文字を絶妙に使いこなしているメールには「OK」と書かれていた。その二文字よりも遥かに絵文字の方が多いというのだから、昆が驚くのも無理はない。
さて。結婚記念日はグアムに行くことは決定だとして、一つどうしても考えないといけないことがある。クロをどうするかだ。一緒に連れて行くべきなのか、それとも置いていくべきなのか。置いていくのなら、誰かに面倒をみてもらわないといけない。もしくはペットホテルに預けるか。クロにとっては一緒にグアムに行くのと行かないのではどちらがいいのだろうか。私としては一緒に行きたいけどクロを連れていっても、クロにとっては迷惑なだけかもしれない。別に海に入れるわけでもないし、自由に散歩出来るわけでもないから。
「…クロはどうしよう?」
「あー。義父さんに預ける?」
「連れて行かない方がいい?」
「ペットってさ、手荷物扱いなんだよ。ゲージに入れられた上に私たちから何時間も離された所にいるよりも日本にいた方が絶対にクロのためだと思う。たかだか2泊3日だし」
「そっか…」
じゃあクロはお留守番だね、と私が言うと、クロは大して興味もなさそうに爪を研ぎ始めた。たかだか2泊3日、されど2泊3日。大丈夫だろうか、私が。寂しくなりそうだし、心配で旅行を楽しめる気がしない。きっと離れていてもクロのことを考えてしまうことは目に見えていた。
昆がソファに落ちていた玩具を手に取り、クロを呼ぶと、小走りで玩具に食いついてきた。ニヤッと笑った昆は玩具を振り回す。まるで獲物に飛び付くようにクロは戯れていた。
「寂しいなぁ…」
「まぁねぇ」
「誰に預けよう…」
「義父さんは駄目なの?」
「あの人、動物好きそうに見える?クロと遊べると思う?」
「…難しいかもね」
「やっぱり、ヨルかなぁ…」
私がヨルの名前を挙げると、昆は露骨に嫌そうな顔をした。
「仲のいい友達でしょ?」
「同期ね」
「違いが分からない」
「同期は戦友だよ」
「じゃあ、より強い繋がりがあるってことでしょ?」
「いや、別に。特にあいつとはない」
「よく分からない」
「何にしても、あいつにクロを預けるのは癪だ」
「何で?」
「なまえと仲がいいから」
「いいことだよね?」
「よくない。なまえが私以外の男と馴れ合っているなんて普通に不愉快なんだけど。単に目を逸らしているだけだから」
「ヨルは女の子だよ」
「だから、あいつは男だ!」
昆が大きな声を挙げると、クロは驚いて逃げていった。
クロが可哀想でしょ、と昆を小突く。クロは人間ではない。だから、私たちと同じ物差しで物事を考えてはいけない。
私が昆に「ヨルにお願いしてみる」と言うと、とても嫌そうな顔をしたけど、特には反対されなかった。ただ、やはり不快であることには変わりないようで、昆は溜め息を吐きながらクロを預ける上で必要な物をリストアップしていた。相変わらず、文字に書き起こすことが好きなようだ。私なら携帯にメモする程度なのに、昆はわざわざ手帳に書いていた。
どんな結婚記念日を迎えることが出来るかな、と昆に寄り掛かると、ガイドブックでも買いに行こうかと提案された。本屋に向かう道中で昆に「これから迎える年度末処理を無事に乗り換えられそうだ」と本当に嬉しそうに笑い掛けられる。
初めてのグアム旅行、きっと英語の話せない私でも楽しめることだろう。何せ、スパダリの旦那様が隣にいるのだから。
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