雑渡さんと一緒! 220
「これ、可愛い」
「んー」
「あ、これ美味しそう」
「んー」
「ねぇ、聞いてるの!?」
「聞いてるよ。何だっていいじゃない」
「よくないよ。お世話になったんだし」
最終日、昆と二人でお土産を見にきた。ヨルにクロを預かってもらっているし、ちゃんとお礼をしないわけにはいかないだろう。だけど、何がいいんだろうか。珈琲は絶対に自分では淹れないだろうし、シャンプーとかもちゃんとしたオーガニックのメーカーだったし、甘いものも普段はそんなに食べないみたいだし…難しい。お土産って難しい。
何がいいのかなぁ…と悩んでいると、カポっと帽子を被せられた。人がこんなにも真剣に悩んでいるのに…と昆を睨むと、スッとワンピースを当てられる。白いワンピースが掛かったハンガーにはネックレスが掛けられていた。うんうん、と昆は頷き、私の意見を聞きもせずにポイっとカゴに入れた。
「…これ、ヨルに?」
「まさか。なまえに」
「ヨルのを選んでよ!」
「適当な石とかでいいんじゃない?」
「何よ、それ!」
もう…とカゴに入れられたワンピースを取り出して眺める。可愛いけど、またヨルに男受けを狙ってとか言われそうな感じのものだった。そんなの狙ってないのに。いや、でも昆の好みの服を着たいと思っているから、やっぱり狙っているんだろうか。というか、男受けって何だろう。男の人ってもっと露出の多い服が好きなんじゃないの?私が着たところで残念な感じになるのは目に見えているんだけど。
昆は家に置くアロマを眺めていた。私は好きだけど、ヨルはどうだろう。匂いなんてそれこそ好みがあって難しい。
「昆ってどんな服が好き?」
「服?」
「やっぱり白くてふわふわの感じ?」
「どうかな」
「だって、昆が選ぶのってそんな服ばかりじゃない」
「なまえに似合うからね」
「じゃあ、ヨルと付き合ってたらどんな服を選ぶ?」
「なに、その気色の悪い質問は」
「いいから答えてよ」
「あいつー?えー、このへんじゃないの?」
昆が手にしたのはTシャツとショートパンツだった。だけど決してセクシー路線というわけではなく、どちらかといえば可愛い感じのもの。普通に可愛い服だった。
ヨルに似合うかは分からないけど、まぁ多分何でも着こなすだろう。悲しいことだけどスタイルが私と違っていいし。
「これ、二着あるかな?」
「何で二着?」
「ヨルと私の分」
「えっ。なまえが着るの?」
「うん。お揃い」
「駄目!こんな脚の出る服なんて絶対に駄目」
「大丈夫。はい、決まり」
「駄目だって!ねぇ、駄目だってば!」
「平気だよ。ニーハイとか履くし」
「いや、それはそれで駄目というか…」
「じゃあ、ロングブーツ履くから」
「駄目だって。なに、男受け狙ってるの!?」
「あ、これ受けるの?」
じゃあ、益々これは買わないと。嬉々としてカゴに入れると昆は私の腕を掴んだ。ぶちぶちと文句を言っているけど、私はその奥に置いてあるアクセサリーが気になっていた。
「ねぇ、聞いてる!?そんな露出の多い服なんて…」
「わぁ、あのアンクレット可愛い」
「全然聞いてないね。なに、アンクレットって」
「足用のブレスレット的な?ね、可愛くない?」
「…可愛いけど」
「けど、なに?」
「まさかなまえがつける気なの?」
「うん。欲しい。ねぇ、買って」
「駄目。こんな物、男の好物だから」
「そうなの?」
じゃあ買わないと、とカゴに入れる。これもヨルとお揃いがいい、とデザイン違いの物もカゴに入れると昆は絶句した。
たくさん買ってから空港に向かう。やっぱり2泊3日って短い。あっという間に終わってしまった。それでも、お婆ちゃんやハルさんと過ごすのは楽しかったし、夜に二人でビーチを散歩したり、シュノーケリングをしてカラフルな魚を見るのは楽しかった。また来ようね、と昆に笑い掛けると、昆は機嫌が悪そうにそっぽを向いた。まるで子供みたい。
「なにをそんなに拗ねてるの?」
「…まさかなまえが男から好かれようとしているとはね」
「だって、私も女の子だもの」
「妻が他の男に好かれようとしているのを容認しろと!?」
「私、そんなこと一言も言ってないけど」
「じゃあ、なに!?」
「大好きな夫にもっと可愛いって思ってもらいたい。ただそれだけだよ。昆以外に可愛いなんて思われても仕方ないし」
わくわくとしながら買ったばかりのアンクレットを足につけようとしたけど、思うように出来ない。どうして私はこんなにも不器用なんだろう。細いチェーンが切れそうだ。
私が悪戦苦闘していると、昆がすっと跪いてつけてくれた。
「不器用」
「う…ね、ねぇ。可愛い?」
「…可愛い」
「本当?わぁい」
「はぁ…もう、嫌…」
重苦しい溜め息を吐いた昆は頭を抱えた。やっぱり似合っていなかったのだろうかと顔を覗くと、やっぱり顔を逸らされる。ムッとして顔を掴むと、大きな手で顔を覆われた。
この反応は身に覚えがある。だけど、やっぱり分からない。
「昆のときめくポイントが全然分かんない」
「いいよ、分からなくて」
「私、そんな特別なこと言った?」
「もうね、その無自覚さが恐ろしいよ、私は」
「ねぇ、顔を見せてよ」
「嫌だよ」
「昆のキュンとしてる顔が見たいなぁー」
「嫌だって。しつこいよ」
搭乗手続きを待つまでの間、こうして二人で戯れ合いながら過ごした。出会って三年、結婚して一年になるというのに、未だにこうして昆は私の何気なく言った言葉に反応してくれている。何年目まで新婚さんだと言っていいのか分からないけど、少なくとも私たちは新鮮な気持ちのまま二年目へと突入することが出来そうだ。
帰国してヨルの家にクロを迎えに行くと、クロは特に寂しがった様子を見せることもなく、のんびりと伸びてから玄関へ来てくれた。だけど手を差し伸べるとシャーっと怒られた。
「えっ、何で!?」
「あぁ。犬のにおいがするんじゃない?」
「駄目なの?」
「他の男のにおいがしたら嫌でしょ、普通」
「あぁ、昆もそんなようなこと言ってたね…」
「クロと一緒にしないでくれる?」
不機嫌そうに昆はクロの首を掴んでポイっとキャリーに入れた。その微塵も愛情の感じられない行為にちょっとだけがっかりしていると、ヨルが昆を指差して高笑いした。
「クロに嫌われることをビビってるとかウケる」
「あ、そういうこと?」
「煩いよ。いいから早く帰って風呂に入るよ」
「雑渡って女々しいよねぇ、本当」
「煩いって言ってるだろ、夜一!」
「ドーベルマン気取りのくせに中身はチワワかよ」
「貴様…表出ろ!誰がチワワだ!」
チワワ…あぁ、チワワっぽいかもしれない。上手いことを言うなぁ、ヨルは。少なくともドーベルマンではない。
憤る昆を嗜め、ヨルにお土産を渡して家に帰る。日本はまだまだ寒いから二人でお風呂で温まって、おずおずと近付いてきたクロを撫でる。昆はソファに気怠そうに座り、免税店で買った煙草を開けていた。ガサガサと音がした方へとクロは飛びついていき、包装紙を爪でつつき始めたのを見た昆はニヤリと笑ってビリィっと紙を大きく割いた。その音に興奮したクロは部屋中を走り回り始めた。昆のときめきポイントが分からないように、クロの興奮ポイントもよく分からない。
「夜なのに興奮させてどうするのよ…」
「どうせ私たちが寝室でセックスしてたら大人しくなるよ」
「またそんなこと言って…」
「だってアキさんの家でヤれなかったし?なまえ、声大きいからね。流石に孫の喘ぎ声は聞かせるわけにはいかなくて」
「お、大きくないもん!」
「そ?じゃあ、今日はとびきり大きな声で鳴かせてあげる」
「や…っ」
酸欠になりそうなほど激しいキスをされて、寝室へと連れ込まれる。そして、何日かぶりに身体を重ねた。
事後もお互い息を乱しながら何度もキスをして、どちらともなく指を絡め、笑い合った。私が今年もよろしくね、と新年の挨拶のようなことを言うと、昆はくすりと笑い、そして、優しく抱き締めてくれた。昆と結婚出来てよかったと心から思う。どうか結婚二年目もいい一年を過ごせますように。
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