雑渡さんと一緒! 229


「警察だ!動くな!」

「抵抗するとどうなるか分かっているだろうな!?」

「あらま。遂に全員逮捕されちゃったねぇ」


ニヤリと八宝斎に笑みを向けると、大きな頭を揺らしながら抵抗していた。馬鹿め、この状況をよく見ろ。どう考えてもドクタケには勝ち目はない。こちらはあくまでも法を犯すことなくドクタケを乗っ取り、正当防衛で多少の暴力はあったにせよなまえを奪還させて頂いた。ちゃんと部下には平手打ち以上のことはするなと言っておいたし、部下もそれを守っていた。ちょっと気の毒なほど叩かれている奴がいるけど、まぁいいだろう。なまえが髪を切られたことと殴られたことを考えればお釣りがくる程度のことしかしていない。
一人ずつ部屋から警察の手によって出されて行くのをなまえを抱き締めながら見守る。達磨鬼が出て行く時、割れたサングラスの合間から睨まれたけど、そんなことは痛くも痒くもない。そして、最後に八宝斎が連れ出される時、八宝斎に聞かれた。一体、何処で株主のデータを手に入れたんだ、と。


「お前にはもう関係のない話だよ」

「どうせ違法に手に入れたんだろう!」

「知りたければ、お前の生徒に聞きな」

「生徒、だと?」

「ねぇ?校長先生?」


ニッと笑うと、八宝斎は青ざめた。思い当たる節があるのだろう、自分が長を勤めている学校の生徒で自由にドクタケ社に出入りしている人物が。
なまえが「山ちゃん」と呼んでいる女のことを当然調べさせてもらった。名前を「山ぶ鬼」というらしい。その名前には聞き覚えがあったし、過去に面識があった。その子はまだ子供で、忍術学園でなまえに話し掛けてきたことがあった。小生意気な話し方をする子供だったと記憶している。そして、子供なりに恋をしていた。確か忍術学園の四年生の男の子に恋をしていて、可愛くなりたいとなまえに相談していた。やれやれ、くだらないことをなまえに聞くものだと木陰から見ていて思ったものだ。どこからどう見ても田舎者の子供感丸出しの女になまえは言った。「大丈夫、恋をしていると女の子は必ず綺麗になる。あなたは既にとっても可愛いもの。だから、後はその人に好かれるよう内面を磨くだけだよ」と。みるみるうちに嬉しそうに笑った子供は駆けていったし、私はなまえらしい返答をするものだと微笑ましくなったことが今となっては懐かしい。あの二人の会話は本当に何でもないやりとりだ。だけど、あの子はそれが嬉しかったのだろう。こうして生まれ変わってもなまえを守りたいと思うほどに。


「ねぇ、知ってる?八宝斎」

「なんだ」

「光ってさ、闇を打ち破れるんだよ」

「…?何を言っている」

「それが分かる日が来るといいね」


まぁ、来ないかもしれないけど。そう思えるだけの人間と出会い、側にいてもらえるというのは奇跡に近いことだ。それこそ宝くじを当てるよりも遥かに低い可能性だろう。
静かになった部屋を見渡す。本当に趣味の笑いオフィスだ。どう改善してやろうかと考えていると、なまえが私の頬に手を伸ばしてきた。反射的に手を重ねると、なまえは柔らかく微笑んできてくれた。それが嬉しくて、部下の前だというのに思わずキスをしてしまう。私は自分を止められなかった。


「わぁ、濃厚なやつ…」

「いいから部屋から出ろ。見るな」

「俺も彼女欲しいなぁ…」

「マッチングアプリってどうなん?」

「出会い系だろ?」

「いやいや。その考えは古いって」

「いいから早く出ろ!二人の邪魔をするな!」


ぐいぐいを部下を押して出て行ったのを横目に見ながら角度を変えて再び舌を絡めようとすると、頬をベチンと叩かれてしまった。折角、二人きりになれたというのに何をするのかと詰め寄ると、なまえは落ちていた刀を手にした。


「ば、馬鹿…馬鹿ぁ!恥ずかしくないの!?」

「ない」

「どんな神経をしているのよ!?」

「いや、それよりさ。刀の持ち方が違うよ」

「へ?」

「刀はね、こう持つものだ」


なまえから刀を取り上げて一振りする。あまり切れ味のよさそうな刀ではないなぁ…と思いながら落ちていた鞘に刀をしまうと、なまえは惚けた顔をしていた。
こんなことでそんな顔をされてもあまり嬉しくない。暴力沙汰なんて本当は好きではないし、もう切り離した人生を送りたいとずっと思っていた。だけど、なまえがこうも喜んでくれるというのなら、遠い昔に取った杵柄で剣舞でもやらせてもらおうか。いや、まぁ、流石に今も昔も踊れはしないんだけど。それでも、刀を一通り使った型くらいは私も出来る。


「わぁ、かっこいい…」

「そ?」

「かっこよかったなぁ、雑渡さんは」

「ねぇ!今の私を褒めてよ!」

「かっこいー」

「お前…このっ、久々に会ったのにそれ!?」

「私の昆はね、刀なんて似合わないもの」


柔らかく微笑みながら両腕を広げられたから、刀を捨ててなまえを抱き締める。刀なんてなくてもちゃんと戦えた。暴力なんてなくてもちゃんとなまえを取り戻せた。本当は昔もこうすべきだったんだ。冷静になって、ちゃんと手順を踏めばやれないことはなかった。なのに、私は何人も殺めてしまった。本当は誰も殺したくなかったのに。
久しぶりに二人で手を繋いで家へと帰る。クロはなまえを見るなり飛びついてきた。ただいま、とクロを抱き締めながら言うなまえをそっと抱き締める。あぁ、ようやくまた家族で暮らすことが出来る。なまえに話したいことが山のようにある。たくさんお礼を言いたいし、たくさん謝らなければならない。だけど、それよりも今はこうして二人で過ごせることを噛み締めたかった。やっと光が私の元へと戻ってきた。これ以上ない幸せを感じながら玄関先で何分も抱擁し合い、二人で抱き合って恐ろしいほど久々に眠った。とてつもない幸福感に包まれていた私はこの時はまだ気付いていなかった。これから信じられないくらいの地獄が待っているのだと。


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