雑渡さんと一緒! 237


「ねぇ、見て。綺麗」

「本当だ」

「これは何か分かるでしょ?」

「分かんない」

「えっ。見たことはあるでしょ?」

「あるよ」

「何て花か気にならない?」

「ならないね」

「あ、そう…」


ピンクの花は秋に見たことがある。ただ、その名前までは知らないし、別に知りたいとも思ったことはない。
なまえは落ちていた花びらを摘んだ。それは桜に似ていた。


「桜みたいだね」

「うん。だから秋桜って書くんだって」

「へぇ。桜なんだ」

「ううん、違う」

「桜じゃないの?」

「コスモスは桜みたいな花なだけ」

「…?なぞなぞ?」

「何でよ。違うよ」


なまえは私の手に一枚花びらを置いて笑った。桜の花びらよりも細長いし、色味も濃い。やはり桜とよく似ている。だけど、地面に咲いている花は桜とは似ても似つかない。
今日はあの広大な敷地をどう活かすか参考にするために県外の大きな公園に来てみた。噴水があって花時計があって、遊具があって。広い芝生の上にシートを広げて座りながらぼんやりと眺める。見れば見るほど分からなくなる。憩いの場にするには何が必要なのだろう。あまり物が多ければいいというものでもないのだろうが、かといってなければ人は呼べない。ということは、この程度の規模の公園を作ればいいのだろうか。しかしそれでは特色があまりにもなさ過ぎる。


「また悩んでる。昆が作るわけじゃないんでしょ?」

「でも会議で案は出さないと」

「昆は何を作りたいの?」

「それが分からないから困っているんじゃない」


はい、と渡されたおにぎりを口にする。なまえと一緒に握ったもの。自分が握るよりもなまえが握った方が美味しいというのだから、おにぎり一つ取っても奥が深い。
思い切って池でも作ろうか。いや、管理に金がかかり過ぎるから池はなぁ…特色を持たせるって難しい。それこそ金はかかるけど幾つかキャラクターの像でも置けば話題になるんだろうけど、それも一時的なものだろう。遊具だって普通の物だと駄目だ。普通の公園にあるものよりも大きなものにしないと。まぁ、そのへんは子供がいる奴らに聞けばいいか。私では分からないし、想像もつかない。
シートの上に寝そべる。秋だなぁ、随分と空が高くなった。


「別に公園でなくてもいいんじゃないの?」

「他に何か案があるの?」

「だから、水族館」

「だから、無理だって」

「じゃあ、動物園」

「維持費がかかり過ぎる」

「うーん…よし。ちょっと聞いてくる」

「は?」


なまえは待っていて、と言って子供が遊んでいる所に走っていった。一体、何をする気なんだと眺めていると、子供や親に話し掛けていた。不審がられたらどうする気なんだ、と思ったが、うまいこと溶け込んでいた。何ならブランコを押して子供と遊んでいる。お前が遊んでどうするんだ、と思いながら楽しそうに笑うなまえの顔を眺めていてホッとした。なまえがまた笑ってくれるようになった。
アキさんがなまえに何を言ったのかは分からない。だけど、吹っ切れたようになまえはいつも通り私と出掛けたり、笑い掛けてくれるようになった。本当は私がなまえの傷を癒してやりたかったとアキさんに礼を言うと、またハルに坊やだと笑われた。もう坊やでも何でもいい。なまえが元気になってくれたのならそれでいい。アキさんには「傷を癒すのはお婿さんの仕事だ」とも「ちゃんとなまえを見てやってくれ」とも言われた。言われなくたってそうしたい。人として未熟な私に出来ることなら何だってしたいとずっと思っている。だから私はどうしてもあの敷地を花に覆われた公園にしたかった。あの土地を巡ってなまえを傷付けたのだから、あの土地でなまえを喜ばせたかった。だけど、何が正解なのか分からない。このままだと会議で言ったところで笑われて終わりなのは目に見えていた。
しばらくすると、なまえが走って戻って来た。全力で遊んだのだろう。ぜえぜえと言っていたし、手は砂だらけだ。


「分かった。忍者だ!」

「…は?」

「忍者屋敷を作って、子供が遊べるようにするの」

「子供が死ぬよ?」

「そんな本格的なやつじゃなくて。遊具もさ、それらしく塗装するの。お堀の代わりにお花を植えて、屋敷の上からは花時計とか噴水が見えて…で、滑り台で下に降りてくるの」


キラキラとした顔をしたなまえは手の砂を払いながら私に説明した。子供が遊ぶゾーンの周りには木を植えて、親が木陰で休めるようにベンチと芝生を設置する。自転車の練習が出来るように真っ直ぐの道を作って、噴水は夏は子供が遊べるようなものにする。少し離れた所には花畑があって、季節に合った花がいつも咲いている。そんな賑やかな公園はどうだろうかと私に提案してきた。あと、出来れば桜は植えてね、と付け加えて。それと、どんぐりと紅葉と…とだんだん自分の希望が増えてきたあたりで話を遮った。なまえ自身が。


「あっ…子供目線でしか考えていなかった!ちょっと待ってて、今おじいちゃんおばあちゃんに話を聞いてくるから」

「いいよ、別に。もう十分だ」

「…呆れた?」

「いいや?凄いとは思った」

「凄い?」

「なまえの企画力とリサーチ力がこんなにも高いとは思っていなかった。ところで一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「なに?」

「忍者屋敷って行ったことある?」

「あ、あるよ!あるある」

「で?」

「…それは、また任務に失敗した話を期待しているの?」

「いやいや。どうだったのかなぁと思って」

「失敗したよ!迷子になったよ!」

「ぷっ。やっぱり」


私が笑うとなまえは子供みたく頬をぷくっと膨らませて拗ねた。いや、予想通りで逆に安心した。忍者屋敷の攻略なんて簡単なものだとか言われたらどうしようかと思った。
忍者、ね。別に昔だって決してやりたくてやっていたわけではない。ただ、そういう里に生を受けたからやっていただけだ。それでも、では忍者であったことを誇りに思っていないのかと問われるとそれも違う。嫌なことも多かったけど、ちゃんとプライドを持って責務を全うしていたし、殿のお役に立てることは誇らしかった。もちろん、現代の誇張した忍者に仕上げないといけないだろうけど、このアイディアはなかなかに面白いかもしれない。生きる参考資料なら山のようにいるわけだし、進めるのもそう難しくはなさそうだ。


「ちょっと頑張ってみようかな」

「公園の方向でいくの?」

「うん。無事に完成したら一緒に来ようね」

「何年後くらいになるかなぁ」

「さぁ。五年くらい?」

「そんなにかかるの!?」

「そりゃあそうだよ。許可が下りるまでにも時間がかかるし、地盤を整えるのだって時間がかかるんだから」

「そっかぁ…じゃあ、その時は二人じゃないかもね」


優しい眼差しでなまえは遊んでいる子供達を見ていた。そうだね、完成した公園に行く時には私たち家族は二人ではないかもしれない。三人かもしれないし、四人かもしれない。何人でもいい。家族で出掛けたなら絶対に楽しいだろうから。


[*前] | [次#]
雑渡さんと一緒!一覧 | 3103へもどる
ALICE+