雑渡さんと一緒! 247


「い、いやぁ!何これ!?」

「え?ボーナス」

「な、何でこんなに…」

「そりやぁ、夏のボーナス出なかったし?合わせて的な?」

「やだ!怖い!」


札束をテーブルに詰むと怖い怖いと言われたけど、何が怖いのか。金は金だ。何も怖いことなどない。ましてや私が命を削って稼いだ金なのだ、多少血生臭いことはあろうとも怖いことなど何もない。
こんなにも頑張ったんだから、癒して欲しい。ぎゅっとなまえを抱き締めながら、もうすぐ今年も終わるなぁと思った。


「年末はどうしようか」

「お家でまったり、とかでいいんじゃない?」

「そんな普通でいいの?」

「じゃあ、何がいいの?」

「ホテルでSMプレイ三昧とか」

「なに、引っ叩かれたいの?」

「おっと。返しがなかなか強くなったね」


怖い怖い。これはまだまだ強くなるな。いや、まぁヤればヤったで盛り上がってはくれるんだろうけどね。ま、そういう特殊プレイは普通のセックスに飽きてからでも遅くはないだろう。飽きる日が来るのかは分からないし、まだそんな兆しは微塵もないけど。
しかし、家で過ごすなんて特別感があまりにもなさ過ぎる。


「家で何するの?」

「いや、だからまったりと過ごすの」

「いつもと変わらなくない?」

「だって、年末処理で疲れてるでしょ?」

「疲れてるだろうね」

「だから、まったり」

「えぇー…」


そんな理由でどこにも行かないのなら、私はどこか旅行に行きたい。次の長期休暇はGWまでないのだし、旅行なんてなかなか行く機会がないのだから。海外に行けないにしても、せめて温泉くらいには行きたい。
なまえの前に積んだ札束を一つ手に取り、帯を外してからざっくりと半分にした。こんなに貰ったのだから使わないと。


「よし。これでどこかに行こう」

「こんなに使うの!?」

「たったの50万じゃない」

「たったの!?」

「だって、こんなにあるんだよ?」

「家の改築にお金を使ったから駄目だよ」

「大丈夫だよ、節税になったし」

「何も大丈夫じゃないから。将来のために貯金しようよ」

「将来将来って…具体的に何?」

「老後とか?」

「早いよ。老後の心配は流石に早過ぎる」

「子供の教育費とか」

「まだいないのに?」

「とにかく、駄目!貯金するの!」


険悪な感じになってきた。確かに貯蓄というのは大切だ。節税目的とはいえ住宅ローンもあるわけだし。それでも、私が知る限り我が家の貯金額はどんなに低く見積もっても2000万はある。これで私が定年間際だというのならば心許ないかもしれないが、私はまだまだ現役で働いている。というか、多分65まで働かされる。嫌だけど。本当は60で辞めたいけど。


「よし。じゃあ、じゃんけんで決めよう」

「狡いよ。昆は動体視力がいいんだから」

「じゃあ、何ならいいの?」

「林檎の皮剥きとか?長い方が勝ち的な」

「それはなまえが有利じゃない」

「トランプ!じゃあ、ババ抜きは?」

「うちにトランプなんてあるの?」

「ない」

「よし。買いに行こうか」


この勝負、もらった。なまえのような顔に感情のほとんどを出す子が営業で鍛えた私の表情筋に勝てるはずがない。
外に出ると雪が舞っていた。先日積もった雪が折角溶けたというのにまた積もりそうだ。老後は雪の降らない所に住みたい。出来れば暖かい所。それこそ、グアムなんて羨ましい限りだ。流石にあそこまで暑くなくてもいいけどね。
玩具屋にトランプを買いに行くと、クリスマス前ということもあってか子供で賑わっていた。子供というのはいつの世も可愛い。ゲームなのか、カードなのか、それとも人形なのか。いずれ私たちに子供が出来ればうちも玩具で溢れた家に変わることだろう。出来れば女の子がいいなぁ。おままごとのキッチンとか置いて、お店屋さんごっことかしたい。なまえに似た女の子が早く欲しいなぁ。男の子だったら戦隊ものだろうか。そういえば私も昔、欲しかったなぁ。施設にあった玩具で遊ぶのは何となく恥ずかしくて、いつも本を読んでいたけど、本当はゲームとかしてみたかった。子供なんだから本当は子供らしく遊べばよかったんだ。今から思うと馬鹿みたいだけど、大人に子供だと思われるのが嫌だったんだよなぁ。だけど、多分先生には分かっていたんだろうなぁ…


「ふ…」

「なに?」

「いや、馬鹿だったなぁと思って」

「何が?」

「幼い頃の自分。甘えるのも遊ぶのも下手だったから」

「そうなの?」

「何かねぇ…もっとちゃんと甘えればよかった」

「初恋の先生には甘えていたんでしょ?」

「初恋とは認めたくないし、多分違うけどね」

「あら、そうですか」

「おや。嫉妬してくれるの?」

「別にー」


トランプはどこかな、となまえは早足で歩いていった。そのあからさまな態度が可愛くて、思わず笑ってしまう。
なまえは結婚式に先生も呼んだらどうかと言った。仮にも前世で婚約していた女を呼べとは不思議というか、冷めたことを言う子だと何となく嫌な気持ちになった。いや、まぁ別に好きでも何でもないのだから嫉妬されても困るし、嫉妬されるような関係性では現世ではないのだけど。とにかく不快だと私が言うと、なまえは笑った。「だって、お母さん代わりなんでしょ?」と。先生と私は親子ではないし、ほんの何年か一緒に施設で過ごしただけの間柄だ。だけど、私に母親のような愛情を向けてくれたのは確かだった。何とも言い難い感情を抱いているのは確かだし、それを受け入れてくれようとするなまえはやはり懐が深いと思う。私なら怒るのに。


「先生はね、そんなんじゃないよ」

「いいよ、もう」

「本当だって。ただの世話になった人」

「分かってるって」

「まぁ、好きといえば好きだったけど」

「ほらぁ!…あ、んんっ、私は別に気にしてないもん」

「ふふ…」

「き、気にしてないってば!本当だからね?」

「分かってるよ。ありがとう」


本当は嫌な気持ちになるのに、ちゃんと受け入れようとしてくれてありがとう。だけど、式には先生は呼ばないことにした。なまえと結婚していることは知っているし、もう終わったことだから。私と先生の人生が交わることは多分もう二度とないだろう。だけど、お互いが幸せに生きることが出来ているのなら、それでいい。私の中で先生がそう思えるだけの間柄となったのは紛れもなくなまえのお陰だし、なまえに対してはもちろんそんな間柄でいいとは思えない。片時も離れたくないし、私の手で世界一幸せにしたいと思っている。
で。そんな愛しい子とやはり旅行に行きたいし、譲れない。


「よし。絶対に勝つ」

「負けないもん」

「いいや、私が勝つ。で、年末は温泉でヤる」

「子供の前で変なこと言わないで!」

「何を、とは言っていないじゃない」

「そういう問題じゃないから」

「大丈夫。誰しもがその結果生まれてきているんだから」

「何が大丈夫なの!?」


なまえと言い争いながらレジへと向かっていると、レジ横に置いてあるボードゲームが目に入った。施設にも置いてあって、たまーに誘われたけど頑なに拒否していたからやったことはない。その横に置いてある木を詰むゲームも見たことはあるけど手にしたことはないし、実際のところルールさえも分からない。
何となく手にして裏面を読むと単純なルールだった。面白いのかは知らないけど、まぁ頭は使わないゲームのようだ。


「わぁ、懐かしい。それ、やりたいの?」

「面白いの?」

「うん。きぃちゃんがね…」

「出た、北石」

「なに。聞きたくないから言わないけど」

「いや、別に。で、北石がどうしたって?」

「佐茂さんとよくやるんだって」

「はぁー。子供じゃあるまいし」

「なかなか盛り上がるらしいよ?罰ゲームとかしながら」

「子供か」

「もう。彼氏とすると盛り上がるって言ってたもん」

「ほぉー?」


罰ゲームねぇ…。恋仲にある人間とする罰ゲームとは何だろうか。まさか酒の一気飲みなんてことはないだろう。ということは、あれか。あれなのか。そうだ、これはいい。
無言で一つ手にしてレジに並ぶ。あぁ、いいことを知った。


「結局、買うんだ。やりたいんだ?」

「負けたら罰ゲームね」

「…ちなみに、罰ゲームって何?」

「一枚ずつ脱いでいく、とか」

「は?嫌だよ!」

「指定した所にキスする、とか」

「嫌だってば!」

「大人の罰ゲームだよ?あぁ、これは楽しみだなぁ」


去年の年末もいやらしいことに時間を使ったけど、これは今年もなかなか楽しくなりそうだ。少なくとも、旅行に行かなくてもいい娯楽となり得ることだろう。
で。折角わざわざ買ったけどトランプは結局やらなかった。何をやったかって?それは言わなくとも分かることだろう。


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