雑渡さんと一緒! 248
ガシャーン、と詰んだ木が崩れた。まただ。また負けた。
私がふるふると震えながら昆の顔を見ると、にんまりと昆が楽しそうに笑った。もう既にかなり際どい格好になっている私は恥ずかしさから嫌な汗をじわりとかくほど暑くなっているし、服一枚脱いでいない昆は真逆で涼しい顔をしている。
「ふむ。ただ脱がすのは流石にもう飽きたな」
「じ、じゃあ服を着てもいい…?」
「いいや?そんなことは勿論許しはしない」
「ですよね…」
「そうだなぁ、この部屋はなまえに合わせていくらか暑いからね。そろそろ私の服をなまえに脱がせてもらおうかなぁ」
「あ、そんなことでいいの?」
「言ったね?じゃあ、脱がせてよ」
下を指さされたから昆のスキニーに手を伸ばすと、おかしなサイズのものが目に入った。いや、待って。ねぇ、待って。
「おや。どうしたの、早く脱がせてよ」
「やだ!もう、嫌…」
「仕方ないじゃない。興奮するのは」
「またエッチなことをしようとしているでしょ!」
「そりゃあね。男ですから」
「毎日毎日…っ」
「なに。嫌なの?」
「嫌だよ!恥ずかしいよ!」
「それも含めての罰だもの」
ほらほら、と促されて昆の下半身が下着一枚になった。こんな格好で昆の服を脱がせるなんて、まるで私が痴女みたいじゃない。私が誘っているみたいじゃない。
次こそは絶対に勝つ。それで、服を着せよう。絶対に勝つ。
「はぁ…はぁ…っ」
「おや。なまえも興奮しているの?」
「緊張しているの!」
「次はそうだなぁ、何をしてもらおうか」
「私が勝つんだから!」
「あぁ、そうだ。なまえにいやらしいことを言わせよう」
「はぁ!?絶対に嫌!」
「ふ…なに、勝てばいいだけのことだよ」
まぁ、負けないだろうけど、と言う昆の勝率は8割だ。私の勝率を上げるためにはどうしたらいいのだろうか。
これ以上いやらしいことをさせられるのは流石に嫌だった。これを買ってから毎日毎日いやらしいことばかりさせられていて、恥ずかしさのあまり穴を掘って埋まりたいくらいの気持ちになっているのだ。私が勝って今日こそは回避したい。
「あぁ、そんな所から抜いて。バランスを考えなよ」
「…これは私の作戦だから」
「ほぉ?」
「私が勝ったら、私の好きなことをするからね?」
「ふむ。どんなことをする気?」
「舐めさせて欲しいなぁ、なんて思ってる…」
ビクッとした昆が引き抜いた途端、バランスを崩してガシャーン、と大きな音を立てて積まれた木片が落ちた。よし、と心の中で大きくガッツポーズをする。勝てる。私、勝てる。
「な、何て…?」
「暑いからアイスを舐めたかったんだぁ」
「は…はぁ!?狡い!」
「狡くない。私、何を舐めるとは言ってないもん」
「ちっ…」
分が悪いと察したのだろう、昆は黙った。こういう素直なところが昆のいいところだと思う。
冷凍庫からアイスを持って来て、きちんと積み直されたブロックを眺める。とりあえず服を着たいし、服を着せたい。こんな明るい所でいやらしいことなんてしたくないし、されたくもない。だから勝つ。どんな手を使ってでも勝つから。
「私、アイス食べるから、昆からどうぞ?」
「ん」
「あ…部屋が暑いから溶けて来ちゃった」
「早く食べなさい」
「ん…あ、美味しい。んん…っ」
ペロッとアイスを一舐めしてから口に咥える。音をたてて棒アイスを前後に動かしながら舐めると、昆が明らかに動揺したのが分かった。こんなことをするのは本当はかなり恥ずかしいけど、実際にこんな明るい時間にソファに座った昆を舐めるよりはいくらかマシだ。
昆が興奮しているのがはっきりと分かる。荒い息遣いで、震えながら木片を抜こうとしていた。私だって馬鹿じゃない。昆は勝負を仕掛けるために崩れやすそうな所からいつも引き抜く。逆に言えば、崩れやすい。これはあと一押しだなぁ。
「あん…垂れてきちゃった…」
「ん、ん…っ」
「やだ…胸に垂れちゃった」
「ちょっと黙って…」
「ん、ねぇ、見ないでね…?」
ブラジャーから胸をちらりと見せながら指先で垂れたアイスを拭うと、また音を立てて崩れた。あまりにも作戦通りにいってしまって少し拍子抜けする。
「あれ?また昆の負けだね。じゃあ、ニットを着るね」
「狡いよ!ねぇ、反則だよ!」
「反則じゃないよ。アイスが垂れただけだもん」
「いつからそんな狡賢くなったの!?」
「さぁ?いつからかなぁ」
私が勝ち誇ったように笑うと、昆はギリィっと歯軋りした。かなり悔しそうだ。よしよし、これはいけそう。
その後、勝ったり負けたりを繰り返して、お互いに服をちゃんと着るところまで持ち直した。今日の勝率は五分五分だ。気を引き締めて最後まできっちりやり切ってやるんだから。
「夕飯の支度があるから次で最後ね」
「じゃあ、お互い小細工はなしだ」
「ちなみに、昆が勝ったら何をさせる気なの?」
「そりゃぁもう、言葉にも出来ないくらい、いやらしいことをさせてやる。言っておくけど、意地でも私が勝つからね」
「ふーん」
「なまえが勝ったら私に何をさせる気なの?」
「んー…?」
そうだなぁ…お風呂掃除とか、夕飯の支度とか?だけど、そんなことは罰ゲームでなくても昆は私がお願いしたらやってくれる。だからそんなことは望んだりしない。
このゲームをやってみて、昆のことがよく分かった。この人は私が本当に嫌がることは望んでいない。いやらしいことをさせられることはあっても、私が本気で拒んだら強制はしてこなかっただろう。それに、実はいやらしい格好こそさせられるものの、その後望まれるのは大概甘えさせて欲しいというもので、事に発展することは少なかった。いや、まぁするにはしたけど、それでも「胸に顔を埋めながら頭を撫でて欲しい」とか「膝枕をしながら好きって言って欲しい」とか、本当に甘えん坊なお願いが多かった。結局のところ、昆は私に甘えるための言い訳としてこのゲームを使っているに過ぎず、逆に言えば素直に甘えられないということだ。泣き虫だし甘えん坊だってことくらいもう私は分かっているのに。
「私が勝ったら、キスして欲しいかなぁ」
「そんなことでいいの?」
「うん。その代わり、口じゃなくてね」
「うん?」
「去年の年末みたいに全身にいっぱいして欲しい」
「ねぇ!小細工はなしだってば!」
「違うよ。本当に、去年みたく過ごしたいの」
「ほ、ほぉ…?」
「さぁ、昆の番だよ?どうする?」
昆はごくりと息を飲んだ。まさか私がこんなことを言うなんて思ってもみなかったのだろう。
昆がゲームをしないと素直に甘えられないというのなら、私はゲームをしないと素直に誘えない。だから、これはとてもいい機会だと思っている。まぁ、流石にこう毎日するのはどうかと思わなくもないけど。それでも、ちゃんと昆が私のことを大切に想ってくれているのは伝わったから。だから、今日は特別。いつもされたら困るけど、今日はしてもいい。
「…時間の無駄だね。やめよう」
「あ、やめちゃうの?じゃあ、年越し蕎麦を…」
「いいから、おいで。するから」
「い、今は嫌だよ!もっと暗くなってから…」
「優しくしてあげるから。ほら、おいで」
両手を広げる昆にそろっと近付くと、腕を掴まれて抱き締められた。そして、激しいキスをされてから寝室へと抱き抱えられて連れられ、怖いほどイかされた。どこが優しいのよ、と思わず言いたくなるほど激しく攻め立てられ、日が落ちて暗くなってもまだ求められ続けた私はこの日、夕飯なんて作れなかった。目が覚めたら年が明けていたから。
すうすうと寝息をたてて昆が隣に寝ていた。お夕飯を食べ損ったからお腹は空いたし、激しい運動をしたからお風呂にも入りたい。いつまでも裸というのも落ち着かないから服だって着たいし、友達にあけおめLINEをしたかった。だけど、あまりにも昆が幸せそうな顔をして眠っているから、今日くらいはそんなつまらないことをやめて寝直すことにした。
「…大好き」
昆の額にキスすると、伸びてきた髪が当たってくすぐったそうに昆は顔を歪めた。こういう何気ない表情の一つ一つさえも愛しいと思ってしまう。
もっと色んな昆を知っていきたい。それこそ去年は本当に昆のことをたくさん知ることが出来た。どうか今年も昆のことがたくさん知れますように、と祈りながら昆の胸にすりすりと顔を擦るように擦り寄る。すると、唸りながら私を抱き締めてくれた。勿論、起きてなんていない。だけど、昆は無意識にも私がこうするといつも必ず抱き締めてくれる。そんな幸せな瞬間を逃さずにこれからも昆の側にいよう。そしていつか、あんなゲームを使わなくてもお互いに素直に甘えられるような関係になっていきたい。まだ私たちの関係は長い長い残りの人生でみれば始まったばかりなのだから。
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