雑渡さんと一緒! 249


「いい結果が出た方が勝ちね」

「勝ちとかないよ」

「いいや。この神社には神がいるから勝ちだ」

「神様を信じるようになったんだ?」

「まさか。神などこの世にはいない」

「はぁ」

「だけど、ここには少なからず指南に長けた者がいる」

「それは神様でしょ?」

「そのあたりは私には分からない」

「それ、普通に信じているんだよ」


私が念入りに祈っているとなまえは去年のように呆れたような顔をした。信じているかって?信じているとも。この神社の指南のお陰で私はまだなまえに捨てられずに側にいられている。感謝してもしきれない。
で。毎年恒例のおみくじを引く。去年は大吉と見せかけた大凶だった。全然大吉のような一年は過ごせなかった。だって、なまえと何ヶ月も離れて暮らすことになったのだから。ということは、逆に大凶の方がまだマシなのではないだろうか。例え大きな喧嘩をしようとも、そっちの方がずっといいのではないだろうか。短期間で仲直りさえすればいいだけのことなのだから。そうだ、大凶だ。むしろ、大凶がいい。


「よし、開けるよ」

「うん。せーの…」

「あ、待って。やっぱり怖い」

「嘘でしょ。そんなに?」

「…うん、よし。せーの…っ」


ドキドキしながら折り畳まれた紙を開けると、そこには大凶と書かれていた。よし、大凶だ。きっとこれで今年はいいことがある。そうだ、そうに決まっている…


「…えっ、大丈夫だよね?」

「え?」

「大凶だったけど、むしろ大吉だよね?」

「は?」

「大丈夫、大丈夫…」

「なに?落ち着いて」

「なまえは?」

「大凶だった。えー、初めて引いた」

「これは当たりだよね?」

「まぁ、珍しいから当たりという人はいるけど…」

「よかった。生き繋いだ…」


そもそも、この神社で私は大吉と大凶しか引いたことがない。どんな神社だと思わなくもないが、それでも、指南してもらったおかげで私は感情的になろうともなまえと離れることなく、愛してもらえている。
今年のおみくじには指南らしい指南は書かれておらず、現状維持に努めることを意識することにした。これでいい、いいんだ。そう言い聞かせてみても不安は拭いきれない。去年買ったお守りを納めてから新しいお守りを購入して、賽銭で一万円を放ってから念入りに祈った。どうかなまえと幸せに暮らせますように。二人が離れることなく、健康で一年笑って過ごせますように。そう祈った。これ以上の望みなどない。


「寒…帰ろうか」

「今日こそ年越し蕎麦を作らないと」

「もう年が明けたのに?」

「誰のせいでしょうか?」

「いや、なまえも悦んでいたよね」

「だからって、あんなに…っ」

「それを望んだのはなまえでしょ?」

「限度ってものがあるの!誰が失神するまでしてって…」

「凄かったよー、特に最後の方。超よかった」

「前々から思っていたんだけどさ、それは褒めてるの?」

「いや、どう考えても最上級に褒めてるよね」


気持ちいいって言ってるんだから。いい顔して喘いでくれていたし。あの顔って独特のいやらしさがあるよなぁ。写真に収めておいたら後々使えそう。残念ながらこっちにもそんな余裕なんて微塵もないから叶わぬ夢なんだけど。
家に帰ってから福袋を開けてみる。なまえも私もギャンブルが好きではないから福袋なんて購入したことはなかった。だから、これは初めての試みである。残り物を詰めているというのは一昔前のことで、今は中身が見える福袋というのが主流のようだ。それはそれでワクワク感がないというか、面白くないと思うのだが、まぁある程度はハズレないという意味ではいいと思う。私個人がワクワクするのも一つ買ったし。


「じゃあ、まずはクロのやつ」

「うん。おやつと玩具の詰め合わせでしょ?」

「あ、これ美味しそう」

「いや、なまえのじゃないから」

「わ、分かってるもん」


猫用のクッキーをじっと眺めていたなまえから取り上げて一つクロに差し出してみる。思い起こせば甘いものをクロにあげるのは初めてだけど、喜ぶものなのかどうか。
クロは匂いを嗅いでからシャクシャクと音をたてて食べ始めた。そして、一つあっさりと食べ切り、鳴き声をあげた。


「美味しいみたいだね。どれ…」

「あっ、狡い!私も食べる!」

「……ほぉ?」

「んー…ん…」

「いや、不味っ。何の味もしない」

「クロの前で何てこと言うのよ!」


いやぁ、だって不味いし?本当に何の味もしない。おまけに硬い。全然美味しくない。引くほど不味い。
紙袋から魚のぬいぐるみを取り出すと、クロは包装を開ける前から興奮し始めた。俗に言う蹴りぐるみというやつなのだろうけど、こんな物を蹴ったところで何が楽しいのやら。


「おや。またたび入りだって」

「よく分かんないけど凄そう」

「ほら、取ってこーい」

「クロは犬じゃないから取ってこいは出来ないよ」

「本当だ。うわ、何あの食いつき方…」

「よかったー。この福袋当たりだったね」

「んー」


後は猫じゃらしとなまり節、それと缶詰めが入っていた。この缶詰めというのがなかなか厄介なもので、なまえが夕飯の支度でトマトホールを開けても自分が貰えるものだと飛んでくるようになったそうだ。猫というのはなかなかに頭のいい生き物のようだ。
さて、と次の福袋を開ける。次は輸入雑貨店の福袋だ。雑貨といっても入っているのは食品のみで、メインはお菓子だった。つまり、これはなまえ用だ。私にはあまり関係ない。


「わぁ、美味しそうなチョコレート…」

「ふーん」

「あ、これなら昆も食べられるんじゃない?」

「なに、それ」

「しいたけチップスだって」

「うわー、無理ー」

「もうしいたけは克服したでしょ?」

「なまえが調理したものはね」

「はい、あーん」

「うー…あー…」


見るからに乾燥させたしいたけを口にすると、味はコンソメだった…が、しいたけの悪いところを全面に押し込んだ後味がした。あと、軸に近いところの食感が気持ち悪い。好んで食べたいとは思わないし、これをお菓子として売り出そうとした企業の気が知れない。よく売れると思ったな。
やだやだと一緒に入っていたナッツを口にする。ナッツは何をしても美味しい。本当に美味しい。もうマジで美味しい。


「…あ。今度、鶏肉とカシューナッツの炒めもの作って」

「あぁ、中華とかであるやつ?」

「そう。私ね、あれ初めて食べた時感動した」

「美味しいけど、カシューナッツって高いんだよなぁ…」

「これでいいじゃない」

「無塩じゃないから駄目だよ」

「大丈夫。いけるいける」

「駄目だって。無塩のカシューナッツ見かけたら作るね」

「それ、作る気ないやつだよね?」

「あるある」

「いや、絶対にないでしょ」


なまえが作ったら絶対に美味しいのに。中華鍋と一緒に今度ネットで買おう。カシューナッツなんて普段食べる機会がないからかもしれないけど、あれを初めて食べた時は何て美味しいものがこの世にはあるんだと思ったものだ。
駄菓子の福袋、タオル類の福袋、パジャマの福袋と次々と開けていき、なかなかいい物が入っているものだなぁと少し面白くなくなってきた。驚きが足りなくて少しつまらない。


「これに期待だなぁ」

「あぁ。それ、何?」

「んー?」

「いや、いつの間にか買っていたから」

「下着の福袋」

「ふーん。そんなのあるんだ」

「ね。いやぁ、楽しみだなぁ」

「…えっ。ねぇ、それ誰の…?」

「なまえの」

「は!?またまたぁ…私のサイズなんて知らないでしょ?」

「A65でしょ?」

「ひっ!何で把握しているのよ!?」

「そりゃあ、何年も触ってるし?」


紙に包まれた下着を取り出していくと、なかなか凄いものが出てきた。ほーお、ほとんど紐の黒ですか。ご丁寧にも解き方まで書いてある。で、後は網タイツ、と。ほぉー。


「なまえ、風呂に入ろうか」

「嫌だよ!絶対に嫌!」

「あ、そう。じゃあ、このままヤる?」

「嫌だってば!」

「これ、手錠とか入ってないのかな?」

「ば、馬鹿!何考えてるのよ!」


どこからどう見てもヤる用の下着をなまえに当てると、手を払われた。昨日、三回もしたから勃たなかったらごめんね、と言いながらワンピースのファスナーに手をかける。
福袋というのは売れ残りを詰め込んだり、つまらない物が必ず入っているものだと思い込んでいたが、これはなかなかにいい買い物をした。美味しい思いも出来たわけだし、来年からも必ず買おうと思った。ただ、所詮は福袋。決して望んでいる物が入っているとは限らない。翌年も下着の福袋を購入しようと私が笑い掛けると、なまえは私用の下着の福袋も買えと言ってきた。どうせ大した驚きはないだろうと決めつけていたその中身に慄いて、まぁまぁ恥ずかしい思いをしたというのはまだ一年後の話であり、そしてまた別の話である。


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