雑渡さんと一緒! 252


「わぁー。降ったね」

「いいから退いて」

「私もやるよ。手伝う」

「出来るの?」

「出来るよ。実家の雪かきやってたもん」


駐車場の雪かきをしなければ車を出すことも出来ないくらいの雪が一晩で降った。雪国において長靴もシャベルも必需品だ。それでもマンションで暮らしていた時は除雪は必要なかったから助かっていたんだけど、今の賃貸の駐車場は屋根がないから嫌でも除雪をしないといけない。
新雪は軽いけど、少し溶けた雪は重いから、なかなかに重労働だ。吐く息が真っ白で、いかに外が寒いのかがよく分かる。なのに身体は暑くて仕方がない。これ、痩せるかな。
昆はシャベルに足をかけて雪をすくっては積み、すくっては積みを黙々と繰り返していた。途中でコートを脱ぎ、暑い暑いと言いながら汗を拭う姿は新鮮で、そしてとてもかっこよかった。男の人が汗を流しながら頑張っている姿ってどうしてこんなにもかっこいいんだろう。ちょっとキュンとした。


「あー、暑…」

「生まれ変わったら次は雪の降らない所に住みたいね」

「本当だよ」

「少し休む?」

「いや、一気にやってしまいたい」

「よっし。頑張るぞ」

「なまえは休んでなさい」


車の上の雪を落とすだけでぜぇぜぇ言っていると、昆がマンションを指差した。もう戻れと言いたいようだ。確かに私の体力では足手纏いなことだろう。正直、プラスチックのシャベルも雪を乗せれば重くなってしまうからどれだけも積めないし、新雪に足跡をつければつけるほど雪は固くなって除雪が大変になってしまうから。
大人しく隅っこで昆の吐く白い息を眺める。空はどんよりとも違うし、かといって晴れていて明るいわけでもなく、冬の空をしていた。細かい雪が舞っていて、薄暗いのに明るい。この冬の空独特の明るさが私は好きだった。悪態をつきながら必死に除雪している昆にはとても言えないけど。
子供の頃は雪遊びをしたなぁと懐かしくなる。雪だるまを作ったり、かまくらを作ろうとして挫折したりしたものだ。あと、雪合戦とかね。私、びっくりするほど弱かったなぁと思いながら雪玉を作って昆に向かって投げると、べしゃっと昆に当たった。コントロールの悪い私の雪玉がまさか当たるとは思っていなかったし、昆もまさか雪を投げられるとは思ってもみなかったのだろう。お互いに驚いたような顔をしていた。私が謝ろうと昆に近付くと、昆は足元から雪をすくって作った雪玉を投げてきた。当然の如く雪玉は私に当たった。


「あっ、冷たい!何するのよ!?」

「それはこっちの台詞」

「わざとじゃないもん!」

「へぇ?たまたま投げた雪が私に向かってきた、と」

「そう」

「どんな言い訳なの、それ」

「ほ、本当だも…あ、待って。ま…いやぁ!冷たい!」


コントロールのいい昆の雪玉は見事なくらいに全て私に当たった。決して強く握られたわけではなく、そして、強く投げられたわけではない雪玉は当たっても痛くはなかったけど、それでも冷たい。ムッとした私も懸命に雪を丸めては投げ、丸めては投げを繰り返してみたけど、残念ながらコントロールの悪い私の雪玉は昆に当たるどころか空を描いて落ちていった。さっき当たったのはやはりただの偶然だったようだ。
全く当たらない雪玉を眺めて不思議そうに昆は首を傾げた。


「なに。ちゃんと目、ついてる?」

「ついてるよ!」

「何で全く当たらないの?そんなことある?」

「あ、当たらないんだもん!」

「よく見て投げないと。というか、さっきのはまぐれ?」

「だから、わざとじゃないんだってば!」

「ふーん…」


変なの、と言って昆は雪玉を強めに握った。まさかあれを私に投げる気なんじゃ…とゾッとしたけど、もちろん昆がそんなことをするはずもなく。コロコロと地面に残っていた雪の上で雪玉を転がし始めた。それを見てピンときた私も雪玉を転がしてみる。邪魔にならない所で雪玉を二つ並べて、小さい方を上に乗せると不恰好ではあるけど可愛らしいサイズの雪だるまが完成した。顔になるような実が落ちていないかと私がエントランスまで走っている間、また昆は黙々と除雪を再開していた。そろそろ辞めても車は出せそうなのに。相変わらず完璧主義というか、変なところで真面目な人だよなぁ。


「ね、見て。可愛い」

「んー」

「ねぇ、見て!」

「見てる見てる」

「もう。見てってば!」

「うわっ」


私が体重を掛けると、昆はバランスを崩して転んだ。雪の上だからアスファルトと比べると痛くはないかもしれないけど、逆に言えば雪の上だから冷たかったことだろう。
怒られることを覚悟したけど、昆は白い息を吐きながら空を見上げた。遠くを眺めるその表情はどこか儚げに見える。


「こ、昆…?」

「んー?」

「どうしたの?」

「いや、幸せだなぁと思って」

「幸せ?」

「除雪なんて憂鬱な作業だったのに、なまえとやると楽しいからさ。雪遊びなんて本当、相当久し振りにやったよ」


そう言って昆は雪を手ですくった。何とも幸せそうに笑う昆の顔があまりにもかっこよくて、思わず目を逸らす。こんな風に昆と過ごせることは周りから見たらとても贅沢なことだろう。何気ない日常がとても幸せだ。
寒いから家に入ろうと私が促すと、昆は小さな雪だるまを抱えて立ち上がった。不思議に思って、思わず首を傾げる。


「クロに見せてやろう」

「あ、そうだね。外には出せないから」

「寒…止まったら寒くなってきた」

「お風呂沸いてるよ」

「えっ。流石、用意がいいね」


ベランダに雪だるまを置いてから二人でお風呂に入って冷えた身体を温めた。腰が痛いだの腕が重いだのと言う昆の指先を擦りながら、楽しかったねと笑い掛けた。


「子供が生まれたらもっと大きな雪だるまを作ってね」

「えー。重くて頭を持ち上げられないよ」

「頑張って、お父さん」

「子供には雪の投げ方を教えないと」

「私にも教えてよ」

「無駄だよ、なまえには」

「な、何でよ…」

「いいじゃない。運動音痴なくらいがなまえは可愛いよ」

「むぅ…」


よしよしと撫でられて、子供扱いしないでと手を払う。私だって出来ることならスポーツ万能に生まれたかった。
お風呂からあがって、二人で鍋をつつく。お昼から鍋なんて贅沢なことだけど、たまにはいいだろう。冷えた身体がようやく温まったところで、残念ながらまた外に出なければならない。買い出しだ。二人でどっさりと食材を買い込んで、湯冷めしないように温かい珈琲を二人で飲み、ベランダの雪だるまを二人で眺めた。何となく幸せだなぁと思い、昆の顔を見ると、柔らかな笑みと共に優しいキスをしてもらえた。
外はまだ粉雪が舞っていた。きっと冷え込むことだろう。加えて、このマンションはあまりエアコンの効きがよくなくて寒い。だから、二人寄り添って過ごすことが多い。今年も寒くなるんだろうなぁなんて言いながら、甘えるように頭を寄せてくる昆のことが愛しくて、私の心は雪遊びしていた時のように温かかくなった。どうか彼も同じでありますように。


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