雑渡さんと一緒! 260
「おかえりー。あれ、何それ」
「ゲーム」
「えっ。どうしたの?」
「福引きで当たった」
「えー。すごーい」
「コンビニで一回引いただけなんだけどね」
「凄い凄い。やりたい」
「ご飯食べたらね」
前々から思っていたけど、昆はくじ運が強い。前にも商店街の福引で温泉旅行を当てたことがあるし、宝くじとか買ってもらったら当たるかもしれない。
食後にインターネットに接続して幾つかゲームソフトを買って、赤と緑の帽子でお馴染みのゲームを二人でやってみることにした。ちなみに、私はテレビゲームというのはやったことがない。目に悪いからと親に買ってもらえなかったのだ。
「ほぉ?成る程…」
「えっ、難しい。いやぁ、来ないで!」
「いや、倒しなよ」
「どうやって!?あ、あぁー!」
「下手くそ」
貸してごらん、と言った昆はそれはそれは上手かった。私と違って要領のいい昆はゲームも上手いようで、さくさくとステージをクリアしていく。
ただ、流石にボスのステージは難しかったようで途中で苦戦していた。初めは簡単だと豪語していた昆も静かになってしまった。赤い帽子のおじさんの行く末をじっと見届ける。しかし、どうしてお城から火が出ているのだろうか。暑そう。
「あ」
「あー、惜しい」
「………」
「どうしよ、私じゃ無理だよ」
「…いける。意地でもいく」
「あ、負けず嫌いの心に火がついちゃった」
たかだかゲームなのに、昆はムキになってコントローラーを握っていた。本当にただのゲームなのに、こんなところでも負けず嫌いを発揮するなんて。
何度も何度も火の海に落ちたり、骨の亀にやられたり、何故かハンマーを投げてくる亀にやられたりしながらもボスに到着した。いよいよお姫様を助け出せるんだ、と思うと私も手に汗を握ってしまう。昆の横顔は真剣そのものだった。
「うわぁ、足場が崩れるんだ」
「は…はぁ!?おい、今のは卑怯だろう!」
「いや、そういうゲームだし」
「ぐ…っ、くそ…」
「ねぇ、そんなに苛々するなら代わって」
「なまえに出来るものか」
ふん、と鼻を鳴らして昆はキッチンに行った。苛々しているからか、煙草を吸う動作もいつもよりも荒い。
何気に失礼なことを言われたけど、まぁ私も昆の言う通りだと正直なところ思う。昆が出来ないことを私が出来るはずがない。悲しいけど、事実だろう。とりあえず、ずっと昆の隣でゲームを見ていたから、本当に見様見真似でコントローラーを操作すると、あっさりとボスを倒すことが出来た。あまりにも簡単に倒せたから、何かの間違いかと思ったくらい。
「あ。エンディング」
「え!?倒したの?」
「うん。何かね、あっさりと」
「嘘でしょ!?どうやったの?」
「分かんない。何か出来た」
「えぇ!?嘘だ」
「酷い。だって倒せたもん」
嘘だろうと言わんばかりに昆はテレビを見つめた。赤い帽子のおじさんがお姫様からキスされていて顔を赤くしている。こんなにもおじさんは頑張ったのに、お姫様からはキスしかしてもらえないというのなら、結構シビアな世界なのではないだろうか。おじさんは命を張っているのに。
我が家のおじさんは私がクリアしたことを心底悔しがっていた。負けず嫌いな人ってこういうところが面倒だよなぁ。
「ただのゲームでしょ」
「…悔しい」
「はいはい」
「悔しい!本当に悔しい!」
「ハマり過ぎだよ」
「ハマってないよ。ただ、もう一度やりたいだけで」
「それをハマってるって言うの」
困った人だなぁ、と私が立ちあがろうとすると、昆に腕を掴まれた。まさかまた同じゲームをやる気なのだろうか。昆の性格からして、極めるまではやり続けそう。だけど、私としては今やったばかりのゲームをまたやるのはつまらないから別のゲームがしたい。せめて別の日にして欲しい。
「また明日にしようよ」
「やだ。まだやる」
「明日も仕事だよ?」
「大丈夫。起きれるから」
「起こすのは誰?」
「なまえ」
「嫌だよ。起こすの大変なんだからね?」
「分かった。じゃあ、別のゲームにしよう」
「何が分かったのよ」
「ねぇ、やろうよ。ねぇ」
「子供じゃないんだから駄目。寝るよ」
「ねぇ、お願い。やろうよ」
「しつこいよ」
別のゲームなら、と思ったけど時計を見ると日付が変わっていた。いつまでもゲームをやっているわけにはいかない。昆は明日も仕事だし、寝るのが遅くなった日はなかなか起きてくれないから起こすのも大変なのだ。おまけに、寝起きの機嫌が悪いことも既に知っているのだから、早く寝てもらわないと困る。実際、昆だって大変だろうに。
私がコントローラーをしまって寝室に行くと、昆がそろそろと着いてきた。だけど、まだゲームをやろうやろうと誘ってくる。しつこい。子供だって我慢出来るのに、何なのよ。
「ねぇ、お願い。あと少しだけ」
「やりません」
「ねぇー。ねぇー」
「怒るよ」
「…じゃあ、明日ね」
「はい。おやす…いや、待って!」
「え?」
「何で脱がせようとするの!?」
「ヤるから」
「しません!何時だと思ってるの」
「0時半」
「寝るの何時?」
「2時かな」
「馬鹿!寝るよ!」
ほら、と昆の腕を引っ張ってから頭を乗せる。本当に早く寝ないと明日起きられなくなる。私は日中にお昼寝することも出来るけど、昆は無理だから寝かさないと。
私が目を閉じると、パジャマの裾から手が侵入してきた。全然寝ようとしていない。この人、全然寝ようとしていない。
「やめて。無理」
「ねぇ、したい」
「今日は駄目」
「どうして?」
「もう遅いから駄目」
「大丈夫、大丈夫」
「……昆。本当に怒るよ」
「…ちっ。はぁー…」
私が嫌がると、流石にそれ以上のことはしようとはしてこなかった。諦めて私を抱き締めてから、ぶつぶつと文句を言っていたけど、それもすぐにおさまって寝息が聞こえてきた。何よ、やっぱり眠かったんじゃない。
翌日、昆はとても不機嫌だった。眠いだのゲームをもっとしたかっただの、エッチまで断られて寂しかっただのと文句ばかり言っていた。眉間に皺を寄せて朝ごはんを食べ、怠そうに家から出て行く姿を見て、溜め息が出る。本当に子供なんだから。ゲームは一日一時間までとルールを決めないと駄目かもしれない。いってきますのキスもせずに出て行ってしまって、まるで喧嘩しているよう。やれやれ、とリビングに戻ろうとすると、玄関のドアが開いた。ぜえぜえと息を切らせた昆が戻ってきて、つい驚いてしまう。どうしたのだろう。
「えっ、忘れ物?」
「そう…」
「なに?取ってくるよ」
「待って」
「ん…っ」
「いってきます」
私にキスしてから時間がやばい、と昆は慌てて出ていった。わざわざこんなことのためだけに戻ってきたのだろうかと呆れてベランダに行く。上から見下ろしていると、昆が心なしか早足で歩いていくのが見えた。私がヒラリと手を降ると、昆はいつものように振り返り、私に向かって手を振った。
赤い帽子のおじさんは世界を救ってもお姫様からほっぺにキスしかしてもらえないのに、あの人はどんな状況でも私にキスしてこようとするのね。まぁ、私はお姫様ではないし、別に惜しむほどの唇を持つわけではないからいいんだけどね。
ちなみに、その日の夜はタイマーをかけてゲームをして、ちゃんと早い時間にベッドに入った。ただ、寝た時間は決して早いとは言えなかった。その理由はお察しの通りである。
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