雑渡さんと一緒! 271


「ふ、ふふふ…」

「…何が可笑しい」

「いや、だって…」

「私にだって苦手なものくらいあるよ」

「そうね。に、人間だもの」

「なに。馬鹿にしてるの?」

「いや、可愛いなぁ…って思…っ、あはは」


二人で遊園地に来てみた。これも公園を作るための視察の一環だ。社長がえらく乗り気で、相当の予算をかけてもらえるようだが、経理部がその資金繰りに躍起になっていて忙しいなんてもんじゃないと佐茂が愚痴を言っていた。
で。小さな遊園地を併設するかどうかが議題に上がり、こうして地元の小さな小さな遊園地に来わたけだ…が。


「あー…まだ鳥肌立ってるんだけど」

「ねー。怖かったねー」

「またそうやって馬鹿にして…」

「いや、だってまさか昆はお化けが苦手なんて…」

「私は理系だから、科学で証明できないものは嫌いなの。生理的に受け付けないだけで、別に怖くなんてないから」

「そっかぁ。じゃあ、お化け屋敷のお化けさんは人間だよ。科学で証明出来ないことは何もないから、もう一度行く?」

「…ごめんなさい。お化けが怖いので許して下さい」


お化け屋敷なんて生まれて初めて入った。所詮は作り物であり、人間が恐怖を感じるように作られた紛い物だ。そんなことは分かっている。分かってはいたけど、私も人間だ。紛い物であろうが何だろうが、驚かせるように作られたものに反応することは何もおかしなことではない。そうだ、私は間違っていない。むしろ正常な反応をしている。
情けない自分を懸命に正当化する言葉を並べて自分を慰めてはみたものの、やはり情けないことには変わらない。こういう時は怖がる女を男がリードするものだと思っていたが、どちらかといえばなまえが恐怖のあまり立ちすくむ私の手を引いてくれていた。情けない。実に情けない。


「まだ落ち込んでるの?」

「だって…」

「大丈夫だよ。可愛かったから」

「それは褒めてるの!?」


いいから次、と手を引かれる。まるで子供のようにはしゃいでいるなまえは目を輝かせていた。こんなにも喜ぶのなら、もっと早くに来たらよかった。というか、こんな地元の小さな遊園地ではなくて、県外の大きな遊園地に連れて行ってあげればよかった。あまりにも縁のない施設だったから、頭の片隅にもなかった。


「次はあれに乗りたい」

「はぁー。子供騙しな」

「もう。いいから」


次に並んだのはジェットコースターだった。小さな子供も並んでいるところをみると、それほど怖くはないのだろう。そう思っていたが、いざ乗ってみるとなかなかに恐ろしい。カタカタと音を立てて昇っていくのと同時に冷や汗が出た。


「…これ、怖い?」

「うん」

「えっ、怖いの!?ねぇ、怖いの!?」

「ほら、もう落ちるよ」


高低差とか、落下速度は大したことはない。そうだ、子供が乗れる程度の代物なのだから大丈夫だ。この気休め程度の安全バーでも身の安全を保証されているのだから…と自分に言い聞かせたけど、やはり怖いものは怖かった。なのに、落ちた後には言いようのない爽快感があった。
落ちた後、なまえと顔を合わせて笑い合う。お互い髪が乱れていて、何故だか分からないが、無性におかしかった。
昼にハンバーガーをベンチで食べ、地図を見ながら次はどこに行こうかと話し、ほぼ全ての乗り物に乗った。小さな遊園地だというのに閉園時間まで遊び尽くすことになるとは思わなかった。そして、最後に残しておいた観覧車に乗り込む。


「わぁ。夕陽が綺麗」

「本当だ」

「うちでは観覧車は最後って決まりだったんだ」

「何で?」

「分かんない。寝ちゃうからかな」

「あぁ、成る程」


そりゃあ、あれだけ騒いだ後にこんなゆっくりとした乗り物に乗れば子供なら寝てしまうのも納得出来る。
遠くに見える海に夕陽が反射して、とても綺麗だった。車から観覧車なんて何度も見たし、この遊園地の存在も知っていた。だけど、自分が来たいとは思ったことがなかった。こういう所は子供が来る所だと思っていたからだ。実際、子供連れが多かった。ただ、子供がいなくても全然楽しかった。正直、予想以上に楽しめた。また来たいと思えるほどに。


「何でだろう。帰りたくないなぁ」

「私も子供の頃、よくそう言って泣いたなぁ」

「ほぉ?で、どうなったの?」

「観覧車に押し込められて寝た」

「あー。これ、そういう使い方するものなの?」

「違う…と思うけど、うちではそうだった」

「ふーん…」


成る程、よく出来てるものだ。しかし、遊園地か。私も子供の頃に来ていたら、なまえのように帰りたくないと駄々をこねたりしたのだろうか。いや、しないだろうなぁ、私は。例え楽しくても、全然楽しくない風を装ったりしそう。だから私は周りからつまらないと言われるのだろうな。今日だって楽しかったのに理屈っぽいことばかり言って…
帰りたくないのも相まって感傷的になっていると、隣になまえが座った。ほんの少し観覧車が揺れて、ヒヤリとする。


「どうしたの?」

「昆が寂しそうな顔をしていたから」

「そう?」

「楽しかったもんね、今日」

「…うん」

「はしゃいでいたし」

「えっ。私が?」

「えっ、気付いてなかったの?」

「…楽しそうにしてた?」

「うん。えっ、本当は楽しくなかったの?」

「いや、すっごく楽しかった」

「でしょ?また二人で来ようね」


そっと寄り添ってくれるなまえの肩を抱く。今日一日本当に楽しかった。情けない姿を何度も見せてしまったし、エスコートなんて全然出来ていない。子供に混じって楽しむことが初めは気恥ずかしかったけど、どの乗り物も子供騙しと馬鹿に出来ないくらい楽しかった。次は意地を張らずに全力で楽しもう。情けない姿を見せてもいいんだ。なまえならどんな私だって優しく受け入れてくれるのだから。


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