雑渡さんと一緒! 275
最近、なまえがおかしい…ような気がする。前に心臓病で倒れた時のように感じる違和感がある。だけど、その違和感が非常に妙だった。食欲がないのかと思えば急に食べてみたり、食の嗜好が変わったり。いつも疲れてそうで、怠そうだし。
「なまえ、しよ?」
「ごめん。今日もちょっと眠くて…」
「…そう」
あと、夜の営みを拒否したり。何か怒らせるようなことをしただろうかと思ったけど、どうもそんな雰囲気ではない。会話だったり、雰囲気だったりは何一つ変わらない。だけど、何日も何日もセックスを拒まれた。
何でなんだろうか。例によって体調は悪くないと言う。そして、本当に体調が悪いという感じはしない。だけど、どこかおかしい。言葉にはし難いが、何となく違和感がある。これはもしかして、あれなのだろうか。倦怠期…というやつなのだろうか。出会って早いもので六年目、倦怠期に遂になってしまったのか。それとも、もう私を男としては見られなくなってしまったのだろうか。あのいつも気怠そうな感じ…もし倦怠期だったらどうしたらいいんだろう。私は出会った頃のようにまだ全然好きなんだけどな。普通にときめくし、一緒にいて楽しいし、可愛いと思う。倦怠期…うわ、本当にどうしよ…
「はぁ…」
「部長、どうされました?」
「いや、お前の家ってさぁ…」
「はい?」
「…いや、何でもない」
陣内の家庭が倦怠期ではないことくらい分かっている。先日六人目の子供が生まれたのだから。44歳で子供が六人とはなかなかにハイペースなのではないだろうか。
一体、どうしたらいいのだろうか。花とか贈ればいいのだろうか。いや、何か違う気がする。女心はよく分からないが、贈り物でなまえの心が動くとは考え辛い。あの子はそういう子だ。喜んではくれるけど、そんな物を贈ったくらいで簡単になびくような安い女ではない。そこがまたいいのだけど、残念ながら今は少し困る。では、家事か。そうだ、家事だ。怠いと言っているのだから家事を今よりも担えば…あぁ、いや無理だな。先日も家事は気分転換になるから好きだと言っていた。おまけに、私が出来ることなんて何となくの掃除とゴミ捨てくらいのものだ。他は出来ない。本当、無能だよなぁ…
「お。珍しく落ち込んでんな。どうした?」
「あー…久しぶり」
「忙しいんだよ!お前に億を超える融資を依頼するために走り回る俺の気持ちが分かるか!?早く公園を作ってくれよ!」
「いや、そんなこと私に言われても」
「折角、二人目が出来たのに家に帰るに帰れねぇんだぞ!?」
「二人目?もう二人目なの?」
「おう。まだ初期だけど。次は男の子がいいなぁ」
「はぁー。お前のところも幸せそうで…」
あれ、もしかしてレスにそう簡単になってる家庭ってまさかうちだけなの?だとしたら私に問題があるということ?
ずん、と心が重くなる。別に自分の容姿なんて好きでも何でもない。性格だっていいとは言えないし、男らしいかと問われたら女々しい部類であるという自覚だってある。だけど、それでレスになるの?どんな私も好きと言ってくれたのに?もう完全に私のことを否定しているじゃない。嘘でしょ…
「…どうしよ。泣きそう」
「は?どうした?」
「なまえに男として見られなくなった…」
「あぁ、雑渡が男として…は!?お前が!?」
「どうしよう、佐茂。どうしたらいいと思う?」
嫌われてはいないんだ、多分。だけど、身体を重ねたりキスすることは嫌がるんだよ。いや、露骨に嫌がったりはされない。それとなーく避けられる。セックスもそうだけど、キスも出来ない夫婦って何?そんなに私が嫌なのだろうか。
あ、やばい。本当に泣きそう。こんなにも好きだという気持ちがあるのに、レスになるのが唐突過ぎる。せめて予兆が欲しかった。そうしたら心の準備が出来たのに。いや、前もって知らされていても心の準備なんて出来なかったかもしれないけど。多分、いや、絶対に出来ないけど。だって、そんなことを言われたって好きなものは好きなんだから仕方ないじゃない。なまえのことを一人の女性として愛しているのに!
「お前、どうせなまえちゃんを怒らせたんだろ」
「失敬な。ちゃんと仲直りした!」
「じゃあ、あれだな。過去に遊び過ぎたんだろ」
「…その報いだと?」
「そう。因果応報だろ」
「そんな!今更どうしたらいいの!?」
「さぁ?」
冷たいことを言う佐茂を殴りたくなった。人が本気で悩んでいるというのに、こいつは…っ。苛々して、煙草の本数が増えていく。一体、どうするのが正解なんだろう。髪型を変えたりとか、アクセサリーや香水をつけてみるとか?いや、そんなことで何事もなかったかのように求められても嫌だな。そんな見た目で想いが変わる程度の愛情なら、結局はすぐに消えてなくなる。そもそも、見た目で判断されるのが好きではないし、多分だけど、なまえはそんなことでは変わらない。
色々と思い悩みながら今日も家に帰ると、なまえはいつものように食事を用意してくれていた。だけど、なまえの分が随分と少ない。またダイエットでも始めたのだろうか。
「もっと食べなよ」
「実は待ちきれなくてつまみ食いしちゃって…」
「は?」
「…ごめんね」
「いや、いいけど…珍しいね」
「最近、お腹が空くと気持ち悪くなるんだよね」
「…それ、病院には行ったの?」
「行ってない。ただの夏バテだから大丈夫」
そう言って一口ほどしか入っていないご飯茶碗を手にしたなまえは困ったように笑いながら「太っちゃったしね」と言った。太った?どこが太ったというのだ。どちらかと言えば痩せた。何か…何かおかしい。だけど、何がおかしいのか分からない。いつもより元気がないように見えるけど、別にダイエットしようとしている風でもない。何だろう。何かが引っかかる。何かがおかしい。それが何かは分からない。だけど、違和感がある。何だろう、何かもうよく分からない。
私が溜め息を吐くと、なまえは首を横に傾げた。可愛いけど、やっぱり痩せた気がする。最近、裸を見ていないからはっきりとは言えないけど、なまえは全体的に痩せて見えた。
「…ねぇ。したいんだけど」
「うん」
「えっ、いいの!?」
「うん。今日はお昼寝いっぱいしたから」
「ほ、本当に!?」
「えっ、うん…」
「よし。もうご飯どころじゃない」
「は?駄目だよ、ちゃんと食べてからお風呂に入って」
「いいよ、もう」
「よくない。そんなこと言うならしないから」
「…分かったよ。ちゃんとする」
「お利口さん」
笑い掛けてきてくれたなまえを早く抱きたくて、うきうきと洗い物をして、烏の行水の如く風呂に入り、なまえの髪を乾かす。よかった、倦怠期じゃなかった。なまえに嫌われていなかった。ちゃんと男として見てもらえていた。その事実が嬉しくて、そわそわしているとなまえに笑われた。
寝室で服を脱がせてじっくりとなまえの肌を堪能させて貰っていると、なまえの身体に違和感を感じた。痩せた、とかではなく、どことなく女性らしい身体になった。いや、別に今までが女性らしくなかったというわけではないんだけども。
「…?」
「昆?どうしたの…?」
「…いや、何でもない」
どことなく肉付きがよくなった。主に胸と腹。だけど、鎖骨が浮き出ていて、痩せて見える。何だろう。成長期??
まぁ、とりあえず今はいい。ようやくなまえを抱けるのだから。この数日ずーーーっと我慢していたから、なまえの肌を堪能出来ることが嬉しくて嬉しくて仕方なかった。だから私は感じている違和感はただの気のせいだと思うことにした。結果として、やはり私が感じていたそこはかとない違和感は間違っていなかったと分かるが、それはあと少し先の話だ。
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