雑渡さんと一緒! 290


「おや。もう随分と大きいね」

「わぁ、おばあちゃん」

「アキさん、ありがとう。ハルは?」

「あいつは今、仕事でインドさ。子供が生まれたら来るそうだよ。それより、本当に泊めてもらってもいいのかい?」

「うん。お部屋ならたくさんあるから」


おばあちゃんが我が家にいる。すぐに帰らず、しばらく側にいてくれる。それが嬉しくて、おばあちゃんに抱きついた。大好きなおばあちゃん。みーちゃん、しばらく生まれなくてもいいよ、なんて。だけど昆の手前、そんなことは言えなかった。昆は早くみーちゃんに会いたそうだった。ただ、生まれるまでの過程が心配で、そわそわとしていた。私はというと、あまりにも元気だから出血なんかしないんじゃないだろうかと思っていた。妊娠中、特にトラブルらしいトラブルも起きず、こうして臨月を迎えられたのだから。
おばあちゃんにベタベタとくっ付いていると、昆は何となく私たちと距離を置いた。邪魔してはいけないとでも思ったのかもしれない。だけど、だとするなら昆はまだおばあちゃんがどんな人なのか理解出来ていないということになる。


「何してるんだい。お婿さんも来な」

「…は?」

「ほら、抱き締めてあげるよ」

「い、いいよ!子供じゃあるまいし…」

「何だい。素直じゃない子だね」


仕方ない子だよ、とおばあちゃんは昆の所に行ってハグをした。海外ではハグなんて当たり前の文化だ。だけど、おばあちゃんは向こうに行く前からこういうことをする人だった。血が繋がっていなくても、家族は家族という考え方をする人だから、スキンシップが激しい。あのお父さんに対しても。


「は、離して!ねぇ、やめて!」

「はいはい。いい子だね」

「子供扱いするな!私を幾つだと思っている!?」

「ねぇ、カイはどうしているの?」

「あぁ。検疫の関係ですぐには引き取れなかったんだよ。この家に連れてくるつもりだけど、別に構わないだろう?」

「うん!楽しみだなぁ」

「私を無視しないでもらえる!?」

「なまえ。後で一緒に買い物に行こうか。ひ孫の服を買ってあげるよ。それと、なまえにもね。車、出してくれるかい」

「うん。ね、昆」

「いいから離してってば!」


そろそろ昆が本気で怒り出しそうだから、おばあちゃんから救い出す。よかったね、ハグしてもらえて。おばあちゃんのハグは力強いから好きなんだよね。昆とはまた違った包容力がある。優しく包み込んでくれる感じがするんだよね。
もう疲れましたと言わんばかりの昆に連れられてショッピングモールに来てみた。おばあちゃんは服を買ってくれると言ったけど、既にうちには昆が買った信じられない量の服がある。ふわふわのドレスとか、可愛いレースの靴下とか、何ならリボンまで用意されている。おくるみは勿論可愛い刺繍がされているし、ブランケットはびっくりするくらい手触りのいいものだ。生まれる前から親バカ全開、って感じ。


「生後一ヶ月までは外に出られないんだから安い肌着でいいんだよ。レースの服なんて寝苦しいだけだからね。綿なら何だっていいんだよ。ほら、これとか可愛いんじゃないかい」

「…やだ」

「おや、気に入らないのかい」

「未來は女の子なんだ。そんな青い肌着なんて…」

「そうかい。じゃあ、これなんてどうだい?」

「そんな濃いピンクは未來には似合わないよ」

「何だい。お婿さんは気難しいね」

「未來はね、なまえに似て愛らしい顔をしているんだ。そんな濃い色よりも、絶対にこっちの方が似合うから」

「淡い色は汚れが目立つよ」

「いいんだよ。何枚でも買えばいいだけなんだから」

「そういう考え方はよくないよ。これから金がかかるんだから、ちゃんと絞れるところは締めないと駄目だ」

「いいんだ、私が稼いでくるから」

「おや。これは頼もしい父親じゃないか。ねぇ、なまえ」

「えっと、ねぇ…」


もっと、仲良く買い物をして欲しいんだけど。そんな睨み合いながらみーちゃんの服を選ぶなんてやめて欲しい。二人とも仲良くしてよ、と私が言うと、昆とおばあちゃんは見合ってからお互いにいいと思う服を手に取った。
こんな感じでこれから大丈夫なのだろうか。子供が生まれてからもおばあちゃんには側にいてもらうことになっているというのに。だけど、その心配は杞憂であると分かった。


「あ、今日はアキさんの煮物だ。美味しい」

「おや、分かるのかい」

「分かるよ、そりゃあ」

「なまえのとそんなに味が違うかい?」

「違うけど、美味しい」

「そりゃあ、よかった。お婿さんは働き盛りだからね。いっぱい食べるんだよ。あんた、痩せ過ぎなんだよ」

「いや、もう少し絞りたいんだよね」

「そうかい。じゃあ、食後に走るかい?」

「いいね。是非」


仲が悪いと思いきや、案外仲良くやっている。昆もおばあちゃんもコミュニケーション能力が高いから、打ち解けてしまえば何の問題もなさそうだった。
食後、本当に走りに行ってしまったから家でポツンと一人で過ごす。今日はどこまで行ったんだろうかとベランダから外を見ると、ぎゅうっとお腹が痛くなってきた。いや、でも気のせいかな。前駆陣痛とかいうのもあるし、予定日まではまだ日もある。そうこうしているうちに、お腹の痛みはなくなってしまった。気のせいだったのかな。それとも前駆陣痛?10分間隔とかいうけど、10分待っても痛みはこなかった。
何にしても、もうすぐだ。もうすぐ会える。昆はどんな顔をするんだろう。きっと、泣くんだろうなぁ。泣きながら可愛いって言うの。それは何よりも幸せな瞬間なんだろうなぁと思った。その瞬間を自分が見ることが叶わないとは知らず。


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