惹かれた心

なまえに落ちたのはたった一瞬の出来事だった


あの日俺はここ MANKAIカンパニーに入った、兵頭を追って。絶対負かしてやると思ったでも兵頭の大根演技に俺はバカバカしくなった、こんなヤツに負けたのかよ演技俺の方が全然上手いわ、と。

そして適当にやったポートレート、やっぱり兵頭なんかより俺の方が上だった。張り合いがねえ、これじゃあいつもと同じだ、演技であいつより上にいけたから俺はそれで満足して寮を出て行くことを決めた。必死に止めてくれるやつもいた、監督ちゃんにも悪いがもうここにいる理由もねえ、あんな大根に俺を越えられるはずがない。そう思ってた時だった


「なまえちゃんも止めて!」
「・・・・止める必要ないんじゃないですか?」
「えっ!?で、でも、」


監督ちゃんが側にいたなまえにも言葉を求めたが、なまえはそう言い、ゆっくりと顔を上げて冷たい目で俺を見た


「やる気のない人がいても足を引っ張るだけですから、ね?左京さん」
「ああ」
「みんなは本気で演劇がしたいんですよいづみさん」
「万里くんだって、!」
「彼のポートレート見ましたよね?私は何も感じられませんでした。それに器用にこなしているのは分かったけど感情が入ってないし、あれなら演技力はないけど、一生懸命に伝えようとしている兵頭くんの方が断然演技の才能がある」


何も言えなかった。適当にやったからなのか、なんなのか分からないが俺を拒絶する言葉を投げかけてくる彼女に俺は衝撃を受けた。女にここまで言われたのは初めてだったからかもしれない、悔しい、こいつを認めさせたい、俺の中でそんな想いが沸々と沸き上がってきた、

そして、とどめの一言


「摂津くんはまた、兵頭くんに負けたんですよ
まあ、私の中ではですけど」


左京さんがよく言ったとばかりになまえの肩に手を置いた。また、負けた?俺が?あんな大根に俺が?ありえない誰がどう見てもあれは俺の方が上だろ、それなのに、なんで、あの時言われた言葉を思い出した


「あんな適当にやった演技、見る人が見ればすぐに嘘だとわかる」


ああ、そうだ、そんな風な言葉を誰かにも言われた。今もなまえは俺に再び突きつけた。負けたくねえ、もう誰にも、おかしいさっきまであんなにつまんねえと思っていたのに、なまえの言葉でもう一度、俺は・・・迷っている俺に追い討ちをかけるように監督ちゃんにも説得されて結局ここに残ることになった。

あの後太一の件があったこともありなまえとまともに話すことすら出来ずに秋組公演は千秋楽を迎えた。俺の心に火を灯してくれたなまえに怒りをぶつけるのではなくお礼を言いたい。


「なまえ!あ、あー、ちょっといいか?」
「・・・・なに」


たまたま自室の前を通りかかったなまえの腕を咄嗟に掴み離さんとばかりに力を込めてしまい少し睨まれた。俺この間から睨まれてばっかじゃね、


「その、さ、」
「・・・・」
「あー、と」
「・・・・さっきの演技今までで一番よかった」
「えっ」
「ちゃんと感情入ってた摂津くんの良さが出てた」


なんでこいつはこうも俺が欲しい言葉を的確に投げてくるんだよ。しかも、そんな笑顔初めて見た、かわいい・・・じゃねえ、俺もちゃんと言わねーと


「ありがとな、あん時その、なまえの言葉で火着いたっつーか、」
「うん」
「まじで、すげー熱くなった」
「そうだね」
「これから真面目に演技に向き合ってくから見ててくんね、?」
「もちろん、応援してる」


ぎゅっと、左手を両手で包み込まれた。なまえの体温がじんわりと伝わってきて微かに頬が熱くなるのが分かる、いつもなら女にこんな事されてもはいはい、と遇らうのに今はそんな事出来ない。むしろずっとこの体温を感じていたい


「なまえ、俺、」
「なまえ〜限定ガチャ時間きたから引いて〜〜〜〜」
「咲也じゃなくていいの?」
「今日はなまえの気分」


おい、さっきまでの甘い雰囲気どこいった、後俺はなまえに何を言おうとした。早まるな、時間はまだある。言葉を遮った挙句になまえの腰に手をまわして部屋に連れて行く至さんを見てキレそうだったのを抑えた、いや、部屋に入り際に俺の方を見てる口角を上げた至さんを見て悟った、この人わざとだろ・・・・

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